第4話 どうしようもない外れスキルで、そして当たりスキル
フロストブレスのダメージの深刻さで、俺は片膝を突いて負傷に耐えていた。
そこに、ノースが近づいてきて。
リフレッシュの魔法を掛けてくれた。
対象者を完全な健康体に回復させてくれる、回復魔法の最上位……!
俺の凍傷を負った身体は、あっという間に完全回復した。
「ありがとうノース」
俺は彼女に礼を言う。
すると彼女は
「カムイっぽい人、あとはネクロスだけよ。……絶対に生きて帰りましょうね」
厳しい表情で、彼女は神殿の奥を強い瞳で見つめつつ。
そう俺に言葉を掛けたんだ。
……三流冒険者からそっくりさんか……。
4階に着いた。
俺たちは巨大な扉の前に立っている。
もうすでに3回目の熱湯コマーシャルは使用済みだ。
「ノース、イツキ、そしてカムイっぽい人。ネクロスは恐ろしい邪教徒じゃ。それを決して忘れるな」
ネクロスはこの大神殿の建っている島に元々存在した小国をたった1人で滅ぼし。
その王城だったここを、大神殿に流用した男。
その使用魔法はすさまじく。
そしてヤツ自身もスキルを持っていると聞く。
それが何であるかは分からないが……
絶対に負けられないんだ。
世界を救うために。
「やろう! 皆!」
「ええ!」
「うん!」
俺の呼びかけに、ドヴェルク以外の2人が応じてくれた。
そして俺たちは、巨大な最後の赤い扉を蹴破るように開けて、雪崩れ込む。
そこには……
「フハハハハハハ! 待っていたぞ正義の勇者様よ!」
漆黒の法衣に身を包んだ、屈強な肉体を持つ男がいて。
その男は両腕を大きく広げて何かの儀式をしていた。
その儀式は終了直前のようで……
巨大な魔法陣から、触手を無数に備えた。女の人面が出現しようとしていた。
――すでにもう、邪神召喚は成っているのか。
これは苦しい戦いになる。
決断は必須だ。
俺はそう思い、大剣を握り直した。
ノースは杖を構える。
イツキはナイフを。
そしてドヴェルクは斧と盾を構えて、俺以外の2人を庇う位置につく。
そのときだった。
「返り討ちにしてくれるわ! スキル発動! 喰らえ!」
ネクロスのその言葉。
その言葉が発せられたとき。
信じられないことが起きた。
ノースが全裸になった!
イツキが全裸になった!
ドヴェルクが全裸になった!
そして俺も全裸になった!
「きゃあああ!」
「うわー!」
「なんと!」
ノースとイツキが顔を真っ赤にして身体を隠してしゃがみこみ。
ドヴェルクは驚きはしたが、残った盾と斧で自分の役割を果たそうと前に出る。
俺は俺で、股間を隠しながら片手で大剣を構えていた。
これは一体……!
そんな混乱する俺たちに、ネクロスは勝ち誇るようにこう言ったんだ。
「我のスキル『電波少年的懸賞生活』は、スキル効果範囲内のニンゲンを強制的に全裸にする!」
……何だって……!?
俺は戦慄した。
このスキルを駆使して、この男はこの島を制圧したのか。
島を守護する兵隊が、突如全裸にされて混乱しているところで、ネクロスに一方的に攻撃されて倒されていった様子を俺は脳裏に思い浮かべる。
「女の子の服をいきなり全部脱がせるなんて何て非道なの! あなたに人の心は無いの!?」
ノースの抗議。
だがネクロスは取り合わない。
「スキル持ちがスキルを使って何が悪いのかね?」
そう、勝利を確信した顔で言う。
自分はきっちり服を着ているので全く恥ずかしくない。
何て卑劣な……
「どうした? 我を討伐しに来たのだろう? 堂々と全裸で行動したらどうだ? 冒険者らしく!」
どうせそんな行動は取れまい。
それを分かっての言葉。
ノースとイツキが行動不能。
ドヴェルクは行動できているが、彼はタンクだ。
……だから。
俺は決断した。
股間を隠していた手を外して、大剣を両手で握りしめたのだ。
それがどうも、スキルの神は「選択ミス」と判定したらしい。
俺のスキル……「格付けチェック」が最終段階に達したんだ。
俺のスキル「格付けチェック」は、発動させると選択ミスをするたびに自身の扱いを下げる効果を持つスキルだ。
最初は1流冒険者として、仲間たちから普通の扱いして貰えるが。
ひとつ失敗して普通冒険者になると
ノースからは「カムイ」から「カムイさん」と他人行儀で呼ばれ
イツキからは「カムイ兄」から「オニーサン」と適当に呼ばれ
ドヴェルクからは「カムイ」から「若造」に
2つ目の失敗で2流冒険者になると
ノースからは「カムイさん」から「人間」に
イツキからは「オニーサン」から「クソザコなめくじ」に
ドヴェルクからは「若造」から「オマエ」に
そういう感じで扱いが落ちるのだ。
仲間たちは別に俺を普通に扱っているつもりでも、俺の耳にはそういう風に聞こえてしまうようになってしまう。
そういうスキルなんだ……。
俺はさっきまで、このスキルの最終段階の1歩手前「そっくりさん」だった。
その上で、さらに選択ミスを重ねたのだ。
そして……
俺は……「映す価値無し」になった。
同時に、俺はこの世界から消えてしまう。
映す価値無しとはそういう状態で。
俺の存在を誰も知覚できなくなる。
俺の声以外は。
「カムイ! あなたまさかまたスキルを使ったの!?」
俺のスキルが最終段階に達したことに気づいたノースが、悲痛な声をあげた。
ゴメン……この手を使うたび、彼女に寂しい想いをさせてしまうことを申し訳なく思う。
この最終段階は、治らないわけじゃない。
ただし、1年掛かる。
それ以外はいかなる手段でも回復できないんだ。
1年過ぎないと、彼女の目には俺の姿は知覚できないんだ。
それまで俺は、彼女にとっては基本「いない人」になる。
全く……とんでもない外れスキルだ。
だけど……
仲間たちを守る意味では……最強の当たりスキルだ!
「……なんだ? あの剣士の若造が急に見えなくなったぞ!? どこに行った?」
ネクロスが焦りまくり、周囲を見回している。
当然だろう。
自分を討伐に来た冒険者パーティーの、アタッカーに思えるヤツが突然見えなくなったんだから。
不安になるだろうし、焦るだろうさ。
「大邪神様! どうか我をお守りください! この部屋の生き物を我以外残らず殺し尽くして――」
焦った奴が、自分が呼び出した大邪神にそんな願いを掛ける。
だけどもう遅い。
そのときには俺はネクロスの傍で、奴を腰斬するための大剣の構え……下段脇構えを取っていて。
次の瞬間には俺は斬撃を繰り出していたから。
俺の剣は易々とネクロスの胴体をぶった斬り、ネクロスを2つにしていた。
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