第13話 もってけバスローブ
薄暗く濃霧が張れない夜の町は、どうにも不気味であるが、黒いローブを頭にかぶり、建物の屋根に立つコウスケとレーラは、それ以上に不気味な雰囲気を出している。
「えっと、なんで屋根の上に立つ必要があるの? 普通に足元不安定だし、不審者扱いなんだが……それになにこのローブ」
「いやいや、雰囲気って重要ですよ。それにこの黒いローブは、気配を察知することにたけた魔法道具です。探すにはぴったりですよ」
「えぇーまあそうだけどさ」
絶妙に中二臭いシチュエーションに少し恥ずかしさを感じるコウスケであるが、どこかワクワクしているレーラを見てどうにも否定しきれず同意してしまう。
「ですよね! かっこいいですよね! というわけでやっちゃいますよ! 真名は答えずすべてを見通す魔眼と成る『展開:索敵』」
「う、うわー」
レーラは嬉しそうに手を掲げると背中の魔方陣が光りだし、光輪が広がり町全体を一気に通過していく。
もう、中二病すぎてコウスケはドン引きであったが、効果てき面、レーラは、顎に手を当てぼそぼそと話し出す。
「ふむ、一般魔力が……そして、高濃度魔力数は……あ、あれおかしいですね。……うーん、三十人が集結?」
「集会か? それにしてはこんな時間に……酒場じゃないのか?」
のんきなコウスケとは対照的に、冷や汗をかくレーラは、大慌てで、コウスケに警告する。
「コウスケさん! 後ろ! 近づいてきます! 早く身を守る魔法を発動してください!」
「え、い、いきなり何ぃ! てんか……うお!」
コウスケは、レーラの一言で後ろに杖を構えるとそこには、黒装束を着た子供が果物包丁を持って襲い掛かろうとしていた。
「くっそ!」
コウスケは、杖で果物ナイフをはじくと横なぎに杖を振り、黒装束の子供に当てようとするが、子供は何かに引っ張られるように濃霧に消えていく。
「コウスケさん! 相手の反応は、魔物ではありません! 殺さないでください! ああじれったい! 省略! 省略! 『限定解除:黒竜鱗』」
「俺だって、それぐらい! 分かって、る! レーラ!」
レーラも黒装束の子供を着ていたローブを鱗に変え、鱗のドレスを展開し防ぎ弾き飛ばす。
しかし、様々な体躯の子供たちは、現れれば消えを繰り返す。それに厄介なものを感じ、二人は、背中合わせになりお互いに子供たちを警戒する。
「コウスケさん……基本的には身を守るだけの魔法か、一方的な暴力技しかないですよ。自分の身は自分で守ってくださいね。出し惜しみは、相手を殺さない程度で」
「わかっ……ちい! 『想像:弾ける肉体』」
無数に飛んでくるナイフ、一本一本はただのナイフだが、数えきれないほどのナイフに、コウスケは、ブラックボックスの魔法では対応できないと判断し、レーラが身に着けている鱗のドレスを想像し展開、ナイフは、四方にはじけ飛び無数のガス灯に直撃。
「小賢しいです。……?」
瞬間、火の初期魔法が割れたガス灯に飛び、ガスに引火。
ガスは爆発し、ガラスには、灼熱に煮えたぎったガラスがレーラ達の視界を阻む。
「……ふむ」
「アッツ! ああ、想像の仕方を間違えた! 火も防げるようにしてれば……レーラ?」
レーラは、黒装束の子供たちの攻撃を防ぎながら少し考える。
強者だからこその余裕、いかなる状態でも考える余裕があるのだろう。レーラは、考え込むと、ぼそぼそとつぶやく。
「おかしいです。……ですが。ふむ、なるほど……数は、三十ではないつまるところ……ああ、もう面倒です!」
「れ、レーラ!」
殺すという選択肢がないコウスケは、自分の身を防ぐことに精一杯であったが、瞬間レーラは、コウスケの最初に見た魔法を唱える。
「義体魔方陣限定展開『王座』レイラ! 殺さないでね!」
レーラは、背中の魔方陣を展開屋根から王座が出てくると、レーラに瓜二つな少女、レイラがそう王座に不遜な態度で座っていた。
『宿主。殺してはならぬとは……ふむ。まあ良い力を貸そう』
「そういう前置きはいらないから早く!」
『久しぶりの我の登場……もう少しカッコつけさせてほしい』
レーラは、レイラの登場をスルーしとっと魔法を使えと言わんばかりの口調であった。
レイラは、どこか寂しそうに口をとがらせる。
「えっとレーラさんなぜ彼女を? 彼女は、スタートしたての転生者にとって女神的が説明する役割なのでは……」
唐突なレイラの登場に困惑するコウスケであったが、レーラは、面倒そうに答える。
「えっと、この魔法は、竜の奥義的なものでして、日にあまり使えないですし、時間もわずか、鱗をささげることで発動できるのですが効力は『強制の一言』命じた一言を強制的に行わせます。まあ、死ね的な言葉は、鱗の消費が多いので使いませんが……喧しいですし、あまり使いたくないんですよ」
そんな強力な魔法を転生したての俺に使ったのかと怯えるコウスケであったが、あの時はお互い初対面、何が起こってもいいように奥義を使ったのだと自分を無理やり納得させた。
『ふむ、我の説明ありがとう宿主。使うぞ』
「頼みます」
レーラがそういった瞬間、辺りに急なプレッシャーがかかる。生物が本能的に死を感じおびえる感覚のようなプレッシャーで、レイラは言い放つ。
『愚か者ども、王の一言だ。全員、我の前でひれ伏せ』
瞬間、闇の中からいくつもの光が発光し、レイラの前に50人ほどの黒装束を着た子供が現れ、レイラの前で土下座をするようにひれ伏す。
「レイラありがとう」
『何、報酬分だ……』
そういうとレイラは、霧の様に忽然とそこから消えていく。
「さて……首謀者のみ、面を上げなさい。それ以外が上げた場合は……想像にお任せします」
レーラは、殺さないと言っていた。
これはブラフ、そう分かっていたコウスケは、何も言わない。しかし圧倒的な実力差は、そのブラフすらも気が付かせることはない。
「わ……私で……す」
その一言で一人の少女が顔を上げる。
現代では、中学生ほどの見た目の女の子、赤い前髪が長く表情の見えない少女。攻撃を首謀したものとは思えないほどの自信のなさ。おどおどとした普通の女の子という印象を受けた。
「名前を答えなさい」
レーラの態度は、どこまでも厳しく恐ろしいものであった。少女は、そんなレーラの態度におびえ頭を両手で覆うとしゃがみ叫んだ。
「『みんな助けて!』」
「わ、ぎゃああ!」
瞬間、口から魔方陣が発動した。レーラ達は、とっさに防御姿勢を取るのだが、その声に呼応するように、町中にいた虫やネズミなど数多の生物がレーラ体を襲う。
レーラは、気持ちの悪い生き物大群に小さな悲鳴を上げる。
それを見て少女以外の子供たちは逃げ去り、女の子も逃げようとする。
「『隠匿:解除』『想像:過重の手錠』」
「きゃ、きゃあ!」
少女の前には、コウスケが現れ少女を捕まえ、現代的な鉄の手錠をつける。瞬間少女の手錠は、ずどんと屋根にめり込み、少女の動きを止める。それと同時に生き物大群も途端にチリジリになる。
「全く、レーラ、人間って弱いほど知恵を回す。お前や、クリスには、ない強さがある」
「うぅ……面目ない」
レーラも腰が抜けたのかその場にへたり込む。コウスケは見かねて、女の子の方に向かい、前髪を上げる。
「なあ、お前は何者だ? 名前は、目的は? 答えろ。俺は、あそこのお姉ちゃんより優しくない。答えないならお前の仲間たちも全員殺すその光景を見せた後にお前も殺す」
脅迫ではない。目が本気だ。
レーラの様な強者のプレッシャーではない。目的のためならどんなことでもする。
そんな心の底からの悪性。女の子は、あきらめ、ボソッと話し出す。
「……スズ。……三浦……スズです。日本人……でした」
「へ……」
コウスケの思考が一瞬止まる。オウギシンジ以外の転移者の存在。
日本ではよくある苗字に名前。それに日本人この世界のレーラ達が使うニホンの発音とは違い、彼女が日本人であることを確信する。
「おい、おま……」
「おい! そこのロリコン! その子から離れてもらおうか!」
男の声が聞こえた瞬間、コウスケの背中に感じる衝撃。
弾く魔法を解いていれば、確実に死んでいたであろう衝撃、それをコウスケは知っていた。しかし、コウスケが振り向く前にレーラは、その男に向かい竜化した腕を振り下ろす。
しかし、男は、手に持っていたもので、レーラの攻撃を防ぐ。
「ちい! 何者だ!」
「う、うそ! ちょ! ま! ストップストップ! れれれ! レーラちゃん!」
「はあ、なぜ私の名前を!」
「お、おい! 俺! ギルド長! オオギシンジ!」
「はあ! お前がギルド長? 嘘ですね許せません! 証拠がありません! それにそんな軽薄そうな見た目! 信じられません!」
レーラは、シンジと名乗った金髪のマッシュヘアーの軽薄そうな男に問いただすが、コウスケは気まずそうにレーラに言う。
手に持っているものは、現代的な兵器、俗にいうスナイパーライフルである。
「あ、あのーレーラさん。その人の持っているもの、俺の世界では、スナイパーライフルという長距離発砲が可能な銃でございまして……その、その銃をどういった系で持っているかは分からないけど、たぶんその人が俺たちの探しているオウギシンジで間違えないと思われます」
「コウスケさん……私が人の顔を間違えるとでも」
真剣な顔でコウスケを睨むレーラであったが、コウスケは、一言だけ添える。
「覚えようとしないと人間の顔は、みんな同じ顔に見える……そういったのはお前だぞレーラ」
空白の間。
目を点にしたレーラは、コウスケとシンジを交互に見る。
「す、すみませんでしたあぁぁぁぁぁぁ!」
そして状況を飲み込んだレーラは、魔法を解くと高速で土下座をし、全力でシンジに向かい許しを請うのであった。状況を飲み込めていないスズはポカンとした顔をしたが、それは、コウスケも同じ気持ちであった。
「あー、だめだ。『想像:呼び出しドア』」
「きゃあ!」
「ぎゃあ!」
意味が分からないこのカオスな状況を収集すべく、コウスケは、魔法でドアを生成し、そこから、はだけかけたバスローブ姿で抱き合っているミリガンとクリスを呼び出す。
「え……きゃああああ!」
「痛いわねぇ……にゃによ……コースケぇ。今ミリガンが体に隠した飲んだことのないオシャケをのませてくれ……」
ミリガンは、状況が呑み込めないうえあられもない姿を隠そうとその場で縮こまるが、クリスは、いまだにフラフラしている。
「何を飲ませようと……今は、有事だから聞かないけど『想像:酔い覚まし』」
瞬間、クリスを光が包み霧散する。クリスは、酔いがさめた瞬間まだ頭がぼーっとし
ているのか、薄ら眼で状況を確認する。
あまりにラフな格好、女性の恥部があらわになりかけている格好に野外、そしてコウスケ達威勢がいて、クリスの目はとても冷たくなる。
「……状況は、読めた」
「あ、あわわわわ!」
レーラは、大慌てで逃げようとするがすでに時は、遅かった。
「『展開:オカルティズムりんふぉん』死ねええええええええええ!」
レーラははだけそうなバスローブを気にせず手元から出した正二十面体をクマの形にすると黒い炎が雨の様に降り注ぐ、炎は、建物を壊さず燃えもせずコウスケ達だけを狙い降り注ぐ。
「ご、ごめんって! だからやめてえ!」
コウスケ達は、全力で攻撃を防ぎ、クリスの攻撃が収まるまでの一分、本当に死にかけたのであった。
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