第11話 霧と教会の街リスタトリニティ
歩いて、約2日、その霧は、突然、コウスケ達の前に現れる。昼なのに日は射さずに、夜と間違えてしまうほど暗い霧の中に壁のようなものが見えた。
「ふー、やっと着いたわ。ここが湯煙と酒の街リスタトリニティ! ここの冒険者組合……ギルドは、私のホームギルド! 詰まる話、私は、ここのギルド所属ということね!」
「うーん、その説明は必要か? 別に組合所属ならどこでもいいのでは……」
テンションの高いクリスに比べコウスケは、なんともしっくり来ていないリアクションであった。
「あー、コウスケさん。一応入るギルドにより、依頼や報酬も変わってきてですね。さらに組合加入特典が、なんとも師匠と、その……私のお好みで……」
恥ずかしそうに頭をかくレーラにコウスケは何ともぴんと着てはいない。
「うん? レーラとクリスにある共通好みの加入特典? それは羽毛布団や洗剤の販売権利とかか?」
「そんな危ない商売話ではなく……その、私は温泉の入り放題券」
「そして私は、酒の飲み放題権利!」
「あ、あー。うん、ソウネー。君たち、割と我欲は強いものねー」
コウスケは、呆れた目で二人を見た。
クリスの第一印象は、アル中オッサンだし、レーラは真面目そうに見えて、性におおらかすぎる上風呂好き。
コウスケは、組合加入特典が俗なもの過ぎて不安になってしまった。
「ま、まあいいじゃないですか! と、とにかくそろそろ全貌が……え……」
「どうしたのよレーラ……うむぅ……」
そんな話をしていると二人は、リスタトリニティを見て顔をしかめる。
それは、コウスケも同じであった。
その都市は、湯煙と酒の都市というには、どこか不気味な石造りの壁が高く立ち、濃霧の中にぼんやりと光るガス灯が怪しく陰鬱な印象を受ける都市であった。
「温泉という割にはなぜかガス臭いし、酒ではなく工業製品を作っているような……」
「……師匠、道でも間違えましたか?」
「間違えていないはずなのだけれど……うーん、前に来た時の雰囲気と違って私だってちょっと混乱してるわ……うん、一応、念には念を込めて……コースケ飲みなさい」
三人ともリスタトリニティの街並みを見て困惑していたが、クリスは何を思ったのか魔法を展開し、虚空から小さなボトルのようなガラス容器を二本出すと一本をコウスケに投げ渡す。
「お、おっと! な、なんだこれ……って、う、こ、これ酒か!」
「……んく、そうよー、このお酒はね、耐魔力耐性を与えるのよ。まあ、レーラは、元々竜族で私たちに比べて魔力体制が異常にあるから飲まなくてもいいけど、私たちは別、人間である以上対策は必須よ」
「うーん、いいけどさ……」
コウスケは、勢いよくボトルに口をつけると、一気に中の酒を飲み干す。
のどが熱くなるが、不思議と飲みやすいお酒にコウスケは、驚きながらも、どこか不思議な雰囲気に包まれたような気がした。
「うーん、師匠、いつもながら臆病すぎやしませんか? 別に師匠なら、耐魔法でも何でもできると思うのですが……」
「いや、ババァみたいに魔方陣自体を封じる魔法なんてかけられたら私は、ただのか弱い女性なのよ」
「「か、か弱い……?」」
「ん? おほほ、何か言ったかしら」
クリスは、魔法がなくても二メートル越えのイノシシを素手で殺し、酒つまみにしていたのを思い出しコウスケとレーラは首をかしげていたのだが、クリスの圧にそれ以上二人は何も言うことはなく、そのあとは無言のままリスタトリニティの中に三人は入っていったのであった。
「見た目、ガス灯と霧以外に変わりはないですね」
「そう? 所々知らない店はあるし、あったはずのお店がなくなっているわよ」
ガス灯に濃霧が晴れない街だが、露店型の店舗が多くあり、街自体も活気にあふれていて、住民が困っているような気はしないが、逆にこの活気がレーラやクリスには奇妙に見えた。
そんな二人は、街に入った瞬間当たりの目を気にせず、チェックを続ける、それに対してコウスケは目を輝かせ、辺りを見渡す。
「おお! なんだこの肉! えっと翻訳魔法……おお! ハイパージャイアントマイマイの串焼き! あのカタツムリ食えるんだ! おっちゃん、これ一本頂戴!」
「よし、大銀貨1ま……」
「あー、いりませんのでさようならー」
「わ! ちょ! ハイパージャイアントマイマイ!」
クリスたちは、ハイパージャイアントマイマイの串焼きを買おうとしたが、クリスとレーラは、それを買う前にコウスケを連れ遠くまで走っていった。
「な、なんだよ! せっかくこの世界の文化料理を買おうとしたのに!」
コウスケは、悔しそうにクリスたちに抗議するが、そんなコウスケにクリスたちは、頭をかかえて溜息をついた。
「えと、コウスケさんは、『すてーたす』を見る限り異世界のニホンから来たのですよね」
「そ、そうだけど」
「師匠……ニホンからの転移者向けの金額表って持っています?」
「あー、持ってないけど、覚えているわ……」
そういうとクリスは、自分の髪を一本抜くと、魔方陣を目に浮かばせ、魔法を発動する。
「展開『オカルティズム:かみくれ』」
『かみ……カミ……神……紙……髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪髪!』
虚空から現れる手は、どこから声を出しているのか分からない声で髪と叫び続ける。周りにいる人は気が付かないが、レーラは、嫌そうに微妙に目を背け、コウスケは、この光景から目を離せず、手を震わせるが、クリスは、動揺することもなく、抜いた一本の長い髪の毛をその手に渡す。
『髪ダぁ……あリガとう……』
手は、叫ぶのをやめ、いとおしそうにその髪の毛をなで優しい声、虚空に消えていく、虚空に消える瞬間、虚空から一枚の紙が落ちてくる。
クリスは、その紙を手に取るとコウスケに手渡す。
「はい、これ日本の通貨基準が書いた紙よ」
「え、えっと呪われそうで手に取りたくないのだが、いつも思うけどさ、クリスの魔法ってなんというか、俺の居た世界の都市伝説やら、お化けみたいな気味の悪いのが多くないか? それになんで異世界の換金表が当たり前のようにあるんだ?」
コウスケは、君の悪い紙を手に取ろうとしないが、それに対しクリスは、ほほを膨らませる。
「失礼ね。私の魔法は、アンタの媒介スキルみたいに万能じゃないの。私の魔法は、『伝承の模倣が可能』この世界、貴方たちの異世界にある伝承を個人的な解釈によって再現する解釈にも制限があって、造形を知る人が多いと魔法の解像度、効果が薄くなる。だから、転移者が語る、としでんせつ? みたいに誰も知らない伝承の方が親和性高いだけ……キモイのは認めるけど、呪い的なのは再現されないから、あと転移者がこの世界は、多いから、国王から、転移者向けの料金表が出るのは当たり前よ。詐欺防止よ」
「うーんまあ、なら貰うよ……ってうえ!」
コウスケは、いろいろな疑問が一気に解決し、手に取った料金表を見ると変な声を上げる。
「えっと金貨一枚十万、大銀貨は、一万……って、ハイパージャイアントマイマイに一万って! 高すぎだろう!」
通貨表は冷酷に事実を伝える。
金貨一枚十万円、その下から価値は十分の一ずつ。大銀貨一枚一万、小銀貨千円、大銅貨百円に銅貨十円、一番小さく小銅貨一円。
紙で見れば、すぐ分かるが、転移者は、転移して早々、こういったことを教わらなくては、詐欺にあうのは必至であった。
「そうよ……まあ、何も教えずお金を渡した私も悪いけれど」
「それにハイパージャイアントマイマイは、ゲテモノ中のゲテモノ料理! あんな巨大なマイマイに寄生虫がわんさか居て食中毒は必至……普通は、市場に回ることすら禁忌の要注意食材ですよ……いや、この少し変な町ならもしくは……」
レーラは、さらっというが食中毒必死の食材が普通に売られている町が普通なわけがないコウスケはそう考えると額に汗をかきながらクリス達に、街を出ようと提案しようとするが、クリス達はいたって冷静。コウスケにとってとんでもないことを言い放つ。
「さて、ギルドにでも行きますか」
「そうですね。ギルドの温泉にも入りたいですし」
「え、えと、か、帰る……」
「ないわね」
「ないです」
「えー」
こうして嫌がるコウスケは、レーラとクリスに連れられ、ギルドに向かうことになったのであった。
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