第2話 絶対押すなよ!

 邪教大神官ネクロスが、大邪神を召喚しようとしている。

 ネクロスの計画を打ち砕き、世界を救ってくれ。


 俺たちの祖国の国王陛下が、そんなお触れを出したんだ。

 ネクロスを討った者は貴族に取り立て、多額の報奨金を与えよう、という。


 報酬も欲しかったけど、ネクロスの悪行は普段から聞いていたし。

 だから、目指したんだ。

 そしてその結果、俺たちパーティーは「最もネクロス討伐に近い冒険者」としてずっと注目されてきた。


 それで今がある。


「ネビロス、強かったね」


 ネビロスに最後の一撃を入れたイツキが、消えていくネビロスの死体を見つめながら。


「開幕にアトミックブラストを決めてからでもキツかったわ」


 ノースが苦笑いをする。

 彼女の黒魔法の奥義を叩きこんでも勝負が決まらなかった。

 大体はあれで終わるのに。


 アトミックブラストは太陽の炎を地上に召喚し、敵を焼き尽くす攻撃魔法。

 普通はそれで跡形も残らない。


 なのに、ネビロスはそれで終わらなかったんだ。


「まさか暗黒空間とこの世を繋げる防御魔法で対抗してくるなんてね」


 そう、ため息をつく。

 まぁ、なかなかそういう状況は無いだろうけどね。


 最強の攻撃魔法を、最強の防御魔法で対抗され、防がれるっていうのは。


 まだ先は長い。

 だから


「……もう1回、私のスキルを使うわ」


 彼女は覚悟を決めた顔でそう宣言した。


 無理しないでくれ、と言いたかったが。

 彼女は勝つためにはそれは最適解であると判断したんだろう。


 だから俺は大人しく見守ったんだ。


 ……彼女が服を脱ぎ、赤いビキニの水着姿になり。


 熱湯の入ったバスタブを召喚し、スキルを使う準備に入る様子を。



 彼女のスキル「熱湯コマーシャル」は、魔法使いと相性のいい最強の当たりスキルだ。

 その効果は、その場に熱湯が入ったバスタブを召喚すること。

 この熱湯バスタブは、そこに入って肩まで浸かることが出来た者に特殊効果をもたらす。

 その熱湯の熱さに耐えた時間だけ、後で言葉を邪魔されずに発することが出来るようになる特殊効果を。


 つまり、熱湯に耐えた時間だけ、魔法を心置きなく使えるようになるんだ。


 普通は魔術師の魔法詠唱は、強力になるほど阻止されるものだからね。

 魔法使いには強すぎる最強スキルとしか言えないよ。


「それじゃ、はじめるわ」


 ……正直、彼女とは肌を合わせたこともあるから、彼女が人前でこういう格好をすることに抵抗が無いわけじゃない。

 この場に居る男がドワーフのドヴェルクしかいなくて良かった。

 ドワーフは外見特徴がエルフや人間と違い過ぎるせいで、美的感覚が全然違うんだよな。

 なので、ドヴェルクにはノースは性の対象じゃ無いんだ。


 彼女はバスタブの上に上向きの態勢で覆い被さり、そのままその形のいいお尻から熱湯に突入した。

 瞬く間にバスタブに沈み、噛み付くような熱湯に晒される彼女。


 彼女は「熱い! 熱い!」と言いながら、熱湯に耐える。

 その彼女の顔は、まるで出産に苦しむ美しい女性のようで……


 俺は目が離せなかった。


 ああ、ノース……キミはなんて綺麗なんだ……!

 申し訳ないが、興奮しすぎて……ギンギンになってしまった。

 どこがかはちょっと言えないんだけども。


「あぁ、熱いよぉ! 熱いの……」


 悩ましい声。

 興奮しすぎて、息が乱れる。


 いつぞやの夜のことで頭がいっぱいになる。


 そしてとうとう


「もう限界ッッ!」


 彼女がバスタブから飛び出す。

 飛び散るお湯飛沫。


 その途端、バスタブが粉雪が山ほど入った桶に代わり。

 彼女はそのアツアツの熱湯に浸かっていたその肉体を、粉雪で必死で冷ましていた。


 でも、これなら十分な詠唱時間が取れると思う。

 次の戦いではきっと大いに役立つはずだ。


 俺は2階に続く階段を睨みながら、そう心で言った。


 そしてしばらく


 ノースが服を着るのを待って、僕らは進軍を再開する。


「いくわよ。ドヴェルク、イツキ、そして3流冒険者! 絶対に生きて帰ろうね!」


 彼女の激励を聞き。

 俺は皆と同様に、己を奮い立たせる糧にした。

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