第■■話 リベンジ

 真理の部屋……というよりも明らかにクリスの固有魔法の空間、黒い髪に覆われているが、不思議と明るい室内。

スズは先ほどと打って変わって真面目な表情であったが、自分の服装が恥ずかしいのか小さく丸まっていた。


「う、うう……み、見ないでください」


「お、おう」


そして、クリスと名乗った小さな銀髪の少女や黒いカラスなど、状況をまとめることが多い、コウスケは、なんとなくであるが推測する。


「……いやまさか。えーと君は、真理が転生する転生前クリスで、転生後のクリス。つまり、真理がいる。なんとなく白い部屋の話を聞いて察していたが二人がこの世界で別れたと、そして、このカラスは、もしかしてレーラか?」

コウスケが考察を口にするとカラスは一目散にコウスケに飛び出し、どういう原理かカラスは、人間の声で話し出す。


「うわーん! コウスケさん! や、やっと会えました! よ、良かったです本当に良かったです!」


「れ、レーラ! 良かった! 生きていたんだな!」


カラスの姿をしたレーラは、嬉しそうにはばたく。そんな、二人を見て、クリスは、ほっとした表情で、コウスケに話しかける。


「じゃあ次は私だね。こうして会うのは初めましてですね。コウスケ様。私は、クリス・ダイス・エバンディフランソワーズ三世。アルマテリア王立連合国の第一王女にして、転生前のクリスでございます。以後、お見知りおきを。コウスケ様のご活躍は、真理の中からですがご拝見しておりました。……早く結婚しやがれでございますわ」


ロリネコミミメイド服という、上品からは遠く離れた服装のはずのクリスであるがそこには、なぜか上品さを兼ねた美しさを感じてしまう。語尾を除いてだが。


「はじめめまして? でいいのか。というかクリスちゃん、結婚とは?」


「ああ、それは、真理がコウスケ様の一挙一動を凝視しては、甘い思考をしておりま

して、ホレ様の大浴場でコウスケ様の裸体を見た時など……ぶへ! ぐる、ぐるしい、じ、ジヌ……じんじゃうから!」


どや顔でとんでもないことを言いかけたクリスに真理は、思いっきりチョークスリーパーで首を絞めて、話を中断し、ごまかす勢いで真理は話し出す。


「あ、あはは、幸助。この魔法はクリスの魔法でね『オカルティズム:パンドラの空き家』スキルや魔法の干渉概念レベルで受けない魔法なの。この中にいる限り、私たちは、メイの監視をごまかせるのよ……あははー、ちなみに鏡台についている棚を開けたらダメよ! この部屋に閉じ込められて、一生この髪をしゃぶって生きないといけないからねー。あと、この部屋での会話や記憶は、元々異世界人のクリスとレーラ以外は、この部屋に置いて行くことになるから、外に出てメイにあっても安心ってわけー。あ、あははは……」


「長いごまかしセリフにとんでもなくおっかないワードが入っていたぞ。本当にクリスや真理の使う魔法は、怖いな……」


「そ、そうですね。私も師匠の魔法は、正直生存本能の根源から恐怖を感じます」


とんでもなく恐ろしいワードを聞いたコウスケは、鏡台から離れ、スズの隣にちょこんと丁寧に座る。そこが部屋の隅で鏡台から一番遠い場所だからである。

レーラもコウスケの頭に飛びちょこんと座る。


「え、えと、後は、し、シンジさんですが……きょ、教師が、生徒の部屋に入るのは、流石に怪しいかと」


そんな中、唯一恰好以外は、まともなスズが恥ずかしそうに手を上げると、ギブギブと真理の腕を叩いていたクリスが抜けだし魔法を発動する。


「安心してください! パンドラの空き家には、裏技がありましてですね! これは私以外がやったら発狂しますので、気を付けてくださいね! 『展開:パンドラ真名×××』」


聞こえない発音、その言葉は、まるで呪い言葉の様に響き、髪が形を変え、モニターのようになると背景が髪で覆われた部屋にいるシンジが映った。


『うお! き、聞いていたより驚くなこれ!』


「真理が転校の手続きをする際にひっそりと同じ魔法を発動しまして、リモートワークの要領で皆様が集まると、シンジ様を中心に小さなパンドラの空き部屋が発動して、ちゃんとお話ができます」


どうにか全員が集まり、一同はお互いの無事や安全を安心し、少し雑談をしているが、その途中で幸助はふと気が付く。


「えっと、クリスちゃん、ヤケに現代知識に詳しいけれど、真理が転生した後も意識は、あったみたいだけれど、その間に覚えたの?」


「ああ、私は、真理が転生中は、おそらく真理の魂である白い部屋みたいなところに

意識があって、そこで、真理の視覚や五感を共有できるのです」


クリスは、自慢げに魂の中での会話をする。白い部屋の謎は、解けた。つまり白い部屋とはクリスの魂の中ということであるとコウスケは納得し、クリスは続ける。


「それ以外にも白い部屋の中には、真理の記憶に即した漫画や同人誌、あとはエロゲー……もといギャルゲーがありましたので、そちらでこちらの世界の知識はお勉強させていただきました」


「知識が偏っているな……」


どうにも本質がオタクな真理にため息をつくコウスケであったが、真理は、どんなことがあっても真理なのだとコウスケは安心した。


「じゃあ、場も温まったし、作戦会議を始めましょう。司会進行実況解説その他もろもろは、私、クリスが務めさせていただきます」


「オイ、やけに肩書が多いな。変なボケはやめなさいよ、クリス」


真面目なのか分からない発言で場を和ませるクリスに真理は、ツッコミを入れるが、作戦会議の進行が遅くなるため、コウスケ達は変に茶屋を入れないのだが、クリスは意気揚々であった。


「やーん、私と久しぶりに会った時は真理、泣いてくれたのにクリス寂しいですわー」


「私だって、真面目な時にからかわれたって恥ずかしがらないわよ」


「そうですね。大浴場での一件以外は……ですが」


「うぐ……謝るから! 謝るから、クリス様の自由にやってください!」


なんとなくクリスと真理のパワーバランスを知った一同。

議題を最初に挙げたのはシンジであった。


「とはいえ、世界の改変なんて、易々と行ってしまうスキル、どうやって倒すんだ? このまま戦闘を始めても俺達なんて、一息で全滅だぞ。それに俺たちは、この魔法の中で以外で記憶を持ち越せないし、そもそも詰みなのでは」


「鋭い指摘! 流石ギルド長! 見た目だけだと侮るな! その頭脳は、本パーティーで一番ピンクだあぁぁぁ!」


うるさい実況のクリス。以前遺跡で見た時から今に至るまでにコウスケは、クリスが喧しいとは思ったが、それ以上に変わっていた。

しかし、それに対してクリスは頭をかかえて手を上げる。


「おーっと挑戦を受けたのは、本パーティーの外道魔法担当クリス選手!」


「それはあんたもでしょ……まあいいわ。そこに関しては、朗報。この改変された世界では、バグがある。確かにメイは、世界を改変した。けどそれは、あくまで世界、この世界にいる人間は、改変前の世界から持ち越し、世界にあった役職を適当にあてがわれている。そう考えると矛盾があると思わない?」


世界の矛盾。

改変した世界と、改変される前の違い、コウスケは、考えるが中々思いつかない中、レーラが、幸助の頭の上で、おずおずとカラスの翼を上げる。


「えっと、もしかしてですが、師匠とメイ、二人の転生先……つまり、私とクリス様ですか? 魂がそのなんというか二つあるみたいな状態なので」


「なら私は、生まれた時から転生している状態なので例外ですか……」

魂が二つある。


クリスのとメイの魂は、融合したような状態だが、クリスとしての意志と真理の意志があった。それは、レーラとメイも同じであった。


「推測だけど、これだけの膨大なスキル、転生してすぐ使えばいいのにどうして使わない? 簡単、使用するためには、何らかの縛りがある。それに世界の改変はできたけど、生き物まで創造はできない。だから、生き物に役割を与えたけど、基準は? 改変時に魔物がいたら、この世界じゃおかしいじゃない。メイは生き物を改変に連れていく基準を肉体ではなく、魂で選別しているなら?」


真理は地震気に説明するが、コウスケは、飛んでも理論だが理にかなっていると納得してしまう。世界を改変する際、魔物を消し、人間や、この世界に則さない生き物は、改変時に消してしまえばいい、けどクリスとレーラは別であった。


「そうか、改変世界での生物選別の際に魂を基準にしていたら、クリスの肉体の真理と、レーラの肉体のメイは、この世界にとっての主要キャラと考えれば、都合が悪いからと言って消すことは、できない。肉体一つに魂が二つある存在は、この世界にとって改変しがたい存在だった。だからクリスとレーラは魂基準の世界改変に対応して、今は肉体を持っているということだな」


そう、矛盾が生まれた。

この改変された世界で唯一の矛盾である存在。だから、この世界でクリスは魔法を使えるし、カラスのレーラはしゃべれる。

明らかな矛盾なのだが、クリスがその矛盾にツッコミを入れる。その表情はマジかと少し引くようなそぶりであった。


「ま、真理そうなんだけどさ、流石に私とレーラちゃんだけでは、流石にあのラスボスを倒せないのですが……」


「大丈夫、リンフォンのスキルで、私は最後の一つスキルを作ってある。これで勝てるわ!」


どや顔の真理、だが、そうだ、真理のスキルは、好きなスキルを三つ作成するスキル。

一つ目はすでに作られていたであろうスキル黒い炎の雨、二回目は時間停止、そして最後の一つは、リンフォンの強制発動により、地獄のような世界に改変された。

つまり、クリスはその際に一個スキルを作っていたのであった。


「けどこれは、まだ言えない。直接戦うのは、私とレーラにクリスがどうにかする。案心しておいてちょうだい」


真理が言い終わると、話題が一歩進んだと感じてかクリスが、話の進行を進める。


「さあ、熱くなってまりました! では次のお台はこれ! 決行時の立ち回りとそれぞれの役目ぇー」


クリスは少しふざけたように勧めるが、彼女なりの場を和ませる立ち振る舞いにコウスケは、クリスの覚悟を感じたのであった。

こうして、コウスケ達は、作戦の決行に向けどうこう話し合いながら、作戦を練り、そしてメイとの最終決戦が始まるのであった。

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