外れスキル「格付けチェック」で俺は無双する。

XX

第1話 三流冒険者

 数十年前、とある冒険者パーティーが「旧世界の迷宮」の最深部で、封印されていた箱を開けてしまったらしい。

 その箱には、古代文字で「絶対に開けてはいけない。この中には災いが詰まっている」と書かれていたのに。


 そのパーティーは開けてしまったのだ。


 その中には確かに災厄が詰まっていた。

 それは「スキル」という災厄だった。


 その数、99個。

 世界中に散り、世界中の知恵ある種族全てに取り憑いた。


 スキルは宿主になった存在に1つの特殊能力を与えてくれる。


 たった99人の知的種族のみに。




「おい! 3流冒険者! 大丈夫か!?」


 仲間の髭面ドワーフのドヴェルクが、俺を庇って前に出て魍魎たちの攻撃を受け止めてくれる。

 俺のクラス・魔神騎士は攻撃力特化型の近接職。両手持ちの大剣を使うクラスで、あまり分厚い金属鎧が着けられず、防御力に難がある。


 ドヴェルクのクラス・重装騎士は、そんな俺の弱点を補ってくれる存在。

 機動力を捨て、ガチガチの金属鎧と、ごつい盾。そして片手斧で武装し。

 盾で敵の攻撃を全て受け止め、片手斧で敵を屠る。


 ドヴェルクには感謝しても仕切れない。


「すまないドヴェルク」


「礼は良い3流冒険者! 口を動かさず手を動かすんじゃ!」


 言ってドヴェルクは、襲ってきている「まるでオタマジャクシのような」怪物・魍魎を、その巨大な片手斧で薙ぎ払った。

 そんな俺たちを見て、勝ち誇った笑いを浮かべる影。


「ホホホホ。最初の勢いはどこへやら。このまま押し切って差し上げますよ」


 邪教大神官ネクロスが、この邪教神殿1階に配置した第1の番人。

 その名は悪魔ネビロス。


 その姿は、ガリガリに痩せ、緑と赤のローブを着た人間。

 こいつは魔法の達人であり、特に死霊を操ることに長けている。


 息をするように軽く呪文を唱え、稲妻や炎の魔法を発動させ。

 そしてまたは無数の魍魎を呼び出し、俺たちを圧倒する。


「キャア!」


 そのとき。

 俺の最愛の女性ひとが悲鳴をあげた。


 ノース。

 森の妖精族エルフの賢者で、俺の恋人。

 ブロンドのストレートヘアと、緑色の瞳が美しい女性。


 賢者は魔術師か神官を極めた者が転職できる上級職で。

 全ての魔法を習得することが出来る。

 彼女はすでに、そこをクリアしていた。


 彼女は開幕で大規模攻撃魔法アトミックブラストを放ったので、だいぶ無理をさせたのに。

 彼女は肩を押さえて、杖を構えていた。

 彼女の着ている純白の法衣が、赤い血で染まっている。


 魍魎に食い破られたのか。


「今助ける!」


 彼女を助けるために飛び出そうとした。

 けれども彼女は俺を見ないでこう言ったんだ。


「大丈夫よ3流冒険者!」


 最愛の女性ひとに名前で呼んでもらえない。

 その辛さは筆舌に尽くしがたいものがあるが……


「イツキのトークがもうすぐ終わるもの!」


 そうか。

 だったら……


 ネビロスをこの隙に、堕とす!


「トークが終わる……?」


 ネビロスは未だに気づいていないらしい。

 俺たちの秘めたチカラ……「スキル」に。


 そう……俺たちは全員、選ばれしチカラ「スキル」を持っている。

 旧世界から今の世界に散らばった、99個の力の一部を。


「……なんと、その男の子は、林檎と蜜柑の区別がついていなかったんだ。あれには大変驚いたよ」


 そのとき。

 俺と同じ人間族の女アサシンのイツキのトークが終わった。


 黒髪の少女で、髪は肩に掛からない位置で切り揃えている。

 顔つきは少し小悪魔っぽい。いわゆるメスガキ系かもしれない。


 アサシンは、元々砂漠の国に存在した暗殺者がモデルになったクラスで。

 身の軽さと、急所狙いの一撃を得意とし。

 雑魚散らしに最適な、盗賊から成り上がれる上級職だ。


 高い身体能力を要求されるクラスではあるので、彼女は小柄だったがその体は極限まで鍛えあげていた。


 その体を存分に活かし、高いバネでさっきまで「驚いた話」というテーマでネビロスの前で話をし続けていたのだ。


 その話が、今終わった。


 その瞬間だった。


「え……?」


 フレアブラストの魔法の詠唱に入っていたネビロスが、その組んでいた印をほどき。

 いきなり手を握り込みはじめて。


「これは……サイコロ……!」


 そこでようやく気付いたらしい。

 自分が強制的にサイコロを振らされていること。

 つまり、スキルの効果にかかっていることに。


 イツキのスキル「サイコロトーク」は、自分がサイコロを振って出た目の話をした場合に、直前に自分との会話に応じた相手に同じことをさせるスキル。

 対魔法使いには、致命的にヤバいスキルだ。


 何故って、トークをしている間は魔法が使えないからな。


 すでにスキルの影響で、右手の自由と口の自由を奪われているネビロス。

 俺たちは武器を構えて突っ込んだ。


 ネビロスの振ったサイコロの目に書かれていたのは「幸せな話」

 ネビロスにとって、この場で最も相応しくないテーマだ。


 ネビロスは話し始めた。


「この前の日曜日、思い立ったので東北の方のラーメン屋に向かったんですが……」


 俺は話し始めたネビロスに、大上段に構えていた大剣……両手持ちの両刃の直剣を振り下ろした。

 まるで鉄の塊のような、分厚い鋼鉄の刃を。


 俺の剣を回避できなかったネビロス。

 俺の剣はネビロスの左腕を切断した。


 ネビロスの絶叫。


「3流冒険者! ボクも助太刀するよ!」


 そこにイツキが、両手に大振りのナイフを構え、まっすぐに突っ込んで来て――


 俺の名前はカムイ。

 ちょっと前に誰も俺の名前を呼んでくれなくなったから、自分で名乗る。


 この邪教神官討伐パーティーで、攻撃担当を担っている人間の男だ。

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