シューマ

「あなたたち、勇者一行でしょう?」

 文学であふれた町の、一番大きな図書館でのことだった。そこの司書であるラアタという女性が俺たちに話しかけてきた。

「勇者」と面と向かって言われるとどこか気恥ずかしい。しかし、それは事実であるから、俺は心と裏腹に胸を張った。

「そうですよ」

「困っていることがあるのだけれど、相談に乗ってくれるかしら」

 黒光する長い髪を撫でながら、ラアタは言った。この図書館の情報の総量は膨大で、魔王について俺たち三人で調べるにはあまりに多い。ここは一つ恩を売っておくことにした。

「何でも任せてくださいよ」

「簡単に言うと、この街に巣食う悪い魔物を懲らしめて欲しいの」

 勇者っぽくていい。


 溢れる歴史的資料に興奮していたアイネの手を引っ張って、ラアタの元に連れてくる。俺たち三人はほぼ同時に椅子に座り、ラアタは三人をゆっくり見回す。もう一度胸を張り直し、ラアタに向き合う。

「どんな魔物なんですか?」

 ラアタは燭台の近くに積んであった本から一つ取り出して、俺たちに見せた。表紙には、ツノが生えた人のような魔物が書かれていた。

「これがその魔物ですか?」

「そう」

「そんなに強いんですか?」

 ラアタは強ければ倒せないのか、と訴えるような目で俺を突き刺した。

「強い、というよりも、卑怯なの」

「卑怯?」

 そう、とラアタは首を縦に振って肯定した。

「この魔物は、人に取り憑いてくるのよ」

「ねえアイネくん、それって」

「うん、多分、これも魔物自身にかけた呪いの効果だと思う」

 俺は故郷、クライデベレーナで起こった例の事件を頭に浮かべる。思い出したように冷たい本の匂いが鼻をつく。

「だからこの町は今、みんな疑心暗鬼になっているのよ」

 たしかに、というには重要なことで、描写が遅かったかもしれないが、この町に来てからというもの、猫一匹すら見かけなかった。ほとんどの店は閉まっていて、申し訳程度に、この図書館とパン屋のみ開いていた。

 損得勘定を抜きにしてこの町を救おう、という使命感が、どこからか降ってきた。俺はそれを好奇心でつついてみる。



第11話

『図書館』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シックスフィートアンダー 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ