エピローグ 旅をする竜と皇女と転生したやべえ奴

「レーラ! 手が止まっているぞ!」


「ひーん! なんで私がこんな土木作業をしなくてはいけないんですかぁー!」


 晴れ渡ったリスタトリニティ、戦いから二か月ほどたつがいまだ傷跡が残る広場でレーラは、修繕魔法が使えないため他の住民と一緒に修復魔法で補いきれない瓦礫の片づけをしながら、シンジの怒号に涙を流し叫びだした。


「ふう……疲れた。って、冷た!」


「よっ、サボり?」


コウスケは、ギルドに入会し、ギルドメンバーとして魔法での修復作業に区切りをつけ、一人木陰で休憩をしていると頬に感じるボトルの冷たさを感じるとそこには、クリスが、熱気で少し顔を赤くしながら冷えたボトルを二本持っていた。


「なんだ、クリスかよ……そういうお前もサボりだろうに」


「私を幸助と一緒にしないで。事情聴衆が長すぎるんだけ……隣、座っていい?」


「いいぞ」


「サンキュ、あ、これ炭酸水」


「あんがと」


クリスは、コウスケの隣に座ると、疲れをいやすようにふうと息をつく。

結局、今回の事件の主犯であるニーズヘックは死亡し、ミリガンは、憲兵に捕まるも発狂して話のできない状態であり、クリスは、重要参考人として今回の事件の話を話しに行っていた。


「つめた」


「あはは、ホントね」


コウスケは、炭酸水のボトルに口をつけるとそれだけ言って、空を眺める。

クリスも何も言わずに一緒に空を眺める。

メイとの一件があった後、クリスとコウスケの恋仲がどうなるか、気になるレーラとスズに問い詰められたが特に変わることはない。コウスケとクリスは今まで通りであった。


「その、そこの熟年夫婦がた……えと、イチャイチャするのは、その宿だけにしてもらえると」


そんな二人をジトッとした目でスズは見るが、周りには、何人かの小さな子供たちが隠れたり遊んだりとやたらと騒がしかった。


「たく、ロリママは、風情も何もないの? 熟年夫婦ってのは、子育ても終わってお互いのんびり過ごす物なの……私は、スズと違って子供はいないから違うわよー」


「な! この子たちは私の家族です! 拗らせ処女!」


「ああん? なんだって」


「なんでしょうね!」


そしてクリスの口も相も変わらず達者であり、スズは頬を膨らませるがどこか、スズは強くなっていた。

結局、霧が晴れ改変された過去は、元の形に戻った。

子どもがいなかったらという身勝手な願いをしてできたリッパーと呼ばれた子どもたち。今回の一件でその親も、現実に引き戻され子どもと和解をした親もいた。

しかし、全員がそうではなく、スズや数人の子どもは、シンジが後見人となり自立した家族として正式に認められていた。

そして一番年上であるスズは、ギルドで働きながら、新しい家族の家長と暮らしていくことになった。


「あー、良いな、家族。スズちゃんは、今、幸せか」


「はい。幸助さんもなんだか前より表情が優しくてカッコよくなりましたね」


スズは、いとおしそうにコウスケを見るとコウスケも嬉しそうに笑みを返す。


「ちょっと……何それ、炭酸水をもって気を使った私にはない笑顔」


むっとした表情でコウスケを睨むクリスであったが、スズは面白そうにクリスをからかう。


「ふふん、クリスさん。あんまりゆっくりしていると、いい男は、私みたいないい女に持ってかれますよ……」


「な! 誰が!」


クリスは、どうにもコウスケ周りをからかわれると心が落ち着かないのか、スズに食って掛かろうとする。最近のスズは明るくなった。

本当に強くなった。一人じゃないのも大いにあるのだろうか。コウスケはどこかおかしくなってしまい笑ってしまう。


「あはは、なんだよお前ら……」


「……」


「……」


コウスケの心からの笑いにクリスとスズは、一瞬ドキッと胸を高鳴らせ、慌てて二人でひそひそと話し出す。


「クリスさん……いや、マジで速く捕まえないとやばいですよ。幸助さん、ただでさえ美形なのにあんなかっこいい笑顔……冗談抜きで取られる前に」


「や、や……そんな……幸助の魅力は私が一番知っているし」


「えー、そんな奥手な。街じゃ最近、幸助さんを狙う女性が増えているんですよ……」


「……え、嘘! 前世じゃモテなかったのに、こ、これが異世界転生」


「ですね……」


コウスケは、二人が仲良く話しているのを見てどこか嬉しそうに笑う。


「平和だなー」


「平和だなー、じゃなくて、手伝って下さいよ、コウスケさん! 師匠!」


「おーい! レーラ手を止めるな!」


そんな三人を見て、悲鳴を上げるレーラであったがシンジは、それすらも平和に思えてきたのであった。




「うー、頭が痛い」


「えーっと、そん状態で本当に旅にまた出るのか」


「全くです……」


 そこから、二週間がして、コウスケ達がやる街の復興の手伝いは、終了し打ち上げとしてバカ騒ぎした挙句二日酔いで完全にダウンしたクリスを背負ったコウスケと荷物を持ったレーラは気まずそうに見送りに来たシンジとスズから目を逸らす。


「あー、その、これ以上ウチの酔っぱらいが迷惑をかけることもできないし」


「その、すみません! 本当にうちの師匠がすみません!」


レーラは、ぶんぶんと体を揺らし、謝罪するが、スズやシンジにとっては、三日に一回は見るお決まりの光景にいい加減見慣れてはいた。


「いやいいよ、レーラちゃん。それより、次はどこに行くんだい?」


「そうですね……温泉を満喫したので次は、サウナの聖地に行こうと考えています」


「いやいや、次はダンジョンって約束だろう!」


「サウナです!」


「ダンジョン!」


「あー幸助ぇ揺らさないでー。頭が痛いー」


そして、この漫才のような三人組のにぎやかさも最後であると思うとスズはどこか寂しく感じてしまい、涙を流して笑ってしまう。


「あ、あはは……なんだか寂しいです」


「スズ……その……」


コウスケは、前世でスズの兄を殺してしまった。

自分はしっかりできたか不安になってしまうがスズは、コウスケに笑顔で、涙を隠し言う。


「許しません。だから、生きてください。それが約束ですよ」


「わ、分かった。俺は、絶対に忘れない。これからの旅は、犯した罪の分全力で生きるよ」


「はい約束です」


そういうとスズは、コウスケの頬に軽い口づけをする。


「な!」


「ちょ! スズ! ……ってあたた! くう! レーラ! 向かい酒!」


「ああもう! 師匠はゆっくりしてください! あとお酒はだめです!」


「ええ……」


スズの突然の行動に全員が少し騒ぐが、シンジはそれを見て少しおかしくなる。


「たく……達者でやれよ。幸助、レーラちゃん。あとクリスちゃんはお大事に……」


シンジは両手を差し出すとレーラとコウスケは、その手を固く握る。


「ああ、シンジ、お互いに頑張ろうな」


「黒竜をこき使ったんです。シンジさんは絶対に出世しますよ!」


コウスケは友情、そしてレーラは竜独特な感性での別れの挨拶をする。

そして、手を放すと、コウスケ達は、どこに向かっているかもわからない道を歩き出す。


「皆さんー! また! また絶対会いましょう!」


「達者でなー!」


「行ってきます」


「そうですね、行きましょうお二人とも!」


コウスケ達は、各々別れをつげ当てのない旅がまた始まるのであった。





 街が遠く小さく見えるころ、コウスケにおぶられたクリスは、少し先を行くレーラを見ながら、ボソッと話し出す。


「ねえ、幸助」


「なんだ? 吐くなら、衛生魔法の準備をするから降ろすが」


「そのまま聞いて」


クリスは、二日酔いで痛い頭のまま言いたい言葉を振り絞ろうとする。

勇気のいる行為、レーラは、どうにも察しがいいのか気が付かないふりをして少し前を歩いている。

言うなら今しかないそう思うが、どうにもメイと戦った時のような勇気が出ない。


「……聞いているが、何も言わないのか?」


「……ばか」


「突然な罵倒、流石に傷つくぞ」


コウスケは、まいったと言わんばかりに二日酔いのクリスに呆れるが、クリスの気持ちはもっと別の次元にあった。

昨日飲みすぎた理由も、クリスが、どうにもコウスケへの思いを伝えられず、スズとレーラに押し倒せと言わんばかりの発破をかけられ、恥ずかしくなり深酒をしてしまったのである。


「そのさ……女子会って怖いわね」


「何の話だよ……そんなん言われても俺は困るぞ」


「うん……だよね……」


言葉が出ない。

言いたいことはいっぱいあるのに何も出ない。

二日酔いで若干混濁する意識の中、どこからか、聞き覚えのある井戸端会議が聞こえる。


『もう、この子は相も変わらず……前世の頃からこうなの……』


『お互い苦労するね……全く。私もうかうか眠てられないわ』


幻聴だ。

分かっている。転生前のクリスとメイは、スキルで魂の同化をしているはずだが、自分のあまりのふがいなさにスキルのルールすら無視するような幻聴が聞こえてしまう気がしてしまったクリスは、コウスケの背中に顔をうずめてしまう。


「ねえ」


「なにさ」


コウスケは、なんだかんだクリスの愚行に呆れず、じっとクリスの声に耳を傾ける。


「いろいろ言いたい……」


「おう吐け吐け、けど、ゲロは吐くなよ」


コウスケも察しが悪いわけではない。

恥ずかしいけど、レーラも察して前を歩いてくれている。言いたいこと、コウスケにも一杯あるが、今は聞く。勇気がない言い訳とも言い、コウスケは自分を情けないと感じてしまう。


「吐かないわ……その一回しか言わないわよ」


「なんだよそのテンプレ……」


流れる風。心地がいい。

暖かい日差し。心地がいい。

そんな私的な話をする気もない、月も出ていない、名言にも頼れない。

クリスは、自分の頭をフル回転させる。


「ねえ、幸助も答えてね」


「もちろん」


「そのさ、これはクリスとしての言葉、答えなくていい、と言うか答えないで」


「もちろん」


一瞬の静寂、クリスは、ようやく一言だけ言いたいことを伝える。


「……好き」


「……そっかい、ありがと。俺もだけどさ」


「なぜ答えた……」


「別に」


温かい気持ち、二人は、どうしてかおかしくなり、笑顔でお互いを見て笑いあう。

そして、全てを察してか、レーラはタイミングを計ったように二人に声をかける。


「おーい、二人と流石にもう少し早く歩いてくださいー! これじゃ日が暮れてしまいますよー」


コウスケとクリスは、レーラを追いかけ道を少しだけ早く、上がる心拍を隠すように歩きだした。

これからどんな苦難もあるだろうが、クリスと、レーラ、そしてコウスケ達は、旅を続けていくのだろう。

心地のいい風が三人を祝福するように通り抜けていった。

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旅をする竜と皇女と転生したやべえ奴 優白 未侑 @siraisi

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