第8話
なんで? どこを見て!?
「あ、次の看板があったよ、ケロタニアン」
軽く……どころじゃなく、動揺してしまった。ライランが看板を見てたのは幸い。
そうだ、落ち着け。相手がなに考えてようが、今の俺はケロである。えーでもどこでわかったの! だめだ落ち着いてねえわ。
「ゴドワス老って、どんな人?」
「わたくしめは話に聞くだけで、まだお会いしたことはないのです。少々偏屈ですが、旅人に親切な方と聞いていますよ」
「そうなんだ。なにかお土産持ってくればよかったな」
「お土産ですか。どんなものがいいでしょうねえ」
それより戦闘に備えて欲しかったというのは俺の個人的な考えである。
森に住む偏屈じじいへの土産なんて、ぱっと思いつかない。食べ物ならもしか鉄板なのかもしれんが、ゴドワス老は人間でもないし。
ライランは、うーん、とちょっと考えたあと、ぽんと手をたたいた。
「オルゴール!」
「は」
「前に、ケロタニアンが私にオルゴールをくれたじゃない? あれって、どこかで買える?」
「お、オルゴールでございますか。そうですね、値は少々張りますが、作ってくれる工房を知っておりますよ」
くそ、どもっちまった。シャルさん達絶対見てるのに。
「しかし、ゴドワス老の趣味かはわかりませんよ? どちらかというと、女性が好みそうな贈り物かと」
「相手の好きなものを贈れたらよいけど、わからないときは自分の好きなものを贈るのがよいと思うの。ケロタニアンがくれたオルゴール、わたしとても気に入ってるよ。ありがとう」
微笑まれてしまう。
これはなに? えぐりに来てるの、もといかまかけ的ななにか? おめでとう、中の人はちゃんとえぐられてますよ。
「ゴドワス老にお世話になったら、お礼に行かないとね。一緒に行ってね、ケロタニアン」
「はい、もちろんです。ライラン」
ケロはこう言いますとも。
そして俺達は、ゴドワス老のもとへたどり着く前にさっくり全滅。
フィフスビーツの教会へおかえりなさーい。
「強いよ、ケロタニアン!」
教会の復活の魔法陣から飛び起きて、開口一番。
「さようでございますね、ライラン!」
レベル自体は適性より高いんだけど、特殊攻撃がいやらしく、対策なしではしのげない。けど、それはケロタニアンが教えることじゃないしね。
「えっと……毒消しと、麻痺消しを買ってみよう」
「そうですね。さきほどは、毒でじわじわと持っていかれてしまいました」
「戦闘終わっても治らない毒もあるのね」
そう、あそこの毒は「猛毒」だから、厄介。低レベル帯の「毒」だと戦闘終わると治っちゃうから、毒消し持ち歩く必要ないんだよな。
ちなみに麻痺は1-3ターン行動不能になっちゃうから、麻痺消しよりもそもそも麻痺にならないよう耐性上げるほうが有効なんだけど、その知識はまだなさそうである。
「ケロタニアン、回復薬もあっちでは使えないの?」
「不浄の灰を多く食らってしまったあとでは、回復薬も効き目がないと聞きます」
「そっか……でも念のため、買うだけは買っておこうかな。あと、装備ももうちょっと……」
お財布をのぞいている。時間がかかるな、これは。
「では、準備を終えましたら、再び向かいましょう。わたくしめは転移石の祠でお待ちしております」
いつもの恭しい礼をして、俺はライランと一度別れた。
***
行きたくないけど、小楽屋。
思った通り、ワンガールさんとシャルさんが待っていた。腹の立つにやついた顔で。
「はーい、おめでとー。おめでとーおめでとーアカツラくーん」
「ワンガールさん」
からかわれるのがムカつくから、無視して話題をねじこむ。といっても重要な話である。
「このシナリオ終わったら、ケロの個別ルート発生するんですよね?」
「その予定だけどぉ?」
「灰森攻略って、お嬢さん、レベルはあってもプレイヤースキル足りてないし、数日かかります。もしかして俺はずっとケロでお嬢さんのお守りなんですか」
「っていうかおまえ、今気づいたの? シナリオ見た時点で灰森攻略ってわか」
「シャルさんは黙ってて!」
そうです、今気づいたんです。顔を覆う……。
「意外とウカツラ」
「ほんと黙って」
オヤジギャグはやめてくださいってアンケートに書かれたくせに。だからいまいちモテないんだ。
「おまえ今、だからいまいちモテないんだって思ってるだろ!」
「その察しの良さを活かせって言ってるんです!」
うるさいうるさい、とワンガールさんが手を振る。
「いいじゃないの、アカツラ。あんたはサポアクがいいんでしょ」
「俺は脇役がやりたいんであって、NPCがやりたいんじゃありませんよ!」
冒険パートのおともなんて、メインの仕事じゃないばかりか、サポアクの仕事ですらないじゃないか。今日の俺はプログラムに組まれていない情報に多少対応できるだけのただのNPCだ。
お嬢さんの様子を確認。まだ道具屋でうろついている。このあと武器防具屋に行くのなら、時間はかかりそうだ。
「なにを言ってるんだいアカツラ。ライラン嬢にとって、おまえはNPCなんかではない。それが証明されたゆえの今の事態じゃあないかぁ」
「腹立つなーシャルさんほんと腹立つなー」
眉間を指でとんとんとん。
「まあなにが不満かは知らないし聞く気もないが、おまえのやることはいつもと同じだよ」
「へあー!?」
「前から思ってたけど、おまえの不満の声、変だからな。で、アカツラ。今のおまえに求められてることは、ライラン嬢に恋をさせることじゃない」
シャルさんが人差し指をおったてて、なにやら語りだす。メインアクターに総じて言えることだけど、この人達はなんてーか「聞かせる声」が出せる。
「おまえは、ただ決められたとおりにケロタニアンを演じればいい。そうすれば、同行のときはサポアクの給料が、個別ルートでメイン入ればメインの給料が入る。それだけだよ」
シャルさんはおだやかに、それでいてどこか人の悪そうな笑みを浮かべている。
「これ、対人乙女ゲーですけど」
「そうだな。でも、要は『プレイヤーが楽しい思いをして、その対価として金を払う』、これが成立すればいい。それともなにか。恋愛を売るのはいいが、友情を売るのは気が引ける、なんて」
「そういうの、ほんっとやめてください」
思いきりいやな顔をすると、シャルさんは、にひひと力の抜ける笑い声を上げた。
「そういうのじゃないです。後味悪くなるフラグだらけだわ、気が向かないのにやらされるわで不満はありますけど、そこまでお嬢さんに責任持つ気はないです」
「やだ聞きましたマネジ?」
「悪い男だわ、悪い男がいるわ」
「もののわかってない金持ちのお嬢さんから絞ろうと必死なのはあんたらだろうがー!」
あーもーこの人ら結局俺のこと半端扱いだからなー! まあ確かに半端だからなーアクターやっててメインやりたくねえ、なんてのはさ!
「ともかく、マネージャー! このシナリオをクリアしたら個別発生させるんですよね! で、そのルートをお嬢さんが選ばなかったら、俺はもうケロをやんなくていい、そうですよね!!」
「うんうん! 多分ねー!」
「もうやだ、ここの上司!」
逃げ込んだはずの楽屋から逃げ出して、俺はアバターを変えてフィフスビーツの町へ飛んだ。
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