第■■話 ねえ、ウチの旦那と連絡が付かないんだけど、読者のみんな知ってる?

 日の当たる教室、真理とコウスケは、『パンドラの空き家』効果で、先日のレーラ達との会話した記憶が一時的に消え、メイの作った世界の住人に一時的に戻り芽生と机をくっつけて昼ご飯を食べていた。


「えー、真理ちゃんのおかず、しょっぱいよ」


「え、うそ! あむ……おお、自分でも驚くほどしょっぱい」


「酒のつまみみたいなオカズだな」


三人は楽しそうに笑いながら、オカズを交換していたのだが、真理がふと、カバンの中にジュースが入っているペットボトルに気が付くと、それを手にする。


「うん? その飲み物珍しいね、カヴァ? 何それ?」


「……いや、嫌な予感がしたわ。どうせこの飲み物を入れたのは、ウチのバカ妹よ」


「あぁ……あの子ヤバそうな趣味を持ってそうだもんな」


「え? 妹?」


芽生は、その言葉に不思議そうに真理に返すが、真理は、うっとうしそうにカヴァのボトルを開け飲もうとしながら、話す。


「あぁ、ウチの妹……いたずら好きでね。けど、これを飲まないと、どんなことを言われるか……はあ、飲もう……」


「ちょ! 待って! 真理ちゃ……」


芽生が何かを察して慌てて、真理を止めようとした瞬間であった。

豪快な破裂音と共に竜の羽を生やしたレーラとクリスが教室の窓を突き破り、豪快に教室に登場する。


「ヒャッハー、やっと隙を見せましたね! メイさん! この世界、ぶち壊しに来てやりましたよ!」


「『展開:パンドラ真名×××』さあ、夢から覚めましょうか! 白痴の神様!」


「な! クリスちゃんにレーラちゃん! あなた達! なんで私の世界に!」


芽生は不意を突かれ、驚くが、その瞬間にはすでに時は遅く、コウスケと真理の右耳には、黒い髪がまとわりついた瞬間、二人は、芽生から距離を取ると杖をブラックボックスの魔法で取り出し構える。


「さあ、芽生……いいえ、メイ! 覚悟しなさい! ここがアンタの墓場よ」


「お前が何度世界を変えようとも、俺たちはこの結末にたどり着いてやる!」


クリスとコウスケがメイにそういうが、芽生は最初の衝撃以降は驚くことなく、手に白い光をまとう。


「うん、驚いた。これなら、駄作ぐらいの作品にはなったけれど残念。私のスキルはそんなに甘くはないんだけれど! 白痴の夢!」


瞬間、視界は暗くなり、世界が再生成される。次は、今までの出来事がすべて夢落ちだったらの世界。




「ふう……お話は振り出しだけどしょうがないわね」


メイは、安心して、ベッドから降り新たな世界を楽しもうとした瞬間であった。

クリスとレーラは、満面の笑みで芽生の居た部屋の壁を破り突入する。


「メイさーん!」


「遊びましょー!」


「世界観を守ってよ! 白痴の夢!」


そして、また世界が暗転。



次は、今までのことが、全て、VRゲームだった世界。

しかし、芽生は、ここで油断しない。次いつ、レーラ達が飛び込んでくるか警戒し、手には白い炎を灯す。

「は! VRゲームをしていたら手から炎が出てしまった! いやゲームのやりすぎか」

「おーい、芽生、朝だぞ……って、お、おいその手!」

「お兄ちゃんおはよう!」

コウスケは、メイを起こそうと扉を開ける。

メイは安心した。この世界でコウスケは、自分の兄。こうすれば、レーラ達も強引な手は打てないだろう。

「お姉ちゃん! 朝ですよ!」

「ああ、レーラ! 抜け駆けはずるいです! クリスもお姉ちゃんと遊びたいです!」

そう思い、手の炎を解いた瞬間、コウスケの後ろから、レーラとクリスが妹の様にふるまい、メイの胸に飛び込もうとする。

「ちっ! 白痴の夢!」



 そして世界が、さらに暗転。

アイドルになる世界、vtuberになる世界、意味の分からない部活に入る世界、ドタバタラブコメディ、ディストピア、ミステリー、バンド青春、ゾンビが出る世界、世界系、様々な世界に変えるメイだが、どの世界に変えても、レーラとクリスが変えた世界の世界観を破壊する。


何度変えたかわからなくなるほどメイは世界改変を迫られる。

そして、次第に、心の疲弊は蓄積していく。


「メイさん、いい加減ネタ切れじゃないですか? アイドル物をまたやりましょう? 次は、私、フリフリの服が着たいです」


「えー、レーラちゃん。私は、個人的に十三回目のゾンビ物を所望しているんだけれど」


何度も変わる世界に楽しさを覚えたのか、にやにやとメイをあおるレーラとクリス。

魂のありか自体がバグとなっているクリスとレーラを殺すと世界が崩壊しかねないからか、メイはこの二人を殺せない。その事実は、メイをいらだたせる。


「ああもう! こっちは真剣なんだよ! これ以上世界観を壊すと、読者が離れてしまうじゃないか! いい加減、私に都合のいい世界に! 白痴の夢!」


メイは、投げやりに世界改変を行おうとした瞬間であった。

バグの様に空間の一部が歪む。

そして、メイの手を中心に何もない空間にひびが入りだし、メイは、驚く。


「な! なにが!」


世界改変のスキル。

強力で、自らを神にすら昇華させるスキルであるが、弱点はある。

それは世界の再生成には、想像力と設定をメイが、全て設定しなくてはいけない。

何度も世界の再生成をし続けた芽生には、一番最初ほどの世界の再生成をする余裕は、クリスとレーラに阻まれ、なくなってしまっていた。


「せ、世界が! 私の世界が壊れちゃう!」


メイは、初めての焦りを見せる。世界が次第にひび割れる。願うように、すがるように喚くメイであったが、その願いは、むなしく、世界は、崩壊する。

そして風景は、元の世界、コウスケ達の居た町リスタトリニティの崩壊した教会に戻ってきてしまったのであった。


「な、なんで……なんでよおおおおぉぉぉぉぉぉ」


その絶叫は、無情にもリスタトリニティに響きわたる。

そして、クリスとレーラは、残念そうにメイをあおる。


「終わりみたいですね」


「そうだねレーラ。残念だわ」


「お前ら! 許さない!」


「それはこっちのセリフだよ! メイ!」


「いい加減、現実を見たほうがいいわよ」


キッと二人を睨むメイであったが、そんな恨み節を吐き終えるのを待たずに、それを遮り、虚空から、黒い渦が発生、そこからコウスケと転生していた際のクリスの格好をした真理が出てきて一喝した。


「幸助……真理ちゃん! 確かに私は、世界改変をできなかったけど、まだ、この街ごと全員を殺すくらいの余力は、残って……」


「あ、あの……すみません、め、メイさん。す、……すみません。その、この町の人は安全圏まで私の女王のスキルで避難してしまっています……。それに、げ、現場では、シンジさんが住民を統率しながら、守護もしております、そ、そちらには手が出せない……です」


黒の渦から、オズオズとスズが出てきて、メイに都合の悪い事実をさらに押し付ける。


「女王のスキルぅ……ああ、ああ、なんて不利! 逆境!」


メイはヒステリックに叫ぶが、コウスケは、あおる。


「おお、悔しいんじゃないか神様よお!」


「むしろいいよ! 幸助! 愛しているわ!」


メイは、コウスケと同じ杖を握るとお互いに手に持った杖で自分なりの宣戦布告をするのであった。

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