第7話 おまえがやれ

 なんでこうなるんだよ。

 ぽいっと渡されたケロタニアンの資料を前に、苛立ちをため息で表す。

 ほんの少しの資料をめくった。

・謎多きカエルの銃士。弱きをたすけ強きをくじく、高潔な精神の持ち主

・過去に呪いによってカエルの姿に変えられたが、それ以前の記憶を失っている

 ……はい、元は王子様ですか? とりあえずイケメンですよね。すぐそれだよ、カエルはカエルでいいだろ。カエル上等、カエルのままキスして舌も入れてやるわ。だいたい予告なしのビジュアル大幅変更はクレームの常連案件じゃないですか。まじでやることになったらここ変えてもらお。

・銃士として剣を捧げる乙女を探している

・目の前に困った人物がいるとすぐにそれを助けることに夢中になり、本来の目的を忘れてしまうことがある

 ……だからシナリオが人助け系ばっかなのか。つまり、ケロと人助けしまくってると、ケロに「乙女認定」される、と。わかりやすくていいんじゃないのー。


 でもライランは、次の週、ログインしなかった。これまで週に1,2度入ってたのに、だ。

 この業界は取り決めがいっぱいある。まず、客を個別に勧誘してはいけない。ゲーム部屋で看板出すことはできるけど、できる営業は基本そこまで。あとは登録者が希望した場合だけ、メールマガジンを送れるくらい。まあ、客は曲がりなりにも普通のお嬢さん方だし、こういうのって追うんじゃなくて追わせないと負けだから。

 なにが言いたいかっていうと、ライランがログインしてこなければ、俺らがライランを追いかけることはできないのだ。

 ワンガールさんが俺を見かけるたび舌打ちしたけど(くそ上司)、ライランがこれを機に対人乙女ゲーから手を引くんだったら、それはそれで良い選択だろうと思う。そりゃそうだよ、こんなヤクザなゲーム。


  ***


 週の明けた水曜の夜。22時枠のサポートに入っていた俺に、マネージャーからの呼び出しが入った。今日の役柄は大好きな悪の魔王(小物)で、ノリノリで待機してたんだけど。

「アカツラちゃん、上がってらっしゃーい!」

「……すぐですか?」

「もちろんよ、当たり前でしょ。じゃなきゃこんなタイミングで声かけやしないわよ」

 ご機嫌な声に、俺はライランのログインを察する。

 俺の代わりに入るサポアクに資料のコピーを渡し、しぶしぶ小楽屋へ向かう。さよなら俺の魔王。


 楽屋は2種類用意されていて、ひとつはアクターなら誰でも行ける大楽屋。待機中のアクター達がたむろして、会話したりゲームしたり。もうひとつは各枠に用意される小楽屋。俺が以前ライランの枠に出演したとき、待機中にライランの様子を見ていた部屋がそう。

 ちなみにこの楽屋、使わない派もいて、理由としては「どうせ電子の世界なんだから場所なんてあえて用意しなくたっていい」「直接舞台に干渉した方が早い」「楽屋なんてイメージが崩れる」などなど。イメージうんぬんはもちろんイアンザークさんあたりである。俺は、人って最低限の手順があったほうが物事を処理しやすいと思うし、視覚的になにもないところで待機するより、楽屋って場所があったほうが落ち着くので、使いたい派。

 というわけで、楽屋にて。まずはライランの名前を打ち込み、ライランの今の様子を窓に映す。それを眺めながらアバターを悪の魔王からケロタニアンに変え、椅子に座って細く短い脚を組んだ。


 ライランは、ラナテルデスの小都市フィフスビーツにいた。伏し目がちに、広場の小さなベンチに座っている。

 改めて。このラナテルデスは『アクションRPG』+『アクターとデート』の2つのモードで構成されている。普段は難易度低めのアクションRPGとして遊び、フラグが立ったらお金を払ってアクターとデートするっていう。

 ライランは今、アクターの予約をしていない。この状態のときは、味方NPC|(ケロタニアンとか)と一緒に町を出てレベル上げをしたり、町を歩き回って無料でできる小クエストをやったり、この状態でも会える攻略対象|(プログラム)と簡単な会話をして好感度を上げたりとかして遊ぶのが主流。景色きれいだし、のんびり散歩するのもあり。

 フィフスビーツは、豊かな自然に囲まれた田舎町だ。長耳族や犬人族などの亜人獣人が多く住んでいて、この町に用意された小クエストはおだやかでのんきなものが多い。ライランはこの町に拠点をおいていて、冒険のおともに選ぶのがケロタニアンやコボルト戦士あたりなので、動物好きは間違いない。なお、ラナテルデスは乙女系正道、イケメンのゲームだから、ここは辺境の地である。

 ライランは手元を見つめたまま、ぼうっとしていた。これまでの彼女のプレイ履歴からいけばレベル上げやクエストに勤しむのが常なので、まあやる気が落ちてるのは確かなんだろうな。

 俺はしばらく観察を続ける。気乗りしない人間を無理に誘うのは逆効果だし、そもそも俺自身ケロタニアンをやるのに気乗りがしないし。

 不良バイトで悪いけど、ライランがこれで引退するなら、それでいいと本当に思う。

 やがてライランは立ち上がりはしたものの、なにをするでもなく、ただ見慣れているだろうフィフスビーツの町並みを眺めて歩いていた。まるで最後の見納めのように。

 うん。これもう、俺戻っていいんじゃない? ワンガールさん達はやきもきしてるだろうけど!

 にやついていると、誰かがライランに近づき、声をかけた。

「や、やあ、ライラン。さささっき、ケロタニアンが、君をさがしていた、よ」

 ……なに言ってんだ。おまえなに言ってんだ、牛!

「ケロタニアンが?」

 ライランが、大きな目をぱちくりとさせる。

 こいつはケロタニアンと同じ戦闘に加えられる味方NPCで、ワイルドホーンという。二足歩行の牛の獣人で、でっかい2本の角に、むきむき上半身に対してちっちゃく短い下半身とボディビルダーを極端にデフォルメしたようなデザイン。典型的なファイタータイプだ。

 で。このワイルドホーンには、なーんで、シャルさんが入ってるのかなー!

「い、急いでいる、ようだったよ。教会のほうに、走って行ったから、おお追いかけてあげた、ら?」

 ごつい外見に反して、ワイルドホーンは小声+どもり+やや舌足らず。女の子がやるとくそかわいい。男がやるとうっとうしい。声は設定されたやつなんだけど、しゃべり方が無駄にうまい。ほんと誰かシャルさんに仕事あげてー、いい感じに気の利かない癒し系お兄さん得意だよー。

「わかった。教会のほうだね。ありがとう、ワイルドホーン」

 ライランはワイルドホーンに向かって微笑み、ほんの少しだけ膝をその場に沈めた。俺こそフィルタかかってんのか、ライランの立ち居振る舞いに妙に品がある気がして、やっぱお嬢様なの? って思わされる。恰好は武闘家娘なんだけど。ズボンの。

 シャルさんに全力で突っ込みたい気持ちを押さえ、俺は教会の中に移動した。ライランが来るまえに行っておかないと。


 田舎町フィフスビーツの教会は、小さくてかわいらしい作りだ。壁は白、あたたかみのある屋根色に丸みのある窓がついて、おとぎ話の建物風。

 俺タニアンはライランの動きを確認しながら、見つかるようタイミングを見計らって教会から出る。

「ケロタニアン! ホーン君に聞いたよ、わたしに用があるって」

「ああ、ライラン。来て下さったのですね」

 礼をいい、帽子をとって恭しく一礼。

「実は、声借り鳥の娘が、灰積もる森の魔女を怒らせてしまったらしいのです」

「こえかり……どり?」

 ライランは首をかしげる。

「はい。その名の通り、声を借りて歌い話す鳥なのですが、その娘が今、危険なことになっているのです」

 こほん、と咳払い。って、長い台詞の前に咳払いをしちゃうのは俺自身の癖なので、気をつけないとなあ。

「灰積もる森の魔女は悪い魔女で、気に入った男を捕えると自分のしもべにしてしまうのですが……声借り鳥の娘アリュイは、そのしもべのひとりに恋をしてしまったのです」

 話自体はよくある、こわい御方の持ち物に手を出した、ってやつ。これまでの小クエストや、シャルタニアン達とやったシナリオより物騒な話だ。

 灰積もる森は、日の差さない、一年中灰の降る不思議の森。濃密な魔力を蓄え、雪世界ゼメスタンへの入り口がある。ゼメスタンには冬将軍や(かっこいいおじさまである。攻略可)、雪の女王(女王のしもべ、涙を失くした美少年がいる。同じく攻略可)の住まいなんかがあって、高レベルプレイヤー向けのエリアになっている。

 灰積もる森には中堅クラスの、タチの悪いモンスターが徘徊している。レベル上げするにも不味くて、ゲーム内でも嫌われているエリアなんだけど、その代わり特別な宝が手に入る可能性があったり、ここでしか起きないイベントも多くあったりして、高レベル帯に行きたいのなら避けては通れない場所だ。

「しもべもまた、娘を憎からず思っており、ふたりは魔女に隠れて森の外で逢瀬を重ねました。けれど、魔女の目はふしあなではありません」

 ここは少し声をおさえ、目を伏せる。

「ある日、とうとう魔女に見つかって、捕まってしまいました。しもべは魔女のもとに引き戻され、アリュイは姿を変えられて、危険な灰積もる森に放り込まれてしまったのです」

 ケロタニアンは歌とお芝居が好きである。なので、朗々とした声で、歌うように語るべし。非常事態なのにのんきだけどさ。

「魔女は娘の親に、これが魔女の呪いだと告げ、笑いながら去っていきました。そしてその親が、わたくしめに娘アリュイを助けるよう、懇願に参ったのでございます」

 概要終わり。一拍おいて、顔を上げる。

「早く助けに行かねば、灰積もる森では長くは生きられないでしょう。わたくしめは急ぎ、発つつもりです。それで、ライラン。あなたさえよければ、またわたくしめに力を貸してほしいのです」

 ここまではシナリオまんま。ライランはすっかり同情した顔だ。

「うん、ケロタニアン。わたしも一緒に行くよ!」

「ありがとう、ライラン。それでは、わたくしめは王国の門で待っています。準備ができたら、来てください」

「大丈夫、いけるよ!」

 準備してって言ってもしない人っている。


「声借り鳥の娘は、きっと力ない姿に変えられていることでしょう。もともと非力な小鳥ですが、少なくとも空を飛ぶ力は奪われているとわたくしめは考えております」

「そういえば、口が利けないなら、ケロタニアンはどうやって親御さんからこの話を話を聞いたの? 親御さんだって口が利けないんでしょう」

 こくりとうなずいてみせる。どうでもいいけどこのお嬢さん、大バカだろうと事細かに説明していると、微妙なところで頭を回してくる。

「ですから、声を借りるのです。鳥の母親は、わたくしめの声を使って話をしたのですよ」

「ケロタニアンの声を?」

 ごほん。

「助けてください、カエルの銃士殿! 私の娘が、魔女の怒りに触れてしまったのです。

 どうなさった、鳥殿。落ち着いて話してみなさい。

 実は私の娘、アリュイと申しますが、あろうことか灰積もる森の魔女のしもべに恋をしてしまったのです!

 ……とこういった感じで」

 ライランはぽかんと口を開けて、俺を見ていた。それからまばたきをすると、ぱちぱちぱちっと手をたたく。

「すごい、ケロタニアンってお芝居が上手ね!」

「わたくし、これでも王国の劇団に所属しておりますゆえ」

 まんざらでもない反応を返しておく。げこー。

「今のは確かにわたくし自身による再現ですが、実際に声借り鳥と話す時も、このような感じになるのですよ」

「へえ、ひとりで全部話しているみたいね。不思議!」

 実際、全部ひとりで話してるんだけどね! この設定だとアクターひとりで事が足りるからね! ケチりやがって。

「それで、どうやって探したらいいのかな。魔女に会って、彼女……アリュイちゃんをどこへ追放したか、聞けばいいのかな?」

 相変わらずボスへ直行の思考である。

「それは危険ではないでしょうか。灰積もる魔女は、嫉妬深く、凶暴な性格と聞きます。ライランのように若く美しい女性が訪ねていけば、それだけでいらぬ恨みを買うのでは」

「美しいなんて言われると照れちゃうね。でも、こわい魔女さんなんだね。うーん」

 ふふっと笑って、かわされた気分。言われ慣れてるか?

「アリュイちゃんの恋人のしもべさんも、魔女に捕まっちゃったんだよね……」

「そうですね。ですから、まずは、森にいるゴドワス老に会いに行きましょう。彼は森で起こる様々なことを知っていますし、優秀な占い師です。少々高くつきますが、灰避けの魔法もかけてくれる」

「わかった。じゃあ、そうしよう! ねえ、森の中って、強いモンスターがいっぱいいる?」

「はい。危険で、意地の悪いモンスターが多くいます」

「そっか……」

 ライランがうつむく。お、ここだな。

「だいじょ」

「だいじょうぶ、ケロタニアン! わたしがちゃんと敵を倒すから、安心して」

 シナリオの決め台詞、言えず。しかたなく礼を言ったわけだが、カエルの口元が引きつっていたのはもちろんわざとだ。てかね、お嬢さん守られたい子じゃないから、シナリオもうちょっと考えて欲しいわー。


 町を出て少し歩くと、転移石の祠がある。ここから各都市にワープ移動ができるので、灰積もる森に一番近いジークジュルスの町へとぴょこん。

 そこからは徒歩でてくてく。ライランが、あれはなんだ、これはなんだと聞いてくるので、説明しながら歩いていると、あっとういうまだった。

 晴れていた空に、決して晴れない雲が見えてくる。同時に肌寒さ。

「着きましたよ、ライラン。あれが灰積もる森です」

 薄墨の曇天、黒い木々が寄り添う森に、白い灰が雪のように舞い続ける。白と黒と灰だけで作られた風景は、あたたかく花におおわれたラナテルデスでは文字通り異色の場所。

 水かきのついた手で指差すと、ライランはまばたきを繰り返し、わあとかすごいとか、感動を見せる。

「ここは絶えず灰が降っているのですが、この灰、我々の体にはよくないものなのです」

「そうなの? どんなことになるの」

「これは不浄の灰。これを浴びすぎると、神聖なる癒しの魔法が効かなくなってしまうのです」

 メタく言えば、なんの対処もなくこのエリアで一定時間行動すると、回復魔法不可の呪いがつく。

「癒しの魔法が……じゃあ、怪我しても治せなくなっちゃうのね」

「はい。ただでさえ、我々に仇なす魔物の闊歩する場所。癒しの術が使えないのは、戦闘不能につながります」

 死、とは言わない。ラナテルデスのプレイヤーキャラクター……冒険者達は、みな女神の祝福を受けていて、戦闘不能になった場合は光に包まれて安全な場所へと連れ戻される。ペナルティは装備以外の戦闘用アイテムの全ロスト。といっても、ラナテルデスの戦闘用アイテムはクエストアイテムや戦闘支援の消耗品が主なので、「クエストをやっていた場合はやり直し」ってぐらいのぬるさなんだけどね。

「わかった。気をつける」

 こくりとうなずくライランの目はきらきら、手はこぶし。わくわくしてるようで、よかったです。


 ゴドワスじじいの家までは、看板に従っていけばいいという親切設計。

 道なりにライランと進んでいくと、最初のエンカウント。

「ライラン、敵ですぞ!」

「え、あ、はい!」

 襲ってきたのは、灰降らしのカラス、3羽。灰をかぶって、カラスなのに灰色。体はかなり大きくて、凶悪なデザイン。

 カラス自体は強くないんだけど、長引かせた場合、不浄の灰を大量に食らってしまうのが厄介。戦闘が終わって急いではたいても、全部を落とすことができない。こいつらと戦うほど、回復魔法が使えなくなるのが早くなるわけだ。いつもは敵側が多いから気楽に見てたけど、プレイする方としちゃ嫌だなー、これ。

 ライランはまず、自分の行動速度が上がる技を使った。お、学習してる。俺はライランのななめ後ろにつき、最初はステイ。

 3羽のカラスは、前に立つライランに狙いを定めた。一体ずつ、間を空けずにライランへ突撃、びゅんびゅんびゅん。ライランは2羽をかわし、最後の1羽は避けきれず腕で受けた。HPゲージがわずかに減る。俺はライランが避けたカラスの1羽に、迎えに行くかたちで円盾をぶつけ、カウンター攻撃。衝撃で、ふらふらと速度を落とす。

 ライランはそれに気づき、見事振り向きざまに回し蹴りを決めた。無事1羽撃墜。雑魚モンスターは基本、かなり凶悪にデザインされていて、倒されるとすぐに消えてしまう。実際殴る蹴るすると、モンスターでもかわいそうになっちゃうもんだしね。俺はさすがに麻痺してしまったがー。

 2羽のカラス達は旋回し、大きくはばたく。今度は灰を大量にぶっかけてくる攻撃だ。ばっさばっさばっさ。巨大扇風機に煽られたような風圧で、灰がもっさー飛んでくる。

「う、うーっ!?」

 ライランはあわてて顔を隠すが、かばいきれなかった目や鼻が灰に覆われて、げっほげっほと咳き込む。この咳き込みは自動の反射。ライランは今、視界不良と、一時的行動不能で行動順も遅らされる。

「ライラン! 大丈夫ですか!」

「だ、大丈夫……ケロタニアンは……」

「ええ、顔だけは盾でかばいましたので」

「ええええ」

 おやなぜか不満の声が。だってケロは盾持ちだし、その分攻撃力削ってるんだし、当たり前じゃないかしらん。

「ライラン、次が来ますよ!」

「ええっ、待って、きゃあああ!」

 叫びながらも攻撃できちゃうのは、ゲームだからですな。ライランは再び襲ってきたカラスに、とっさに必殺技を繰り出し、これが範囲技だったおかげで、一撃で残りの2羽ともを墜とした。

「さすがです、ライラン!」

 ぱちぱちぱち。

「わああ、顔洗いたいよー!」

「ここの川は不浄ですので、ゴドワス老のところへ着きましたら、水を分けて頂きましょう」

 さあさ。ライランを先へとうながす。


 技値8消費、HP92%かあ。ゴドワス老まではまだあるし、休憩エリアまでもあとマップ3コマ。手間取ると厳しいかもなあ。

 俺はゲーム側の人間だけど、このエリアをシステム面からいじることはできない。だから無茶な進行したら、あっさり敵にやられるなんてこともある。

 こないだライランをさらったのは恋愛パート用の隔離エリアだったから、ダンジョン変更したり敵を消したり増やしたり、都合よく調整できたけど、誰でも自由に出入りできるこのエリアでそんなことをしたら、周りに迷惑なわけで、そもそも俺に権限がない。

 ライランはなめきって、俺以外の味方NPCを雇わなかったし、下調べもしなかった。多少のレベルはあっても、知識がないと厳しいエリア、1度くらい戦闘不能になったほうがいいかもな。

 そこそこ真面目に戦力と進行について考えていたら、ライランが俺をじーっと見つめていることに気がついた。

「どうしました、ライラン。どこか怪我でも?」

 っていっても、怪我の程度はゲージでわかっているけどな。ここはそういうものだから、というか。

 返事はなく、さらにじーっと見つめられる。距離も地味につめられる。なになに?

 俺が軽く不審を覚えた時、彼女はぱああっと笑った。

「やっぱり」

「……なにがやっぱりなんでしょう、ライラン?」

 ううん、とライランは笑いながら首を振る。

「やっぱり、ケロタニアンと冒険するのは楽しいなって!」

 あ、それはよろしゅうございました。って。

 え? うそ?



 ぴぴぴ。マネージャーから通信。

『初メインおめでとう! アカツラ君!』

 へぁ!?


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