第8話 朕と魔法の杖

そして翌朝、クリスたち三人は、準備を整えホレの家の玄関に立っていた。


「ほら、レーラいつまで泣いているの」


「ひっく……だって……まさか夜な夜なしっぽの鱗をはがされたかと思ったら。私の

羽にあまつさえ私の……うぅぅ」


「あー、なんかすまん」


「朕さんは、何も悪くないわよねぇーチンさん」


「いつまで、俺の朕さんについて話題を擦りますか! もう許して!」


「はいはい、擦るのは朕さんのチンだけにしてくださいねー」


冷たい目でコウスケを睨むクリスに二人をしり目にしくしくと泣き続ける。

そんな、分かれとは、無縁の状況、昨日の夜何かがあったらしいが、コウスケは、そんなことは聞けず、ホレを待っていると、工房から、ホレが出てきた。


「なんだい、早いじゃないか。まだ太陽が一回昇っただけだというのに、まだ一日の三分の一しかたってないぞ」


「いや、婆さん、それが一日。アンタの言う一日は、常人の三日なの、ボケたかしら」


クリスは、ホレを睨むが、ホレは、華麗にスルーをかましコウスケの前に歩いてきた。


「さて、コウスケ君、約束の品、作ってきたわよ。受け取りなさい」


「は……はい……」


「ちょ! 婆さん! 無視すんな!」


クリスは、かまってほしい子供の様にギャーギャーと抗議するが、ホレは、魔方陣の中から布に包まれた杖を取り出すのだが、クリスがうるさく、ホレはやれやれと、開いた手でクリスの頭をなでる。


「はいはい、クリスちゃん、待っていてね。貴方とレーラちゃんにもあげるものがあるからね……少し我慢よ」


「な、なによ……別に、かまって欲しい訳じゃないわよ……くそばばぁ」


顔を真っ赤にしてうつむくクリス。そんな普段見ない反応を見てか、さっきまでベソかいていたレーラが、面白そうに笑う。


「くふふ……師匠、子供みたいです」


「んな! レーラ! 分からせてやるわ! 私の肉体言語で分からせてやるんだから!」


「きゃあー!」


レーラとクリスは、玄関を飛び出し追いかけっこを始める。どっちも子供じゃないか……など、口が裂けても言えないコウスケは、ホレに目をむきなおす。


「では改めて、コウスケ君……今から渡す杖は、仲間を助ける物になるかもしれない。間違えれば人を殺す物になるかもしれない。この杖、貴方は使い方を誤らず、正しく使えるかしら?」


「分からない……けど自分が、正しい、納得できるように使わせてもらいます」


まだ分からない。この世界は、比較的平和である。コウスケの居た世界ほど冷たくない、悪意は、ない。

けど、どれはまだ世界を知らないだけ、自分がどうなるかなんて分からない。この問いに、責任もなく答えたくない。コウスケは、しっかりと自分の考えを伝えるとホレは、嬉しそうに杖を渡す。


「うん、私は好きだねその答え握ってごらん」


「は、はい」


握った瞬間、布は、するりと床に落ち、杖が出てきた。

長さは、60センチほどの黒いベースの杖、先端には、赤い球のような小さな宝石がはめ込まれており、レーラに渡された時の棒きれの状態より、軽く杖を振りやすいのにもかかわらず、やけに肌になじんだ持ち手は、体の一部の様にすら感じる。


「す、すごい……手になじむし、不思議と魔力? 分からんがそんな感じのようなものの流れもいいな」


「だろう……私の傑作じゃ」


笑顔のホレだが、ふとコウスケは気が付いてしまった。


「えっとホレさん、この宝石とか装飾までもらっていいんですか? 正直高そうですが」


「大丈夫! その装飾も素材も全部、昨日来た心優しい素材提供者から、無理や……いや、快く譲ってもらったものを加工しただけだからね」


「……聞かないでおきます」


昨日何が、レーラの身にあったのだろうか、考えるといけない気がしてしまい、聞くのをやめたコウスケ。ホレは、コウスケを見ると嬉しそうに頭をなでる。


「ありがとう。まあ、あの二人を頼むよ……何分危なっかしいからねぇ」


「あの二人は、大丈夫じゃないですか? 強いですし」


「ほほ、若いな」


ホレは、二人を見ると少し憂いた様に話すが、そんな雰囲気など一瞬で吹き飛ばし、外で駆け回る二人に声をかける。


「おーい! クリスちゃん、レーラちゃん! あんたらにも渡すものがあるんだよ。戻ってきなあぁ!」


「ぎゃあーーぁぁぁ! し、師匠! ほ、ホレさんが呼んでますよ!」


「うるさい! ここでレーラ、アンタを殺したる!」


昨日と比べ牧歌的な光景を見て、ほっとするコウスケと、やれやれと溜息をつくホレ。

けれどその表情はどこか嬉しそうな表情で二人を見ていた。

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