第3話 ぱっとしないですね

焚火を焚いた肌寒い平野、レーラは、晩御飯の用意をし、コウスケは、椅子代わりの丸太に座り、地べたで爆睡するクリスを見ながら、レーラに話しかけた。


「なあ、レーラ、いま大丈夫か?」


「いいですが、食事の文句は聞きません。貴方は、今やこの世界の転移者。郷に入るば、郷に従え。私のおじいさまの言葉です」


レイラは、ミルクを野菜や、肉で煮込み料理をしながらコウスケの質問に答えるそぶりをするが、料理をしているためか、コウスケから顔が見えていなかった。


「……まずさ、異世界もののお決まりとして、転生者や転移者は、何か固有スキルみたいのをもらうのが定番なのだけれど、俺にも何かあるのか? 神様にそんなものもらった記憶がないんだよな」


「ああ、スキルですね。そうですね……『すていたす』なるスキルが転移者は共通で使えるスキルらしいのですが、魔力の流れを利用して使う術式ですので、まずは、魔方陣魔法について教えますよ……そういえば、コウスケさんは、パンでいいですか」


鍋を見ながら話すレーラ、説明をしながら、コウスケの主食を聞くが、コウスケは少しその姿に戸惑った。


「えっと、コメが好きだな」


「うむ……コメですか。なら、魔法を見せがてらコメを焚きますね。『ブラックボックス』米炊きおひつ、コメ。この通りにこの世界の人は、自分や自然に流れる魔力を、声や瞳を媒介に魔方陣を展開し、魔法という技術を使います。私は、声を媒介に、師匠は瞳を媒介に魔方陣を展開しています。コウスケさん、貴方も何かを媒介にすればすぐに使えるはずです。目をつぶり、熱が集まるような感覚がある部分、そこが、魔方陣を展開しやすい媒介部です。やってみましょう」


「わ、分かった」


お米に、鉄鍋のおひつを魔方陣で出して見せたレーラの言葉を信じ、コウスケは、目をつぶる。体をめぐる熱を感覚で感じようとする。


無意識。

無意識のうちに幸助の右手は、肩のあたりまで伸び始める。

腕に集まる熱、魔力という新要素に戸惑いながらも、魔力を熱と考えると自然と体が動きコウスケは、レーラの見よう見まねで声を出した。


「展開『ステータス』」


そう発した瞬間コウスケの手には、魔方陣が展開され一枚の文字列が空間に現れる。


「え、ええ! で、できた」


「そりゃできます。これは、転移者共有スキルというやつらしいですから。むしろ私たちは、このスキルという能力は使えませんから。これはあなたが転移者である証明です……さて、あとは、待つだけですし、コウスケさんのスキルを見ますか」


「ち、近い!」


レーラは、魔法で展開した料理から手を放し、コウスケの横に座る。

その距離は、髪の毛の匂いを感じるほど近く、コウスケは不意にドキッとしてしまう。


「いや、そんなビックリしないでください。この姿だと悲しいですが、人間わらべと同じくらいの姿です。コウスケさんが発情できるわけ……もしや、小児性愛者ですか」


「違うわ……いや、これは……」


「うん、別に性器に毛が生えようとも経験がないのであれば、それは、ある意味子供のようなものですね……さてステータスは」


しれっととんでもないことを言うレーラに妙なイラつきを感じるコウスケだが、自分の出したステータスに目を通す。知らない文字のはずなのに自然と文字が頭に入ってくる。


「ふむ……」


ステータスを凝視するレーラ。その表情は、驚いたり、微妙な顔をしたりする。

ああ、これは驚かれるか、そう思いながらコウスケは、ステータスにじっくりと目を通す。


『スキル媒介:非生物を魔法媒介にして、魔法を想像することができる。隠匿:隠すスキル』


「媒介のスキルは、中々ですが、この隠匿……これは見たことがないです。……スキルが二個あるのは珍しいですがなんというか、ぱっとしない組み合わせですね」


「パッとしないとか言うな」


別に異世界転生して夢想をしたいわけではなかったコウスケだが、ここまで不通を連呼すると悲しくなってしまう。


「まあ、そろそろ魔法でお米もできますし、コウスケさん、師匠を起こしてください。そうだ折角ですし、媒介のスキルを使ってみてはどうですか? 『ブラックボックス』竜の爪……これを媒介にしてください」


レーラは、魔方陣から、一本の黒い棒のようなものを出すとコウスケに投げ渡す。


「おっと、この棒は?」


「私の竜化状態で採取した爪を棒きれにしたものです。素材は、一流品ですが、このままでは、ただの棒。ですが、コウスケさんのスキルならこの棒を媒介に媒介のスキルが使えます。さしずめ、転移ぼーなす? なるものです」


「転移ボーナスが棒って……まあいいか。ふぅ……『媒介』」


コウスケは、魔力を右手に持った棒に集める。瞬間、棒は、黒く光り、黒い炎のような魔方陣を描く。

瞬間、頭の中に響く悲鳴、憎悪、思い出したくなかった黒い感情。色々な邪悪な感情がこみあげてくる。しかし、この感情は、もう忘れようとしていた感情。

コウスケは、必死に黒い感情を押し殺し、使いたい機能、人を起こす行為を思い描く。

すると棒は、一本の宙に浮いたロープに変形した。


「ロ、ロープってコウスケさん。変態?」


「どんな妄想をした! このおませドラゴンは!」


「お、おませって! 私は、500歳を優に超えているんですよ! おませなんて! それよりそのロープ使ってみてください!」


何を妄想したのか顔を赤くするレーラをしり目に、コウスケは、宙に浮いたロープを両手で握るとおもいっきり、ロープを振りぬく。瞬間、ロープは、途中で何かに当たったあのようにはじき返り、瞬間大きな鐘の音が周囲に鳴り響く。

ゴーン、ゴーンという爆音は、辺りにいる生物の耳に響く


「ぎゃああああ! う、うるさい! 何事よ! レーラ! って、な、なにその男!」


ロープは棒に戻り、クリスは跳ね起きるが、何も覚えていないのか、コウスケを警戒し、瞳に魔方陣を描くのだが、レーラは、溜息を吐いた。


「はあ……。師匠、転移魔法を酔っぱらって使った時のことを覚えてないのですか?」


「いや、酔っぱらわないとお酒に失礼だけど、記憶を飛ばすのはもっとお酒に失礼……ううん! 転移…………あ、そういえば思い出した! 私酔った勢いで、転移の議をしたんだっけ……まあ、ご飯だろし、その時にゆっくりこの少年から話を聞きましょう!」


クリスの能天気な発言にレーラは、言葉を失いコウスケも膝から崩れ落ちた。

「もう……食事しながら全部話しますよ、師匠」


「なはははは、頼むわ、レーラ」


すべての元凶は、何も悪びれることもなく丸太に座り笑い出す。

レーラは、自分に沸く殺意のようなものをどう処理するかに戸惑ったが、クリスにもコウスケとのいきさつを話したのであった。

コウスケは、自分が酔った勢いでの転生と知り、少しショックを受けていたが、クリスやレーラにとっては些細なことであった。


「俺、一体どうなるんだ……」

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