第2話 吐けば売れる(迷信)
「な、なにこれ、異世界でも俺は……」
アルマテア某上空。
晴れ渡る晴天、黒竜になったレーラ、魔法により風よけが施され快適な背中の上、少年と混乱のさなか背中に捕まり、酔いつぶれたクリスは、ぐっすりと眠っていた。
黒い服を着た少年自分に起きたことが理解できなかったのかぼそぼそと、つぶやくと、レーラは、自分の背中に魔方陣を描いた。
「あー、ウチの師匠が、本当にご迷惑をおかけいたしました。少しお待ちを、状況把握が必要だと思いますので説明しますね。義体魔方陣限定展開『王座』」
魔法陣からは、王座に仰々しく座るレーラが登場した。
『ひざまずけ、人間。我は、レイラなり、頭が高い』
「わわ、レイラ! もっとお行儀よく!」
『だが、宿主よ、我は竜の分身! 身分が……』
「身分じゃありません! 客人には丁寧にと普段から言っているでしょう!」
『う……うむ』
仰々しくしていたレイラと呼ばれる少女は、しゅんとし、王座に正座する。
同じ声をした少女と竜が気の抜ける会話をしていたからか、少年も我に返りレイラに向かい正座をする。
「え、えっと、俺は大柴幸助……えっと、出身は日本だ。質問したいことが多いのだが、まず、ここは、日本ではなく、魔法が存在する世界……みたいな世界?」
「コウスケさんですね。この度は師匠がすみませんでした」
黒竜の方から声が聞こえコウスケは、驚くがそんな驚きも偉そうなレーラの見た目をした王座に座る少女によってそんな感情は吹き飛んだ
『ふふん、そうじゃ。ここは、転生国アルマテリア。ワシは、レイラ。わが宿主、黒竜レーラの義人体である』
「あ、私がレーラで、黒竜やってます。それで、そこで寝てる師匠は、クリス様……一応アルマテリアの皇女様で、貴方を転移させた張本人です……」
「ふーん……ここは異世界で……皇女様が俺を異世界転移……ラノベか! ラノベみたいな世界という認識でいいんだな!」
レーラ達は、自分たちの正体を話したが聞き覚えのない単語で理解され言葉を詰まらせた。
「な、なんというか……理解の仕方が独特ですね……」
『宿主よ。よいではないか! 我らは、冒険者、この国やほかの国をめぐる冒険者をしておる。申し訳ないが、主が元の世界に戻る方法は知らん! だが安心しろ! 我らについてくれば、きっと帰る方法が分かる! なんせ我らは、冒険者なのだから』
二人の反応は各々違ったが、事実をコウスケに伝えると、納得したように話し出す。
「えーっと拒否権はなさそうだし分かりました。だが、これは、いいのかある意味、拉致では、ないか……」
コウスケが困ったように頭をかいていると、突然起きたクリスは、焦点の定まらない目でコウスケを見るといきなりとびかかる。
「あんたぁーせっかくの転移よぉー。なんか持っていないの……異世界のものぉー」
「ちょ! 酒臭! てか、アンタいきなり近寄ってやめ!」
クリスは、今でこそ酔ったオッサンそのものであるが、見た目だけでいえば、胸は大きく、宝石と言ってもそん色がない美貌である。
そんな女性に幸助が近づかれれば、手元もくるってしまう。
「ぎゃ! ラッキースケベしちゃう! しちゃうから! ひゃん!」
幸助は、クリスに抱き着かれもつれ込み、コウスケの股間をクリスは思いっきりつかんでしまう。そしてまさぐりだす。
「ああ、これが異世界の道具……う……」
「え、ちょ、ま、待って、なにその……う、って! え、ちょ!」
そして刹那、クリスは、はげしい吐き気に見舞われ、それを我慢するほど余裕はなくなっていた。
「おろろろろろろろろおろろろおろろ」
「「『ぎゃあああああああああああああああああ!』」」
そして、レーラの背中では、嘔吐物まみれの大惨事となっていたのであった。
絶叫する三人をしり目に、クリスはそのまま深い眠りについてしまったのである。
「もう師匠の大馬鹿スケえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
これは、転生少年と破天荒皇女をパーティーに持つ苦労人黒竜が、転生させてしまった少年をもとの世界に戻すまでの冒険記録である。
「う、気持ち悪い……うぇええ」
「ぎゃああああ、また人の背中で嘔吐しないでください!」
「まてまてまてえぇぇぇぇ!」
『宿主、我、帰る』
なお前途多難の模様であった。
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