第21話 前前……これ以上前世は言うとまずい

 作戦が始まる数時間前、日が落ち、昭光魔法で照らされたコウスケの部屋、コウスケは少しドキドキしながら木製の椅子に座っていた。


「……うーむ。緊張するな」


前世での記憶が思い浮かべるとコウスケは、どうにも隠匿スキルで表情を作ることもできずそわそわしてしまう。


 クリスに、部屋に行くと言われた時間。普段なら何でもない事であったが、心臓の動きが変になってしまう。


「こ、コースケ。く、クリスよ……入っていいかしら」


「ど、どうぞ!」


ノックの音が鳴り、クリスの少し緊張した声がドア越しから聞こえコウスケは、声が裏返ってしまう。


「お、お邪魔します」


「どうぞ……うん? え!」


ドアが開くと、クリスが恥ずかしそうに入ってくる。それだけでも驚きなのだが、コウスケが驚いたのは、クリスの格好であった。

クリスの服装は、普段のような魔女みたいな帽子や服装ではなく、紺色のブレザーに

ワイシャツ、下はミニスカート。


格好は、女子高校生の制服姿そのものであった。幸助のみ知った高校の制服。

それは、コウスケと死んだ恋人、そして殺した嫁が通っていた高校の制服である。


「ど、どう……? ちょっとコスプレみたいな恰好で恥ずかしいけど」


「ど、どうも何も……えーと、今は、なんと呼べば?」


ぎこちない二人。

これから何が起こるわけでもないのに顔を赤くして、目をそらしあう。

しかし、この空気に耐えきれなかったクリスは、ドアを閉めるとクリスは、勢いに任せて自己紹介をする。


「わ、私は! 塚本真理! 紅葉高校二年……の時に死んで、今は、この子、クリスの中に転生していた哀れな女の子! 大柴幸助の元恋人にして、今は、世界に名を馳せる最強の魔法使い! 今は、クリスの体のため、名前は、クリスと呼びなさい! ……ううん、ごめんなさいクリス! 今だけ昔の呼び方で呼ばれるのを許してちょうだい!」


やはりそうであった。

確信した。仕草や喋り方から、クリスが真理であることは推測できた。

だからだろうか昔の口調で話してしまう。


「……えっと、真理。昔からだけど、勢い任せの行動はやめたほうがいいぞ。絶対に後悔するから」


騒がしいクリスにコウスケは、いたって冷静にツッコミを入れると、クリスは、次第に顔を赤くしてしまう。


「うるさいわね! べ、別に後悔してない! バカ! あほ! 」


「は、はは……そ、そうだよな」


恥ずかしい時に人を指さして逆切れをする癖。

普段は見せないクリスではなく、真理のとして癖にコウスケは懐かしさからか少し目から涙がこぼれてしまう。


「なに、コー……じゃなかった幸助。人が意を決して前世の高校出の制服を着て驚かせてやろうと思ったのに……な、なんで泣いているのよ? 調子狂うわね」


「い、いやさ……前世の最後は、悪いことばっかりした俺がこんな幸せでいいなんて。なんだろう……後でスズのは、どうやって誤ればと思うと」


「ちょ! 前世の恋人を前に他の女の話なんて! って、きゃあ!」


「ごめん、今だけ。今だけ許して真理」


コウスケは、今だけでいい。今だけ、この一瞬だけでも幸せを味わわせてほしい。

人を殺し、死刑にまでなった自分が本来与えられてはいけない幸せという劇毒。

考えも責任も何もかもすべてを忘れ去られる劇毒の感触を感じたいとコウスケは、思わずクリスを思いっきり抱きしめる。


 それから数分、感情も隠蔽スキルでは隠せないほどの号泣を恋人の前でしてしまったコウスケは、恥ずかしくなり自分の座っていた椅子で小さく縮こまってしまう。


「ご、ごめん。真理つい……」


「いいわよ。ちょっと期待していたし」


お互いに抱きしめあい、再開の号泣。互いの醜態をさらして、恥ずかしくなっていた。


「けど今は違う! ん!」


クリスは、自分の頬を叩くと、真剣な顔つきでコウスケ本題を切り込む。


「互いの話でしょう! 私は、私が死んだ後の幸助の話。それに私が抱えている問題の話ちゃんとお互いに共有しましょう! こういった隠し事はしない!」


「真理らしいな。やっぱ切り替えが早い」


「まあ、それが取り柄だし。で、幸助、アンタなんかすごく大きいものかかえているでしょう。なんだったら、スズっていう転生者にもかかわってくるでしょう。その問題」


クリスの前世、真理は、昔から感情の起伏が激しかったが、切り替えも早かった。

そんな懐かしい前世の彼女を見ると、変わってしまったその後の自分にコウスケは後ろめたさを感じるが、話さなければいけない。

自分の罪を、贖罪を。

嫌われて当たり前、これが終わったら一人になるかもしれない。

それなりに楽しかった旅であるが、これは楽しむための旅ではなく、贖罪の旅。

しっかりと話さなくてはいけない。


「そうだな。じゃあ、俺の話は、真理が死んだ後からだ……」


 コウスケは、自分の罪を話した。

スズにも話したが、スズの話とは違い、クリスは、嫁とのなれそめの話では、嫉妬の目で見て頬を膨らませる。

そして、その後の俺の狂気に表情を曇らせる。

そして、スズとの前世での関係では、悔しそうに奥歯を噛みしめる。

そして、最後の日、大量殺人犯のサイコパスとして刑に処された際には、泣きそうな顔をしている。

 非常に表情豊かで、話していて面白い。懐かしい。

そしてすべてを話し終えたコウスケは、目を伏せる。

楽しい時間は終わった。

これからが贖罪の時間である。


「……以上だ。俺は、人を殺したし、苦しめた。だから本当は、この世界にきて魔物を殺した時も、ダンジョンで人の形をした魔物を殺した時も全部吐いた。ニーズヘックを殴殺した時は、スキルで誤魔化していただけで、本当の気持ちは、昔の自分に戻ってしまうようで本当に怖かった」


 自然に出る涙。後悔にコウスケは、魔物たちを殺した時の感触を思い出し、夜食べた食べ物が戻ってきそうになった瞬間、クリスは、コウスケにやさしく抱き着いた。


「ごめんね。私が……私が、優しい幸助をもっと追い詰めていたんだね。……先に死んでしまってごめんなさい。幸助を最後まで支えられなくてごめんなさい。そんなことを知らないで幸助にこっちの世界でもつらい思いをさせてごめんなさい!」


クリスは、本気で泣いた。

初めて見る号泣。幸助は戸惑うが頭にクリスの涙が当たるのが分かる。

コウスケは、心の底が暖かく温まるような気持ちになった。

そして二人はそのまま抱き合い、少しして、クリスは、泣き止むと赤くなった目じりを拭いて、コウスケから離れると、今度は、覚悟したようにコウスケを見る。


「じゃあ次は、私の話だね……」

すこし落ち着いたクリスは、コウスケの知らないその後の自分を語りだした。



「うーん、まあ、私は、前世で何人もの男に追いつめられて殺された後、気が付くとよくわからない白い空間にいて、あー死ぬんだなーとか思ってたらね。この子……クリスと会ったの。この子純粋なのにね。何かに縛られるのが嫌みたいで、常識しらずに私の手を握ると光に包まれた。それで目が覚めたらこの子の体に私が入っていたの」


 クリスはどこか呆れたように首を振り語り始めた。

転生の瞬間、コウスケは召喚がいきなりであったためあまり記憶がなかったが、どうにもクリスにはその後も、つらいことがあったのであろうどこか表情は苦しげであった。


「最初は戸惑ったわよ。いきなり知らない知識が一気に頭に入ってきて、三日は寝込むし、意識はずっとボーとしているし、ただ、だんだんわかってきたのは、この子が、この国アルマテリア王立連合国の姫様で天才魔法使いとかいう、前世じゃただの一般人じゃなるはずのない立場の子でね。ああ、こりゃ夢とか思っていたんだけれど、待てど、暮らせど夢は終わらなくてね……そんなある日、私は隣国の王子……まあ政略結婚のお相手が来るって聞いた日に、久しぶりに、クリスとあの白い空間であったの」


「……? うん、クリスの元の人格が死んで真理が入ってきたわけではないのか」


コウスケは純粋な疑問に至った。

転移と転生の違いについて、転移は、異世界に本来存在しない生き物を召喚する技術。

転生は、新たに生を受け異世界の人間として生まれる現象。

そう理解していた。

だから、真理がクリスの体に転生するのもクリスの魂がなくなり、空になった肉体に真理の魂が入っていった転生と考えていたがその考えだと、白い空間でクリスと真理が転生完了後に出会うとなるとこの考えは破綻する。


「うーん、どうなんだろう。私は、真理だけど、クリスが生前にしてきた経験も自分の記憶の様にある。だからある意味ではクリスがまだ生きているのかもしれない……まあ、転生については、この世界の専門家ですら分からないことが多いから端的に感覚の話をすると、まだ私の中にクリスは生きている。その前提で話すけどいい?」


「わ、分かった」


転生や転移、元居た世界では聞かない技術や現象に理論的な理解を求めるのは難しいことであるとコウスケは割り切り、クリスの話を聞き続える。


「まあ、白い世界でクリスは、その王子様との結婚を本気で嫌がっていたの。もう私に譲った体だけれど、その王子様とは、体を譲った後ですら結婚をしたくなかったらしくてね……」


「なんというか、そのわがままな感じは、本当に真理にそっくり……」


「あぁん……。なんだって? 私は美少女そうでしょう」


「ハイソウデス」


変な茶々を入れるのはやめよう。コウスケは、クリスのにらみに押し黙って話を聞き続ける。


「まあ、で、冒険を始めるためお城を家出して飛び出したんだけどね。けど、気が付いたの、クリスはまだ生きている。なら私はこの子に体を返さないといけないって。だって、私は、悔いが残ったまま死んだけれどクリスは生きている。なら生きるのはクリス。当然ね。だから、私は、クリスに体を返したい。けど、旅をする間で、レーラ出会って、戦っている時に私の転生時に与えられたスキルが発現した。それが『並列地獄:リンフォン』このスキルには、強い自己保管が付属していたのよ。固有魔法、スキルの一貫性と同じね。シンジの記憶や体験を阻害されない効果みたいなものでね。私はこのスキルがある限り、真理として意識や魂を手放せない」


クリスは、リンフォンを顕現させると、憎らしそうに思いっきり地面にたたきつける。


「このスキル、私……この場合は、真理としての人格がクリスの体から離れることを許さない呪いなの……だから私は、スキルを捨て、クリスに体を返す旅をしている……」


「ま、真理……」


言葉にならない涙を流すクリス。

コウスケは、そんな彼女を見て勢い任せに抱きしめる。


「痛いよ……幸助」


「分かった。俺も手伝うよ」


「けど幸助の想像魔法でも、このスキルは、無くすことができない」


「けど手伝う」


「そっか……ありがとう」


二人は抱きしめあい、そして、少し離れ二人は見つめ合う。


「私は、この体の限りあなたを愛せない。けど今だけ、キス、くらいしてもいいかな」


「知らん……けど、今だけなら」


二人は、見つめ合っていた瞬間であった。


「ストップですうぅぅぅぅ! 作戦前におっぱじめようとしないでください!」


「や、やめようよ……れ、レーラさん……あ、ふへへ、こ、こんちゃす」


良い雰囲気を思いっきりぶち壊すようにレーラが扉をケリでぶち抜き、頬を膨らませ怒っている。その後ろでは、慌ててレーラを止めるスズが、気まずそうにコウスケ達を見て変な挨拶をして、変な笑い方をする。


「……えっと、レーラさんなにを」


「最初からです! 全部聞きましたが、私にとってマリさんだろうがクリスさんだろうが、師匠は師匠です! けど、今から交尾をおっぱじめたら、三日はかかりますよ! 竜の交尾三か月連続、人間の交尾は、三日連続と祖父から聞いております! 作戦前からでは、前戯もできないです!」


「竜、絶倫ですね……」


とんでもないキレ方で乗り込むレーラであったが、クリスは、コウスケを離れ無言でレーラに近づく。顔を赤くするスズは、本当にレーラを止めようとしてくれたのだろうから許されるだろうがレーラは別であった。


「師匠……どうぞ抱き着いてきて……フゲ!」


全力のアッパーは、レーラにクリーンヒットし天井をぶち抜いた。


「レーラ、アンタ。ニーズヘックの前にお前を殺して、私は、ドラゴンスレイヤーの称号をもらうわ」


「そんな! 私は、師匠をコウスケさんのそそり立つドラゴンスレイヤーから守ろうとした……フゲ!」


クリスは、手加減をしてはいるのだろうが、レーラが珍しく一歩的に殴られている。

レーラなりの気遣いなのだろうが、竜の気遣いはどこか斜め上の発想である。


「こ、幸助さん。ご、ごめんなさい」


「いや、スズが謝ることじゃない。レーラを止めてくれたんだろう」


「へへ、うん」


スズは、コウスケに頭をなでられ、嬉しそうに笑うのだが、スズは、思い出したようにコウスケに耳打ちする。


「あ、幸助さん。レーラさんの裸を見て、ドラゴンスレイヤーを発動したってレーラさんから聞いたけど。それ、今回の作戦でも使えれば、ニーズヘックを倒せるのでは?」


幸助は、違うと否定する。ドラゴンスレイヤーは、幸助の股間の比喩表現で剣ではない。


「幸助さん大丈夫。私は、ロリだから、ロリコンの幸助さんにはきっと需要が……」


「レエェェェェラアァァァァァ!」


ロリコン容疑をスズに風潮したレーラにコウスケは、怒りを感じ、クリスのレーラ折

檻に加わるのであった。

スズは作戦前にレーラが倒れないかが心配で仕方がなくなってしまったのであった

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