第20話 ルャギおデミブバ(くだらないので逆から読まなくていいよ)

真夜中のリスタトリニティの屋根の上、全員は、はっと目を覚ますように意識が拡声する。


それは先ほどまでの修羅場を思い出してなのかコウスケとレーラは、茫然とし、自らの死を自覚してしまったからか、恐怖で顔をゆがませるミリガンたち。

反応はさまざまであったが、クリスはここまでの時間遡行は成功であるとほっと一息つく。


「みんな起きた? おはよう、ようこそ新しい世界へ」


「し……師匠、これは、一体?」


比較的冷静であったレーラは、クリスに飲み込めない状況を不安そうに聞く。状況はなんとなく理解できたが信じたくなかった。


「あー、私の固有魔法『伝承の模倣可能』にはね、一個だけ、異質なもの伝承を模倣

ではなく実物を出してしまう。それがこれ、展開『オカルティズム:りんふぉん』」


 クリスは、自らのスキル『並列地獄:リンフォン』を固有魔法の様に発動し、リンフォンは、鷹の形を模倣。瞬間、時間が止まる。


「時間を止められる時間は……うん、今は、二十秒くらいが限界か、これ以上は、またメイが顔を出してきそうだし、これ以上はなしということで……」


止まった時間の中クリスは、杖を箒に変え、その上に座り、レーラの上まで飛翔し空中で浮遊、そして、時間の停止を解いた。


 世界に色が戻り、時間が動き出すとレーラは、目の前からクリスが消え、宙に浮いているように感じる。


「し、師匠、今瞬間移動を……いえ、微妙に漂う魔力の残滓。師匠、もしかしてですがこれは時間操作の魔法ですか」


「そ、時間を止めることだけだけどね。この魔法は、私が思い浮かべる前から勝手にあった『伝承の模倣可能』の標準装備……というか呪いね。この伝説には、使い切りの奥の手があるの。それが一回のみの時間遡行。遡行先の条件は、りんふぉんを使ったタイミング、遡行対象は、遡行時りんふぉんの起動を目視している場合」


「時間の遡行……そんな魔法! 使ったらそれなりのリスクが!」


「リスクはあるけど話せない。それがリスクを貸すうえでの条件だから説明できない。けど時間が遡行したのは事実」


時間の遡行をした。

コウスケは、この事実を受け入れると混乱と死の恐怖で苦しそうに戸惑うスズに近づく。


「スズ……もしかして本当に生きているのか……?」


「……今はどうにか……けど、わたし、ひ、人をあんなにいっぱいの人を足蹴にして踏みつけて……うぅぅ……うえええぇぇぇぇえぇぇ」


スズは、前回の操られているとはいえ、人を能力で無差別に操り、結果殺した。

なかった扱いになったが、その時の感触感覚は鮮明に覚えていたからか、近づくコウスケなど関係なしに激しい嘔吐をしてしまう。


「げふ……本当に……ごめんなさい……って、こ、幸助さん! 汚れます! 汚れますからくっつかないでください!」


「良かった……良かったよ」


コウスケは、嘔吐物で服が少し汚れたスズにかまわず抱き着き涙を流しだす。


「……え、えーと、クリスちゃんいいか?」


茫然と立ちすくんでいたシンジは、状況を確認するため、確認をする。


「つまりここは、作戦前夜の僕たちが出会った屋上、ニーズヘックは、リンフォンの目撃をしていないという状況でいいか」


「そういうこと。さすがシンジ。前回の私たちには情報のアドバンテージがなかったけれど今回は違う。コウスケ達を作戦上教会の調査に赴く必要がなく、前回、完膚なきまで破壊された細工と残ったリッパーの子ども達の保護に手を回せる」


「うん……それなら情報の……」


「ちょっと待ってください!」


ミリガンは、情報をまとめようとしたシンジに食って掛かるように声を上げる。

その顔は真剣そのものであった。


「わ、私とスズさんは恐れく状況からして、すでにニーズヘックの術中にはまっています! もし一緒に作戦行動なんてしたらまた足を引っ張ってしまいます! どうか私たちは、作戦から外してください!」


「あ……う……」


スズはその発言に下を向いてしまう。

しかし、言うことはもっともだと思ったのかクリスは、箒を杖に戻すとコウスケを呼ぶ。


「コースケ、良い? 一回で覚えなさい。私の固有魔法を見せるから重ね掛けをしなさい」


「わ、分かった」


クリスは、ミリガンに向けて、杖を振ると瞳に魔方陣を展開し、魔法を唱える。


「どうか恨みを、お晴らし下さい……恨みを取り除いてください展開『オカルティズム:くろかみさま』」


「ど……どうか恨みを、お晴らし下さい……恨みを取り除いてください展開『想像オカルティズム:くろかみさま』」


コウスケは、杖を握るとクリスに続いて呪文を唱えると、クリスの髪の毛は、黒く染まり、コウスケの黒髪は、クリスと同じ長さになる。

周りから見ると、黒い髪の毛の塊が二つに見える。突然髪が伸びたコウスケは、驚くほど自然に長くなった髪を一本抜く。クリスも黒くなった髪を抜くとミリガンの腕に巻き付ける。


「え、え……」


ミリガンは、瞬間悪寒のようなものに包まれるが、その悪寒もすぐに消える。

そしてクリスの髪は元の銀色に戻り、コウスケの髪も元の長さに戻る。


「これが、耐性魔法の上位互換よ。くろかみさまは、自分にかかる災いを一定時間妨害するの重ね掛けだから効力は二乗だから、アイツが霧の魔法でアンタらを操ろうとしてもすぐには操られないわよ」


「お、お姉様が体内に……ふへ、ふへへへ」


変な喜び方をするミリガンであったが、変にツッコミを入れるととんでもない目に合いそうに思ったコウスケはクリスをせかす。


「おい、クリス。この魔法、スズにも掛けるから手伝ってくれ」


「分かったわよ」


こうしてクリスたちは同じ魔法をスズにも掛ける。こうして、ニーズヘックにキーパーソンであるスズや、ミリガンをすぐに殺されることはなくなった。

スズに魔法をかけ終わるとクリスが、コウスケ達を仕切るように声を上げる。


「……ふう。これは戦争よ。絶対にニーズヘックを倒しましょう!」


こうして、クリス達とニーズの第二ラウンドの火ぶたは、切られたのであった。




 街灯が連なる町、クリスとコウスケは、街灯の見えない位置に起動すると貼ったものが爆破される魔法道具を張り、ミリガンが町の人に話しかけ、ニーズヘックの霧にまだあまり影響を受けていない人を中心に町の外へ誘導をしていた。


「よっと、これでだいぶ貼れたわね」


「うーん、そうだな」


クリスが魔法道具を張り、コウスケは、クリスの手伝いをするのだが、コウスケは、いろいろな人に話しかけるミリガンや、黙々と作業をするクリスを見て少し考え込んでいた。


「なによ、考え込んで」


「いや、この世界の人たちって、結構髪色が派手だよな。漫画とかにいそう」


「え……今そんなこと考えていたの? 良いからアンタも作業を続けなさいよ」


「そうなんだけどさ。ふと我に返るだろう。また考えが元に戻っていくんだよ。な、なあ、ちょっとネコミミつけて、クリスですぅー。よろしくだにゃんとか言ってくれないか?」


突拍子もないコウスケの変態発言に本気で引くクリスだが、コウスケはいたって本気であった。ずっと考えていたことをまとめるため。


「いや、ハムボは、流石に引くわよ……本当に気持ち悪い」


「いや、そこまで言わなくていいだろう」


「近寄らないでもらっていいですか? もしもしポリスメーン」


「やめろ! 俺がバブみを感じるのは、スズだけだ! あいつは正直かわいいぞ! バブみがすごいんだぞ!」


突拍子もない変態発言。

コウスケも正直言うのは恥ずかしかったが、感情は隠匿スキルで隠していたため、周りから見れば完全な変態であった。


「ええい! 勝手におぎゃってろ!」


コウスケは、現代のネットスラングでボケ倒したが、それに返すクリスのツッコミも同じく現代のネットスラング。

コウスケの疑念は、核心に変わった。隠匿のスキルはすべて解除し、素の表情で核心を突く。


「なあ、クリス。お前、転生者だろう?」


「……? 何言ってるの。コースケ、アンタ、頭でもおかしく……」


うまくごまかそうとするクリスであったが、コウスケは、これから行う作戦に、引っかかることがあった。だから確かめるためにクリスをひっかけたのである。

出来れば晴れて欲しい容疑のためにだから、信用するためコウスケは、クリスの隠していることを聞く必要があった。


「なぜ、クリスが転生者だと俺が確信したか聞く?」


「……はあ、その自信に満ち溢れた顔。まっていて。ミリガーン! ちょっと進めていて」


「べ、別にいいですけれど……お姉様、まさか、そこの雄と逢引きを……」


「しないから……頼んだわ」


「むぅ……なんだか私邪魔者みたいですが……いいですよ」


ミリガンは口をとがらせると納得いかなそうに自分の任されたことをやり始める。

クリスは、ミリガンが離れたことを確認すると、冷たい目でコウスケを見る。


「前提、本名は明かさない。私が転生者だって根拠を聞かせて」


「もともと転生の概念はあった。でもって箒で空を飛ぶ昨日のしぐさ、普段は箒を使わないのに、もしかしてと思って、ネットスラングでひっかけてみたわけだ。現代日本の知識を持っている。ましてや、他の転移者から聞いたなんて言い訳は聞かないぞ。こんなネットスラング異世界で使えないものばっかりだしな。あとは勘」


「まあ、異世界にきてまで、バブミでおギャルみたいな、ちょっと変態じみたこと言うやつは、アンタぐらいだしね」


ため息をついて、やれやれと首を振るクリス。

コウスケは、そんなクリスを冷静に見ながら、本心を聞く。


「クリス、お前の目的はなんだ」


「私の目的……そうね。私、転生って言ってもこの体は、この子が八歳のころに入れ替わる形で転生してきたの……いうなれば、人生の乗っ取り。そんなのは、私、嫌なの。だから私の目的は、体をあの子に返す。そのための方法を探すために冒険しているの。どう、信用できた?」


「……ごめん」


コウスケは、クリスの重い目的を聞いて目を伏せ謝ってしまうが、クリスは、悲しそうにそっぽを向き続ける。


「謝らないで。別に転移者相手なら聞かれたって問題ないし」


「そっか……じゃあ俺の過去も」


コウスケは、クリスが信頼できる人間であると確信し、自分の罪で塗られた過去を話そうとするが、クリスは、慌ててそれを静止する。


「ちょ! 待ちなさいよ! 聞く気なんてないから! 転移者や転生者がまともな死に方をしていないのは、私が一番知ってるし!」


クリスの優しさにコウスケは少し笑う。


「……優しいな。そうだ、ならお礼になんかおごろうか?」


「いらない。てか、アンタそんな顔もできるんだ。」


「で、できるだろ!」


コウスケはスキルなしで笑ったこと所をクリスに見られ少し恥ずかしくなりクリスに言い返すが、クリスは、くすっと笑い少し離れると振り返り、初めて見る満面の笑みでコウスケに親指を立てる。


「そっちのほうが可愛いぞ。幸助!」


「……」


 コウスケに刺激が走る。

前世でも同じ仕草、喋り方をする奴がいた。生まれた時から隣にいた女の子。

男勝りで、ガキ大将なのに、前世でのコウスケの趣味にも興味を持ち、陽キャなのにちょっとオタク向けの知識も変につけた女の子。

容姿が中世的で気にしていたコウスケに、わざと一番コンプレックスを刺激するような励ましをするちょっとデリカシーのない女の子。

コウスケは、ぼおっと名前を出してしまう。


「真理?」


「……気が付くなよ……アホ」


「ぐぼはあぁぁぁぁぁ!」


急に怖い笑顔に変わったクリスは、上に立てていた親指を下に向けると、クリスが瞬間移動、時間停止で近づいたのだろう。

クリスは、コウスケの腹を思いっきり殴りつけ、耳元でクリスは囁く。


「私の本名については、あとで二人の時間を作って話しましょう? コースケさぁん」


「へ、へい」


思いっきり殴られた腹をコウスケは痛みを耐える。

腹の痛みが言えるころにはいつものクリスに戻っていたが、コウスケの気持ちはどこか遠くへ行ってしまっていたのであった。

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