第22話 裏切者

 作戦が始まり、教会の薄暗い地下に忍び込んだ、コウスケとクリスとミリガンは、ひっそりと列をなし歩いていたのだが、野外戦闘準備のレーラから悲痛な訴えが、スズのスキルにより三人の脳内に響きだす。


『うぇーん! 師匠! なんで私を置いて行くんですかあ!』


『あーほら、レーラちゃん。騒がないの』


そんなレーラをなだめるシンジであったが、クリスとコウスケは、先ほどのこともあり冷たい反応をする。


「うるさ……」


「本当、うるさいな」


「つ、冷たくないですかお二人とも」


状況を知らないミリガンは、そんな二人の反応に違和感からか、ミリガンは、ミリガンで、自分が操られ死んだ場所に近づいてくるのを感じ恐怖なのか、少し声が震えていた。


「別に、何かあったわけじゃないけど個人的にイラっと来ただけ。ね、幸助」


「そうだな、別に何かあったわけじゃない」


「えー、絶対あったじゃないですか! お姉様、コウスケの呼び方ちょっとだけ変わっていますし」


ミリガンは、固有魔法からか人の感情の機微を見るのが得意なのか、二人が何かを隠している程度のことは分かったが、あまりそれ以上のことは、理解できなかったようで、二人を恨めしそうに睨み付ける。


「あー、ほらほら、ミリガン拗ねないの」


「あーん、お姉様! 本当に大好きです!」


「……相変わらずだな」


コウスケは、呆れて二人を見るが、何の変哲もない二人であったが、その表情はどこか不安そうであった。

クリスは、どこか優しそうに抱き着いてきたミリガンを優しく頭をなでる。


「ミリガン、この戦いが終わったら、何がしたい?」


「そうですね……お姉様と旅がしてみたいです!」


「私としたいの?」


「はい! もちろんです! お姉様と!」


クリスは、意を決したかのように息を飲むと真剣にミリガンにもう一度、聞き直した。


「そこに、幸助やレーラはいるの?」




回答の間。

地下の通路から水滴が落ちる音、ミリガンは、満面の笑みでクリスに笑いかける。


「お姉様とだけです。ふーん、そういうことですか……もう恥ずかしい言わせないでください! 恥ずかしい!」


その笑顔は、とても醜悪で、笑っているようで笑っていない。

罪を罪とも思わないその顔は、前世で幸助を狂わせ、クリスの中にいる真理を殺した時のような笑顔であった。

確信した。


ミリガンは、敵だ。

クリスは、思いっきりミリガンを蹴り飛ばそうとするが、ミリガンは、分かっていたかのようにその攻撃を持っていたナイフで受け流すと、クリス達と距離を取る。


「幸助! 覚悟はできたわよね!」


「ああもう! していたよ!」


コウスケとクリスは杖を構え、ミリガンを警戒するとミリガンは、おかしそうに笑いだす。


「あははは、そうですか、最初からはめる気でしたか! ですが残念! 来なさいニーズヘック! 下僕ども!」


「はい……」


生気のない目をしたニーズヘックと悪魔の羽を生やした無数のシスターが地下道の暗闇から屍のごとく、ぬらりと現れる。


「ミリガン! アンタいつから!」


「いつから? ヤダなー。最初からですよ。ニーズヘックや、このシスターは、私が魔法で操っていたんです。それにこのニーズヘックの能力を存分に発揮できるよう、工作活動に乗じて、住民を操り、お姉様の仕掛けた魔法道具を偽物にして、街灯を壊れないようにしてこの子の能力を存分に発揮できるようにしました」


前回の作戦で、街灯の破壊する仕掛けが発動しなかったのはミリガンのせいであった。

コウスケ達は、なんとなく感じてはいたが、信じたくなかった。

だから作戦も変えて、ミリガンを騙すような形で行動をしてきたが、結果がこれである。


「流石のお姉様たちも、この人数は大変でしょう。外野にいる黒竜のお姫様たちには、お姉様たちを全員殺した後に殺します!」


「いやいや、私を殺したら、アンタの作戦はご破算じゃない? 私と冒険がしたいんでしょう?」


「ええ、殺した後は、お人形にして、お姉様と一緒に冒険しますだから私のものになるため、一度だけ死んでいただけませんか?」


ミリガンの目は、盲目に自分の勝利を信じる狂人の目であった。

クリスは、勝ち誇ったミリガンを見て、思いっきり笑い飛ばす。


「あはははは! そうね! ミリガン。貴方勝ち誇ったつもりだろうけどね。その笑いをするのは私よ!」


コウスケは、クリスの合図と一緒にどこか悔しそうに杖を振る。


「展開『想像:ブラックボックス』」


コウスケは、ブラックボックスを虚空から展開すると、中から、レーラ、シンジ、スズが、ドサドサと地面に落ちていく。


「な!」


ミリガンは、驚いて、目を見開く。

ミリガンのきかされていなかった情報。レーラ達は、外で待機し、竜化したニーズヘックを打つ役割であったはずであったはず。

ここにいるはずがないと言わんばかりの驚きであった。


「ふふーん! 残念でしたねミリガンさん! 私もオミトオシでした! さあ、ニーズヘック! 竜の盟約を……ってわあ!」


「ミリガンさん……ゆ、許せません」


どや顔のレーラに割って入っていくスズは、本気で悲しそうに涙をこらえていた。

そして、最後にシンジが、スイッチを持って現れる。


「ヤッホー、ミリガンちゃん。とりあえず街灯の破壊、阻止したと思うけど無駄だよ。僕は優秀なギルド長だからね。コウスケ君をギルドメンバーとして向かい入れて、クリスちゃんの張った魔法道具の上から、僕お手製の爆弾を設置していたんだ。さて、前世から言ってみたかったセリフの一つ、ポチっとな」


シンジは、思いっきりボタンを押すと、地上で激しい爆音が鳴り響いた。

それを聞いてクリスは、ミリガンに意趣返しと言わんばかりに満面の笑みで言い放つ。


「おーほほっほっほ、ミリガンを倒して、私たちは、みんな自由に冒険をさせていただきますことよー!」


「許せない! 許せない! 絶対に許さいです! だからお人形になってください!」


ミリガンは、顔をゆがめ、全員に攻撃の指令を出すように腕を振るうとミリガンの下僕となったニーズヘックたちは、クリス達に襲い掛かってきた。


「絶対にお断りよ!」

こうして、最後の戦いの火ぶたは切り落とされた。

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