第14話 殺意と転生

「うぅ……、シンジ。アンタはまた何やっているのよ」


状況を飲み込み、着せ替えの魔法で服装をもとに戻したクリスは恥ずかしそうに顔を赤くし、シンジを睨み、ため息をつく。


「クリスちゃん……相変わらず豪快だよね。とりあえず、知らない子もいるみたいだし自己紹介からするよ」


シンジは、金髪の髪の毛を書き上げると自己紹介を始める。


「俺は、この町の冒険者ギルド長で、今は、この街に存在を消された無職。名前を扇信二。見ての通り、元の世界ではアイドルをしていた! そんでこの子は、三浦スズ。俺は転移者で、この子は世に珍しいこの世界の転生者だ」


「あ……はい……えと、三浦……スズです」


「転生者ねえ……」


「ぴゃ……」


スズを見たクリスは、好奇心でか手錠をかけられ動けないスズを品定めするように眺めるクリスに対し、スズは気まずそうに目をそらす。

それを見て信二はクリスを優しく注意する。


「クリスちゃん。ダメだぞ。この子は、根っからのコミュ障で陰キャなんだからあまり見ないで上げて」


「こみょしょう、いんきゃ? 本当に転移者って変な言葉を使うわね……」


「あークリスやめてあげて……人としゃべったり、目を合わせるのが苦手な子なんだよ。そうだ……俺は、大柴幸助、転移者。日本人です」


クリスを静止したコウスケは自分の自己紹介をすると、シンジは、コウスケに全力で頭を下げる。


「マジでごめん! クリスちゃんやレーラちゃんと居るってことは、怪しい奴ではなかったよな! 本当にごめん! スズを殺しそうな殺気をしていてつい襲ってしまった!」


「あ、あははは……べ、別にいいよ」


コウスケは、あの瞬間敵であれば本気で殺そうとしていたが、苦笑いでごまかそうとするが、スズは、じっとコウスケを睨むとボソッとつぶやく。


「ほ……本気で殺そうとしたのに……」


「まさか! スズいいか、お前みたいに小さい子を殺す訳ないじゃん」


「……う、ほんと……なのに」


ああ視線が痛い、コウスケは、視線を逸らす。

なんとも言えない気まずい空間、しかし、一番状況を読めてないであろうミリガンがスズにやさしく話しかける。


「スズちゃん。何があったかは知らないけれど。大丈夫、さっきのお姉様の暴走を守っていたのはコウスケも一緒。少しだけ歩み寄ってみないかしら! 私は、あなたとお友達になりたいの」


「よ……陽キャ!」


「よ……? えっと、そうね私、ようきゃ? よ」


「よ、陽キャ怖い!」


「え、えー」


なんでもない会話であったが、さっきまでの少し張り詰めた空気が消え、ようやくこの町の話について話すことができるような気がしたクリスは、シンジに話を切り出した。


「そうだな、まず町がこんなになったのは、クリス達が最後にギルドから旅立ったころだから、一年ほど前か……最初にこの街に教会ができたんだ。なんでも遠方から布教のためリスタトリニティに来たらしい。この町は、来るものも出るものも拒まない街だから、最初は、仲良くやっていたのだが、少し経って急にこの街に訪れる人が増えた。そこからだった」


「……別にここは、元々観光地だし、そんなに不思議じゃ」


「教会目当ての人が多すぎたんだ」


クリスは何も不思議でないだろうと思ったらしくつぶやくが、シンジの顔は、真剣そのもであった。クリスもその人数が異常であったことを悟ったのか押し黙る。


「教会目当ての人が多くてな、そのまま帰らない人まで出始めた。でだ、ギルドが調べに入ったが、特に異常はない。俺、嫌な予感がしてな。個人的に調べに入ると、見つけたんだ。ここに来た人の理由と教会が何をやっているかが書いてあるものを……」


「……」


シンジがそこまで話すと、スズが、憎しみのこもった顔が霧のこもった空の様に暗くゆがむ。


「そこの教会の神父は、来た人の変えたい過去を魔法で再現していたんだ。過去に犯した罪を犯さなかったら……あの時株を買わなかったら……それに一番多かった最悪な願いが」


そういうとスズの頭を優しそうになでる。スズも落ち着いたのか少し表情が和らぐ。

しかし対比してシンジの顔は、とても怒りのこもった表情になっていた。


「産んだ子どもを産まなかったことにしたい。この願いをかなえた後、生まれた子供をどうなるかわかるか」


「……察しはつきますが。けどそれは、本当に人間ですか」


信じたくない。

人間の善性を割と本気で信じているレーラは、奥歯を悔しそうにかみしめる。


「存在だけが記憶から消され、この町にいる限り町の人間は、その子を認識できなくなる」


「そ、そんな! 嘘ですそんな大魔法、ただの人間ができる訳ありません!」


ミリガンは、シンジの発言を嘘と糾弾する。

魔法は、この世界にとっては、欠かせないもの。一般的な魔法のほかに固有魔法を使える人間もいるが、そこまでの大規模魔法は、人間一人の魔力では再現ができない。

それが常識であった。


「だが、それができるんだ。竜種霧竜ニーズヘックと呼ばれる竜が、教会の神父になり町全体に建てたガス灯、それを魔法道具として扱い魔力を強化すれば町一つくらい優に覆える。それを突き止めた翌日、俺やギルドの存在は消された目的は、まだ完全に把握できないが、おそらく目的は人間の魔力を餌にすること。この町は、ニーズヘックの餌場になっちまったんだよ。俺は何もできない!」


「そ……それでも、私を救ってくれました」


シンジの悔しそうな声に気が付いたスズは、シンジを慰めるように寄り添った。

そして、代わりに話す問いを決したスズは、続けて話し出した。


「……シンジさんは、私たち存在を消された子供を保護してくれた。けど全員じゃない。私たちの中には、消した親を復讐で殺そうとする人が現れた……私たちは、そんな子供たちをリッパーと呼んで全員を保護しようとしている」


「保護って……俺たち殺されかけたぞ」


コウスケは、先ほどの状況で保護というには過激すぎる攻撃を思い出し、苦言を言うが、スズは、陰鬱な目でコウスケを睨みつける。


「……殺す気なんてありませんでしたよ。……どこかのあなたと一緒にしないで……欲しいです」


「ぐ……」


コウスケは、何も言えず押し黙るが、クリスはすべてを聞いて話をまとめる。


「つまり、ここでの私たちのやることは、神父になっている霧竜ニーズヘックの討伐、魔法の解除、それとリッパーとして、親を殺そうとする子供たちの保護、あとは、この街をもとの姿に戻す。そんな所かしら?」


「ああ、ただ俺やスズのスキル、では、奴を討伐できない。手伝ってくれるか?」


クリスとシンジの顔はまるでビジネスをする者同士の顔の様に真剣そのものであり、周囲が入り込む余地はなかった。


「なら、まずは、現戦力の確認。シンジ、アンタのスキルは、『元の世界の道具を生み出す。それに伴う完全記憶保管』確かにその銃とかは、この世界じゃチートだけど、竜を殺すには至らないのは理解できる。で、そこの子のスキルは何? レーラ達が苦戦したみたいだけど、奴を倒せないの?」


クリスは、スズを見ると、スズは、顔を伏せもごもごと話す。


「その……『女王』というスキル名です……効果は……自分より弱い者を操れます。それと、相手が許可さえしてくれれば一時的に人間も操作できます。感覚の共有もできます……けど、人を操作すると痛覚がカットできない……です。だからあまり、人は操作したくないです」


「…………いけるわね。コースケ、レーラ、それにミリガン。アンタたちも手伝って」


そうつぶやくと、全員うなずき、シンジにクリスは手を差し出す。


「その依頼受けるわ。報酬は……そうね。報酬金の他に酒と温泉の無料入浴、あと、コースケ……こいつのギルド加入許可」


「わかった。受け入れよう。交渉成立だ。明日より依頼に対する行動を開始する」


シンジはクリスの手を握る。そして契約は、成立した。その顔は、覚悟に見た顔であった。

コウスケは、絶対にこの依頼をクリアしようと一人、本気で考えていた。

人を消すなどあってはならない罪。前の世界での記憶がコウスケの覚悟をより強いものにするのであった。


「……」


殺意の視線がコウスケを刺した。

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