第3話 キサマ水曜日か!?

 2階。

 ここにも番人がいるはずだ。


 俺たちは進みつつ、油断なく視線を巡らせる。


 目に映るのは、石畳の床に、柱。

 ここが邪神の神殿であることが、その意匠で見て取れる。

 多分、本当は違ったんだろうけど。

 どうやって、今の形に変えたのか。


「魔物が見当たらないね」


 先行するイツキがそう呟くように口にした。

 ネクロスが放った魔物たち。

 それが1階ではたくさん居たのに。


 それがこの階では全く無くて。

 これはどういうことなんだろうか?


「そうじゃのう……」


 ドヴェルクが怪訝な表情でイツキにそう返した。


「ドヴェルクは何か感じないのか?」


 俺がそう訊くと


「……特に何も……ん?」


 そのときだった。

 地響きのような足音とともに。

 巨大な鉄の塊が目の前に現れた。




 それは大きさ3メートルを超える濃青色の甲冑で。

 頭部が無く。

 片手にバカでかい剣を持っていた。

 その剣には青い体液が付着していて……

 そいつの後ろに、袈裟斬りで一刀両断にされた死骸があった。

 魔物なので、倒された後は肉体が崩壊し、消滅していく。


 ……この階に魔物がいないのは、こいつが全部殺したからか……!

 それに気づき、俺たちは緊張した。


 この階の番人は狂戦士か……!


 頭部が無いということは、イツキのスキルが効かない。

 ノースの魔法頼みということか……!


 俺は彼女を見た。

 彼女の方もそれを理解しているようで、ただちに詠唱に入ろうとした。

 杖を構えて、そして……


 そのとき


「待つんじゃ!」


 ドヴェルクの鋭い声が飛んだ。

 それは……


「お告げが降ってくる予感がするぞい!」




『あーん、なんなのぉー!? 神殿2階で謎のバカでかい鎧巨人に出会ったしん!! でも3階でその鎧巨人の頭部に出会ったしんよーー!! 散々苦労して2階の番人を倒したのは無駄だったしんかー!?』


 天から降ってくる謎の声。


 ドヴェルクのスキル……「フューチャークロちゃん」の発動だった。

 その内容は……未来予知。

 ただし、任意での発動は不可能で、天から突然降りてくる予言を聞かせるだけのスキルなのだけど。

 大体が、今回のような無視できない重要情報を含んだ未来予知なので。


「そういうわけじゃ! こいつは無視して3階を目指すべきじゃ!」


「分かったよ! 殿しんがりはお願いねドヴェルク!」


 イツキは迷わず走り出す。

 効果の不確定さにも関わらず、これは神スキルであると俺は思う。




「フハハハ! このジャイアントデュラハンの身体を打ち破って来たか! それはご苦労様だったな! しかしその疲弊した状態で我に勝てるか……!?」


 3階に到着したところ。

 そこには宙に浮かぶ兜を被った生首が居た。


 多分こいつ、身体が無いから遠距離でブレスだとか魔法とかで攻撃してくるんだろうな。

 そういう攻撃は、魔法の援護なしで対処するのは厳しいところがある。


 それをドヴェルクのスキルのおかげで回避できた。


 ジャイアントデュラハンの頭部は、俺たちが自分の身体の方をトレインしてきたことに気づいて絶句している。


「2階の番人を無視してここまで来るだと……? 普通、苦戦するなら1体ずつ倒すのが基本だろうが……!」


 宙に浮かぶ生首は、わなわなと震えていた。


 本来は、身体を倒すことでボロボロに疲弊した俺たちを、3階で悠々と迎え撃ち、遠隔で仕留めようと思っていたんだろうけど。

 残念だったな。


 すると


「ようやくまとめて焼き払えるのね」


 ノースが不敵に微笑み、杖を構えた。

 そして今度こそ、魔法の詠唱に入る。


 それは……


「それはアトミックブラスト……! させぬ!」


 そう。

 彼女の最大攻撃魔法であり、奥義。

 アトミックブラストだ。


 長い詠唱中に、発動を阻止しないと自分の負けが確定する。

 その焦りがあっての行動。


 ジャイアントデュラハンの頭部は、凍り付く極寒の吐息を吐き掛け、詠唱完成前にノースを仕留めようとした。


 空気中の水分が凍り付き、輝く吐息。


 それが彼女を飲み込もうとする。


 俺は……


 そんな彼女を庇うために、その眼前に飛び出した!


 ジャイアントデュラハンのフロストブレス。

 それは彼女を直撃せずにまず俺を飲み込み……


 その余波は、彼女の「熱湯コマーシャル」で発生した障壁に弾かれる。


 ……そう。

 実は俺のこの行為は選択ミスなんだ。


 彼女は熱湯コマーシャルのおかげで、指定時間内は絶対に発言を邪魔されない状態になっているから。

 俺が庇う必要は全くなかったワケで。


 俺はフロストブレスに凍えながら、自分の選択ミスを噛み締めた。


「アトミックブラスト! 喰らえェッ!」


 そして俺は見た。


 ノースが詠唱を完成させ、魔法を解き放つ様を。


 俺たちの周囲にあふれ出す白く輝く炎。

 それはジャイアントデュラハンの頭部と身体を飲み込み。


「グアアアアアッ!」


 その頭部の断末魔の叫びを周囲に響かせた。

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