第15話 罪

 許せない。そんな感情を思い出したのはいつぶりであっただろう。

コウスケは、解散した後一人自室の宿で考えていた。人を消すそれは自分が転移する前に行った罪。後悔はしなかった。しかしその後には何も残らない。

憎しみを晴らした後、何も残らない虚無。燃え尽き症候群の様になににも力が出ない。


だからこそ……コウスケは、そう一人思いふけっていると、扉があく音がして一瞬警戒をするが、その警戒はすぐに解かれた。

振り向くとそこには、スズが一人、殺気を放ち、コウスケにナイフを向けていた。

目的は分かるよ。けどそれはやめておけ。お前は俺に勝てない。それはさっき、思い知ったろうに……」


「し……信用できない……です。だって、貴方は……私の兄を殺しました」


「前の世界の話なら……そうだな……なら、殺されてもいい。ただ覚悟しろ。その一歩を踏み出したら最後戻れなくなる。壊れるぞ」


「……う……う……なんで! なんで! お兄ちゃんを殺したんですかあぁぁぁ

ぁ!」


スズはその場にナイフを落とし泣き出した。

コウスケはなんとなくわかっていた。スズに人を殺す覚悟はない。転生者であるから、前世の記憶を持ってこの世界に生まれた。だから精神年齢は、前世の分も合わせて自分よりも上である。そんな子が、泣くほどのこと。コウスケは、自分の両手足を魔法で拘束する。


「分かった。話す気はなかったが、君には、話さないといけないね。ほら適当に座って」


「う……うう……」


スズは、ベットの上に座ると顔を伏せる。コウスケは、思い出したくない記憶を思い出しながら霧に囲まれた夜空を眺め、そして語りだす。


「君のお兄ちゃん……覚えている。三浦正輝……。あってる?」


こくりと首を縦に振るスズ。


「うん、良かった俺はまだ自分の罪をちゃんと覚えているみたいだよ。今から話すことは、話さない。いいね」


「はい」


スズは、そういうと目を伏せる。コウスケは、謝らない。悪いことをした。罪を犯した。しかし安易な謝罪は、自分の行った行為への逃げだと思うから。


「俺は、前の世界で、嫁と出会った、高校の時に付き合っていた恋人の葬式がきっかけで、数年後結婚した嫁なんだけど、その嫁を殺した」


「じ、自分の妻を……なぜ、それがお兄ちゃんにつながる……ですか?」


「俺の嫁、すごいんだぜ。まさに運命って思ってた。葬式で一緒に泣いて、その後は、ずっとそばにいた。事故にあいかけて俺が助けたりとか、同じ大学で俺がけがをした時もすぐに助けてくれた……でも全部嫁が仕組んだことだったんだ。全部運命に見せかけた計画だったんだ。俺の元の恋人を殺すところから」


スズは絶句した。

スズも人並みに少女漫画を読んでいた。運命の的な出会いに胸を躍らせ、トラブルに肝を冷やす。そんなすべてが仕組まれていたなんて言われたら信じられるだろうか。


「うちの嫁は、昔から頭がよかったんだ。それも引くほど。ある時日記を見て発覚したんだが、その頭で何人もの人間を操っていた。薬、性欲、金、権力。あらゆるものをすべて自分の手を汚さずに操った。その操った人間で、俺の当時の恋人を殺したんだ。そして俺と付き合い結婚した。信じられるか全部嘘だったんだ全部。笑えるだろう」


「笑えないです……」


自暴自棄に笑うコウスケに察したスズは、両手で黒装束を握って感情の発露を我慢していた。


「うん、見た瞬間。俺はこれを見たこともすぐバレて殺される。なら復讐しようって思ってなそのあとすぐ嫁を殺した。それで壊れたよ。嫁に操られていたやつらが俺の恋人を殺した。復讐殺す。どうせ嫁を殺して終わった人生すべて殺そうって壊れた。その中に三浦正輝もいた。だから殺した。操られた人間を殺しつくしてそして……何もなくなった」


「お兄ちゃんは、貴方の恋人を殺した……信じたくはないですが……確かにお兄ちゃんは、いつからかずっと怯えていました。けどそれが殺していい理由になりますか! どんな理由があろうと! 私の兄ちゃんを殺されました! もっと他にやり方はあったはずなのに……大柴幸助!」


スズは意を決したようにナイフを構える。コウスケは、スズを見るがコウスケの表情は感情が全くない無表情。あきらめた目。


「それで俺は自首し、死刑になった。ようやく死ねると思った刑の執行日、この世界に転移してしまった。この世界は、人を殺した俺の償い生きろということだと思っている」


「……」


スズは、前世で、兄が死に犯人を捜した。

そして、ある日突然のニュースに愕然した。兄を殺した犯人の自首。裁判では一度も謝らないその姿勢に検察側の主張である極刑判決により死刑が決まった。

しかし当時のスズの気持ちは、判決を聞いても晴れることはなく、そして、ふらふらとした足取りで帰る中、事故により命を落とした。

そして、転生後も事件を覚えていた。その話を転生後の両親に話してからは気味悪がられ、スズはこの世界での名前を捨てた。

そして、目の前にいきなり現れた復讐の機会。けれど手は動かない。殺せない。

けれどスズは、嘘をつく。


「殺します」


「ああ、お前は、俺になにをしてもいい。その権利がある。殺されろというなら殺される。死ねと言われれば死ぬ。それはそれでこの世界に来た意味があるしな」


分からない。スズは、コウスケの人間性や行動が全く分からなかった。

見方を変えればコウスケも被害者。けど自分の無罪は絶対に訴えないコウスケにスズの感情はぐちゃぐちゃになる。

彼と自分は、その嫁の被害者でもあるけれどこの差は何なのだろうか。スズはそれが分からなくなってしまう。

だから覚悟を決めた。


「……幸助さん」


「ん……決まったか」


スズは、彼を知りたい。それから決めよう、彼が心から殺人鬼なら殺す覚悟もできるだろう。けれど、違ったら、違ったのに殺したら自分をきっと許せなくなる。

そう思いスズは、意を決し、コウスケを見るとどこか寂しそうな顔になった。


「話しましょう。それで、お互いに理解したうえで今後のことは、考えます。今のあなたがすべき償いは私と話すこと……です」


「なんだ。目を見て話せるじゃないか。スズって呼んでいいか?」


「茶化さないでください……けどいいです。話しましょう」


スズがそういうとコウスケは自分の拘束を解くと椅子をスズに向け、過去のこと、今までのこといろいろなことを話した。

そして、長い夜は更けていく。けれど、スズとコウスケは、話していくうちに心のつかえが外れていく様な気がした。

こうして、一日は、過ぎていく頃、コウスケとスズはそのまま寝てしまい、翌日、コウスケを起こしに来たクリスに思いっきり軽蔑されたのは、また別の話であった。

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