旅をする竜と皇女と転生したやべえ奴
優白 未侑
第1話 お酒の飲みすぎはダメ!ゼッタイ!
収束する光、それを見つめる観衆のどよめき、それを見つめる一人は、思わずつぶやいてしまった。
「ああ、世界は何て残酷なのだろうか」
光が消えると、そこには元々、いるはずのなかった少年が一人、茫然としていた。
「あれ……ここはどこだ……」
アルマテリア王立連合国、魔方陣という、自然の元素を利用し力を生み出す魔法の技術が発展し、異世界からの転生者を招き入れる、そんな現象が起きた世界。
科学の発展を犠牲に発展した魔法の技術が根付いた国の中にある街、マスラには、転移者が多く、異世界転移者の予兆が起きる時期にこの町では、年に一回の大きな祭りが行われる。
「いやー、今年は、異世界転移者が来るのでしょうか楽しみですね師匠!」
黒い翼に黒い角の生えた見た目が幼い黒髪ボブカット少女は、両手に持った串の刺さった鶏肉を持ち、銀髪の髪をなびかせ、周りがすれ違いざまに二度見してしまう美貌に相反し、黒く魔女のような帽子に酒瓶を持った少女に話しかける。
「うーん、レーラ私は、この町の祭りにしか出ないヤキトリ、タコヤキをお酒のあてにしたいだけだし、別に転移の儀には興味ないわよ。私の興味は、お米から作ったこのニホンシュだけ」
「師匠、お酒はほどほどにと私は言いましたよ……はあ」
黒い羽根の生えた少女レーラに注意された少女は、そんなレーラの忠告も聞かず、お酒を片手に街を歩く、祭りだからか二人の姿は、不思議と浮いてはいないはずだったが。
目を引く見た目とは、裏腹に少女は、程よく酔っぱらう祭り好きの親父のようになっていた。
「ねえねえ、二人とも、もしかしてユーたち冒険者? 俺、五年前、日本から転移してきたんだけど、おいしいお酒の飲み方教えるからさ、ちょっとそこの宿屋で飲まない? 俺の名前は、ソウジ。君の名前は何だい?」
スーツを着崩す男の格好は、マスラの町にはそぐわない格好であり、一目で過去の転移者であることが分かる。
「……展開『すきる:かんてい』ふーん。レーラ、持ってなさい。飲むんじゃないわよ」
少女は、赤い瞳に小さな魔方陣を展開すると、酒瓶をレーラに投げ渡す。レーラは、持っていたヤキトリを、黒い炎で消し炭にして酒瓶を受け取ると不服そうに少女を睨みながら恨み言を言う。
「師匠のものなんて飲みませんよ! おっかない!」
少女は、展開した魔方陣でソウジと名乗る男を見定めるように全身を覗き込んだ。
「なるほどね……初めまして、ごきげんよう。私の名前は、クリス・ダイス・エバンディフランソワーズ三世……気軽にクリスと呼んでくださいまし……ケビン様」
あまりに長い名前を名乗った彼女、クリスは、いたずらな目でソウジを覗き込む。その所作は、酒の匂いが漂うが、どこかの貴族の様に礼儀正しく、高貴に見えた。
「な、その名前は、皇女様の……なんて、そんなわけないか! 後、名前はソウジ」
「あら、ケビン様、知っておりますか? この町では、女性に異世界転生者だと虚言をはき、女性を食い物にする輩がいると伺いますが、まさか、貴方様ではございませんか、ケビン様」
「な……なな」
非常に冷たく、すべてを見通すような赤い目が男の本性を見抜いていた。
そして、目の魔方陣は、形を変えた。
「展開『オカルティズム・じゃし』嘘、ついておりませんよね」
「へ……へ、ぎゃあああああああああああああ!」
ソウジと名乗った男は、急におぞましいものを見たように叫びだし、全身から、体液という体液をまき散らし、走り去っていった。
「師匠! 町中で魔法を使うなんて! やめてください!」
レーラは、クリスに酒瓶を返すと頬を膨らませ、怒り出したが、クリスは、そんなことを気にせず、レーラから酒瓶を受け取ると酒をまた飲みだした。
「ぐび……ふぃー。いいじゃないアイツ、最近巷で有名な性犯罪者だし、魔法でちょっと女性の見え方を怪物に変えただけだし」
「さらっと言っていますが、認識改変魔法は、禁止級魔方陣ですよ……そんなことしたら」
「まあまあ、そう言わさんな。それより、レーラは、転移の儀がみたいんだろうに……うぃー、お姉ちゃんがちょっくら先に見せてやろうか?」
酒を飲みのんきに話すクリスであったが、対照的にレーラは、青ざめていた。
禁止級魔方陣。
魔方陣は、どんな人間でも使っていいものではない。
世界の常識を覆す魔方陣は、研究目的、決められた儀式以外での使用を禁止されている。
そもそも、一人の人間で起こせる魔方陣ではないのだが、クリスは、酔って頭が回らない状態でも一人でそれを行う。
そんなことをしたら、町では、テロ集団が襲ってきたと勘違いしてしまう。
「いやいや、だから、この町での魔法は、懲罰対象に!」
「いたぞー! 御用だー!」
「うぃーのってきたぜぇ! たしか展開魔法陣が長いんだよな。展開『星よ星よ……集え集え、光よ集えそして反転……反転……」
「ま、待って、し、師匠!」
案の定この魔法騒ぎに衛兵が数人、槍を持ちレーラ達を捕まえようと走ってくる。
そんな喧噪の中、クリスは、レーラの制止を振り切り、大きすぎる魔法陣を地面に展開し始める。展開の始まった魔法陣にクリスは、酒瓶を地面に投げつけた。
瞬間、酒瓶の中の酒は赤く染まり、大きな魔方陣の展開が完成する。
「……反魂、倫理は、輪廻し我に収束する……特禁呪魔方陣展開・転移の議トオノ』」
収束する光、それを見つめる観衆のどよめき、レーラは、師匠が酔った勢いで、祭りを壊すような最重要特級魔法陣転生のトオノ。
先ほどの魔法とは比べ物にならない禁止魔法陣の使用に、終わったと言わんばかりにレーラの顔からは生気が抜けていく。
「ああ、世界は何て残酷なのだろうか」
光が消えると、そこには元々、いるはずのなかった少年が一人、茫然としていた。
「あれ……ここはどこだ……」
「ココハ、イセカイ、ワタシタチ、ハンザイシャ、ナルモノ」
もう、レーラは、完全に思考を放棄して目の前で起きてしまった現実を受け入れることができなかった。
「御用だ! 冒険者、おとなしくこちらに来なさい!」
「うぃ……なによぉ……あんたら、あたすぃとヤるっていうの……上等じゃ……フゲ!」
酔っぱらったクリスたちは、数人の衛兵に囲まれているが、クリスは、座った目で、衛兵を睨む。ヤバイと直感したレーラは、我に返る。
「ええい、やめてください師匠!」
そして何か吹っ切れたのかレーラは、もうヤケクソになり、クリスにドロップキックを浴びせると、自分を中心に魔方陣を展開、そして、レーラを拘束していた魔法をレーラ本人で解いた。
「解徐、先祖回帰!」
魔方陣がはじけ飛び周りの観衆と衛兵は、その勢いで吹き飛ばされていき、その中心地には、まがまがしい角と翼を生やした黒竜が、背中に転生した少年と、クリスを乗せ涙目で、その場を飛び去った。
「本当にごめんなさーい! 賠償は、今度、師匠が絶対にいたしますからお許しをー!」
黒竜の声は、姿に見合わず、レーラそのままの声であった。
かくして、黒竜の少女は、王族の少女と転生した少年と共に衛兵から逃げるため町を飛び去って行ったのであった。まわりにいた民衆は、茫然のあまり、言葉を失ってしまっていた。
面白い、そんな感情が沸いたのはいつぶりだったろうか……。
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