第4話 喧嘩するほどなんとやら

 崖に掘られた柱が4本見上げるほど高く立っており、柱の間に見える入り口は、明らかに人間がより大きい生き物が入るために作られた入り口。

調査隊の格好をした魔法使いがグループや、幸助たちと同じダンジョン攻略組が集まっており、周囲は少し騒がしかった。

コウスケは、そんな遺跡を見上げて1人唸りを上げていた。


「おお……でかいな、これがダンジョン! 遺跡か! でかいな。実にでかい」


「ちょっ、声がでかいわよ、少年。恥ずかしいじゃない」


「あの、クリスさん、いい加減呼び方、少年じゃなくて、俺の名前で呼んでくれません?」


「あー、じゃあ、コースケでいいわね。てか、結構くだらないことを気にするのね」


クリスの呼び方をどうにか直したコウスケであったが、そんな二人にレーラが一枚の紙を持ち走ってきた。


「もー、しゃべってないで、同意書にサインを書いてくださいよ……手続きしないとダンジョンには潜れないんですよ!」


「え、勝手に入っちゃダメなの」


コウスケの驚きに対して、レーラは呆れたように頭をかかえ、コウスケに丁寧な説明を始めた。


「いいですか、そもそも遺跡に勝手に入って、死んだらどうするんですか? 誰が助けてくれます? それに発見されたばかりの遺跡には、国宝級の宝や戦略魔術兵器が眠っている場合があるんです。そんなものをどこの馬の骨かもわからない冒険者に勝手に漁らせてトラブルの原因を作る国がどこにあるんですか? 必ず冒険者のダンジョン探索には、申請と死亡時の誓約書などが必要なんです」


「面倒よね。勝手に入った時、どれだけ怒られたことやら」


「師匠は、コウスケさんと違って、この世界の冒険者なんです! ルールは守ってください!」


やれやれと首を振るクリスにレーラは本気で困ったような声を上げる。

コウスケは、二人の関係がなんとなくわかってきた。レーラは、黒竜という種類の竜族だが、驚くほどまじめで、ルールをちゃんと守ろうとするが、自由の権化みたいなクリスに手を焼かされているのであろう。


「まあ、名前は書くが、いいのか? 俺は異世界の文字なんて書けないぞ」


しかし、コウスケには、一つ重大な問題があった。異世界にきて三日ほど、どうやら、言葉は、伝わるようだが、異世界の字は読めず、自分の字も書けずにいた。

それを聞いた瞬間、気まずそうに眼をそらすレーラは、おずおずと説明をした。


「ああ、今回は、大丈夫です。コウスケさんの場合冒険者登録していないですから、師匠の使い魔……いうなれば所有物として登録してあります。すみません、元々次に行く街で冒険者登録する予定だったので……。ま、まあその際に転移冒険者用の同意印鑑も貰えるので問題ないですよ」


「お、俺は物扱いか……」


「そういう訳、コースケ、アンタは、私のペットなの! やはり名前は、ポチちゃんかしらねえぇー。おーほほ、ひざまずいて靴をなめてもいいわ」


自分の扱いに納得のいかないコウスケであったが、それ以上にクリスの態度が優位感情丸出しの発言に納得が行っていなかった。


「む……『スキル隠匿』からのさっき落ちていたジャイアントマイマイ」


ジャイアントマイマイは、ひんやりとしたなめくじのような触感したカタツムリ、コウスケは、珍しそうに大切に保管していたが、この時のためにとっといたと確信しコウスケは、隠匿のスキルで気配を消すとジャイアントを、クリスの服の襟首の中にすっと入れた。


「ぴゃあ! こ、コースケ! あ、アンタ! うぅ……展開『浄化』」


「おーおー、態度のわりにかわいい声を出しますねぇ、所有者様」


「ぐぬぬ、コースケ……よくも。展開『ファイアボール』」


今まで、飲んだくれ嘔吐、すましたような態度ばかりでオッサンの様であったクリスから聞こえる女の子が驚く声、コウスケは、やってやったと誇らしげな態度で、クリスは、イラっと来たのか魔方陣を展開し火の玉をコウスケに放つ。


「『隠匿』」


「うお! だ、だれだ! いきなり魔法ぶっ放す頭のおかしい魔法使いは!」


クリスの視界からスーッと消えるコウスケ。火の玉は、空を切り、岩を穿つ。

急に起きた衝撃に驚くほかの冒険者や、魔法使いだが、二人の喧嘩は、止まる様子がなかったのである。


「あわわ、ふ、二人とも! やめてくだ「ファイアボール」……びゃあ!」


二人を止めようとしたレーラであったがクリスの魔法の流れ弾がキレイに顔面に直撃し、変な声を上げてしまう。


「くう……コースケのスキル……まさか魔力感知の網まで完全にすり抜けるとは、流石転移者、スキルはチート過ぎるわよ! ぴゃあ! ぐぬぬ、コースケ! 絶対殺す!」


「ふふん、初めて使ったスキルだったが、中々使い勝手がいい。これなら……グエ!」


「……そのスキル、大変高度な隠密スキルのようですが、しゃべったりすると魔力感知は解けるようですね。全く……変なことはあまりしないでくださいコウスケさん」


「よくやったわ! レーラ! よし、死ね! コー……って、きゃ!」


隠密スキルをといた瞬間レーラにゲンコツを食らい倒れるコウスケ。これを勝機と言わんばかりにクリスは、杖を構えるのだがレーラは、慣れたようにカバンから出した大型のハリセンでクリスの顔面をたたく。


「師匠も変なことしないでください……」


「な、なぜ魔法が使えないの」


「これは、ツッコミ用ハリセンです。他にもハンマーや金たらいがあります。竜族の奥義の一つです」


「な、なんと恐ろしい流石は、竜族」


ツッコミの不在、クリスは悔しそうにその場に身を伏し、コウスケも気絶している中騒ぎを聞いた魔法使いの責任者が、こっちに駆け寄ってきた。


「おい君たち! ダンジョンを前にして騒ぐ気持ちは分かるが周りの迷惑も考えてくれ!」


「すみませんでした……うちのパーティーが……って、え?」


レーラは、怒った責任者に謝る。

責任者は、レーラを一瞥すると三人を魔法で拘束する。


「ちょちょ! なぜ私まで拘束されて!」


「いやいや、君もこのパーティーなんでしょう。騒いだのは同罪だって……ついて来てもらえるかな」


「うぇえん! な、なんで私まで!」


泣いて抗議するレーラだが、主張は受け入れられなかった。

レーラ達は、遺跡の責任者に連れていかれ、しっかりとお説教を食らったのであった。

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