第23話 それぞれの戦い

「展開『オカルティズム:くちさけ』『オカルティズム:ぬながわのひめ』」


「展開『ムーブリード』」


 クリスは、お気に入りの大鋏を展開し、ミリガンに刺突を試みるが、ミリガンは、見切ったようにその刺突を避けた……はずだったのだが頬には切り傷が飛び出し、ミリガンは冷や汗をかく。


「ちょ……意識外からの攻撃は、反則過ぎませんか?」


「あら、そうなの? でもそれは、私じゃなくて、うちの子が勝手にやったし知らないわ」


クリスの横には、白の死に装束を着た黒髪の女性がぼーっと立っていた。


「うわ……その人、心が読めません。ですが、それでようやくイーブンというところでしょうか。固有魔法展開『メアリースーの悪夢』」


ミリガンは黒いボディスーツの姿に変わると、途端に雰囲気が変わる。

世界に愛されたような雰囲気というのも間違っているかもしれない。コウスケは、下僕と戦いながらその手を止めてしまう。

見とれてしまいそうになり、それ自体が、魔法なのだと感じ、ミリガンから目をそらす。


「なによ……その恰好。殺意がそがれる」


「この魔法は、説明して、ようやく強くなります。この魔法は、全ての殺意ある攻撃に私は当たりません。条件は、五感による私への接触」


「ちい……また面倒な……」


クリスは、面倒そうに口をゆがめてしまった。



「やあ、ニーズ。堕ちましたね」


「それは君もだろう! レーラ」


戦闘が始まると生気のなかったニーズの顔は、以前のループで戦った下賤な笑いをする。

二人は、つかみ合い動かない。


「私は堕ちていません! 尊敬しているだけです!」


「それが堕ちているのだよ! 下僕に堕ちた我と何の変りもない!」


つかみ合いから、レーラは、思いっきり金的をニーズに食らわせようとするが、ニーズは体の一部を蛇に変えるとつかみ合いから抜け出しレーラと少しの距離を取る。


「全く、相も合らず力比べになりません」


「霧の黒竜である私が、そう簡単に暴力の権化みたいな脳筋黒竜と殴り合いをすると思うか? 負けてしまうよ」


「わ、私は、そんなではないです! とても優雅にた、戦うんですから!」


「ば、ばか! 展開『想像:ブラックボックス応用』」


そういうと、レーラは、顔を赤くして、地団駄を踏むと、地下通路にひびが入り天井が崩壊する。

コウスケは慌てて、横から魔法で天井のがれきをブラックボックスの魔法で全てのがれきを魔法の中に入れる。

地下通路には、大きな穴が開き霧の晴れた月夜がレーラに照らされる。


「ほら、結局君の力は人に迷惑をかける! 違うか?」


「そうですね。今まではそうですが……今は違います!」


「ハリセン? 君はふざけているのか」


レーラは手からツッコミハリセンを出す。それを見て、ニーズは首をかしげるが、レーラはにやりと笑いハリセンに背中ではなくハリセンの先から魔法陣を描く。


「師匠に教わった私が持つ唯一の人間としての魔法です! 展開『コロシアム』」


「結界か! こんな……な! 竜の力が使えない!」


魔方陣は、レーラとニーズを囲み光りだす。

ニーズは、竜の力で結界を抜け出そうとするが、結界は、竜の力の発動を許さない。竜の恩恵、竜の力による魔法すべてを許さない。


「ふふん、この魔法は、私を中心に展開される結界です。結界内では、竜の力、および魔法が一切使えません。私を倒すか、私があなたを倒すまでこの魔法は解けません」


「レーラ、君は馬鹿か! 君は竜の力が異常。それが特徴なのに、それを自分から捨てるなんて! 愚かだ!」


「えー、結構気にっているんですがこの魔法。自分の邪魔な力をすべて制限する代わりにどんな人とも対等な喧嘩ができるんですよ」


レーラは、竜の力が、全て封じ、人としての筋力のみで戦う。

華奢な体系のレーラにとって、一見不利な魔法である。

しかし、レーラは気にいっている。クリス以外に本気で戦えない戦闘狂にはこれ以上にない魔法である。


「お、おまえ。本気か……」


ニーズの顔が少しゆがむ。行かれた空間への畏怖だろうが、レーラは一人笑っていた。


「やりましょう。ステゴロの戦いを!」

その笑いは、狂気であった。




「隙ありですわ!」


「展開『想像:メイデン』」


コウスケは、襲ってくる下僕の悪魔シスターを魔法で弾き飛ばしながら状況の把握に努めていた。

この場でのコウスケの役割は、全員のフォローであり、周囲を一歩後ろから見ていた。


「ニーズヘックは、最後に一発ぶん殴りたかったが、こりゃ無理そうなんだよな」

ため息をついて頭をかいていると、脳内にスズの慌てた声が聞こえてきた。


『幸助さん! ちょっとヘルプをお願いいたします! 敵が多すぎます』


『多いって言ってもな……』


コウスケは、スズとシンジが戦う悪魔シスターを見ると、戦いは一方的であった。


「ぎゃあぁぁぁぁ! いっぱい来る! き、キモチワル!」


「し……シンジさん、うるさいです。」


シンジは、機関銃を駆使して、悪魔シスターが接近する前に迎撃。

しかし悪魔は、人間よりも身体能力が高く普段なら避けられる可能性のある悪魔たちであったが、今は状況が全く違った。


「つ、次は、ふへへ……と、友達……あなた……」


スズのスキルで、集団の悪魔の一人を操っては、他の悪魔を攻撃させ、別の個体の悪魔を操ることにより、悪魔の統率は、崩れ去り、いつ自分が操られるかわかない状態は疑心暗鬼を呼び、悪魔を制圧しているように見えたのだが、スズは、脳内にまた話しかける。


『う、うぅ……前のループでのトラウマが……吐きそうです』


『わ、分かった……なら、一瞬でいい悪魔の集団を一か所に集めてくれないか』


『わ、分かりました』


スズは、コウスケとアイコンタクトを取るとスズは、意を決したように大きな声で叫ぶ。その声、喉には大きな魔方陣が重ね掛けの様に声が重なって聞こえた。


「『悪魔よ! 集まれ!』」


「やっば! 退避、退避!」


瞬間、分散していた悪魔たちが、磁石の様に一か所に集まる。

シンジは、慌ててスズの後ろに逃げ身をかがめた。


「スズ、ナイス! 展開『想像:ブラックボックスを地獄に見立てる』」


コウスケは、まとまった悪魔たちをブラックボックスに収納する。

普段なら虚空に穴をあけ、物を取り出す魔法であるが、今回は、悪魔を吸収した後ブラックボックスは正二十面体の大きなサイコロになり地面に転がった。


「ふ、ふう……お、終わった……」


「いや、スズちゃんそういうのは死亡フラグって言うんだぞ」


状況の終了に安どしてスズは、その場にへたり込む。そんな彼女をねぎらうシンジ。

コウスケは、正二十面体を手に取るとシンジに投げ渡す。


「ほい、シンジ。こいつらをしかるべき場所に引き渡してくれ、そうしたらこの二十面体が、こいつらを解放するから」


「か、解放していいのかよ。危ないぞこいつら」


シンジは、嫌そうに正二十面体を持ってコウスケを睨むが、コウスケは、余裕な態度でシンジに話す。


「安心しろ、こいつらが、そっから出るときは、絶対に反省しているから。耳を近づければわかるよ」


「近づけるって……うお!」


正二十面体からは、苦しむ悪魔たちの声が小さく響いていた。


『出して! 出して! 出して! 出して!』


『熱い! 熱い! 熱い! 熱い!』


『ヤダ! なんで! 痛い! 熱い!』


「ほら、このブラックボックスは、居る間、永遠に苦しむが絶対に死ねないし、発

狂、意識を切り離すことも許さない時間もない空間だ。数日も入れていたら、たぶん真面目になると思うが」


「え、エグイです」


ドン引きするスズにシンジも顔を青くする。

コウスケも少しやりすぎたとは思うが、生き物を殺すことは、スキルを使わない限り吐き気ができないため、自分にはちょうどいい魔法と考えていた。


「それより、クリスちゃんたちは!」


シンジは、切り替え、クリス達を見るが、コウスケは、のんきな表情をしていた。


「もう、助けもいらないと思うぞ」


スズたちはその言葉の真意は、明らかであった。

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