第1話 父

この世界での父は、傭兵団の団長の父と娼婦の母の元に生まれたらしい。


物心つく前から武器を持たされ”強くあれ”と訓練され、死んだらそこまでと10歳の頃には戦場に駆り出されたという。


その後、14歳で傭兵団の団長であった父は亡くなり、その後も身寄りもなく、傭兵団の仲間が自分を置いていくなか一人で生計を立てるべく戦場での戦いしか知らなかった父は、23歳になるまで雇われの傭兵として戦場へ行き生活していた。 


その間に傭兵団や騎士に誘われることはあったそうだが、信用に欠ける相手ばかりで断り続けたのだそうだ。


戦場で一緒に戦っていると気が合った者がいたのだろう、その傭兵と一緒に仕事をするようになり、最初は2人であったが段々と数を増やし傭兵団と名乗れるほどに拡大していき最後にはその傭兵団の団長となった。


最初は傭兵団の団長になどなりたくなかったそうだが、凄まじいほどの怪力、優れた状況判断能力、そして何より誰よりも信用できる人間であったことから無理矢理に近い形で団長になった。


凄まじい怪力のことで父の仲間の一人に聞かされた話でいうと、撤退戦の際に大人が抱き着いても両手が届かないくらいの大木を引っこ抜いて、敵にぶん投げて時間稼ぎしたらしい。


もはや意味が分からない。


傭兵団となり、規模も拡大しながら各地の戦場で優れた戦働きをみせ、貴族などに勧誘されるも下心しか見えない、信用に値しない者ばかりで断ってたそうだ。


もちろんそのことをよく思わない貴族から刺客が送られてきたりや露骨に最前線へ送られたりしたもののその全てを跳ね除け、戦死者は4名ほどしかでなかったらしい。


27歳になる位の頃そんな父にも転機が訪れた。


その国の最強を決めるコロシアムの大会にとても強力な魔力の込められた大斧が賞品として出ると告知されているのを発見、その大斧は、加重の大斧という名で、そもそもが扱えるものがまず居ないとんでもなく重たい大斧だ。


魔力を込めれば込めるほどその重さを増し、更に振る対象には更に重い一撃を与えることが可能な人を選ぶが使いこなせば無類の強さを誇る武器となっていた。


かなりいい大剣を使ってはいたものの力を持て余していた父はこれ幸いと力試しも込みのつもりで参加したが圧倒的なパワーで苦戦することなく優勝。


その大会を見どころのある者が居れば騎士にスカウトするために来ていたその国の騎士団団長が見に来ており、父を数日、数週間に渡り超熱心にスカウトし、傭兵団の全員をそのまま騎士団の一部隊として雇う事と、わざと消耗品のように戦わせるようなことをしないというのを条件に受け入れた。


その後は、もちろん礼儀作法がわからないだとか、常識が無かっただとかで苦労することはあるものの数年戦争に出て騎士として戦い活躍し名声を得た。


その時に敵につけられた二つ名は”爆風”。


大斧を振るうたびに人が弾け飛び様子とその時に鳴る音がまるで”爆風”の様だったことから”爆風”と呼ばれたとかなんとか。


だが成り上がり者が活躍すればするほど、妬みや僻みは生まれてしまうもので、公爵だかの息子が戦場に出た際に、父の部隊があまりにも活躍し過ぎて目立った活躍出来なかった事を妬んだ。


そして、地位にものを言わせ味方の一部隊に敵の衣服や鎧を着させて拠点を作らせ、そこを父の部隊に攻撃させて、裏切ったことにし、それを自分が指揮を任されている騎士団を指揮し打ち取り、手柄を上げることにした。


父が罠だと気付いたのは、隊員の何人かが敵兵の顔に見覚えがあり仲が良かったからだった。


罠だと気付いた父は万が一に備え撤退するための道を仲間の隊員に偵察、確保させようとしたが、そこに潜んでいたのは元は仲間であったはずの公爵率いる騎士団による包囲。


その報告を受けた父は、既に包囲されており、移動につかう馬も渡されなかった為簡単には逃げ切れないと考え最も厚い部隊の位置に対し居るであろう指揮官を潰し指揮系統の混乱を狙い正面突破を実行。


父が率いた76人の部隊だったが、敵の強力な魔法や包囲を前に一人一人倒れていったものの、騎士団を率いていた公爵の息子、偉そうな鎧を着た騎士を優先的に倒し突破に成功。


率いた部隊も50人を下回る数に減らしたが、多大な被害を受け指揮系統も麻痺し撤退戦へと移行。


そこでさっきの大木投げが行われ撤退に成功した。


……だが味方を裏切り、貴族を殺したと言われた者にできることは逃亡の日々。


部隊の仲間の中には家族が居たものも居たが、裏切り者の家族として全員処刑。


勧誘した騎士団長も敵国に寝返った事と捏造され、自宅を強襲され抵抗むなしくその家族諸共処刑された。


共に戦ったことのある者たちも、処刑を恐れ声をあげることもできなかった。


復讐を誓った父とその仲間は盗賊のようなものとなり、来る追っ手から時には逃げ、時には撃破していき、出来る限り食料は魔物を狩る等して確保するがそれにも限界がある。


……だからこそ生きていく為に、村を襲い食料を奪った。


だが決まりはある、戦う意思の無い村人には手を出さず、食料を奪う代わりに敵から得た金品などを渡す。


それが盗賊のようになってしまった自分達ができる精一杯のことだった。


国を裏切った逆賊を討伐しようとするも手痛い反撃を受け、人員の消耗を恐れた国は強者揃いだが雇うのに金が掛かり、そして権力を恐れない者も多い冒険者達に対し大金を注ぎ込み大量に雇い討伐しようとした。




その冒険者の中に僕のこの世界での母が居た。

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