文学の街 オーデラモート

アイネ

 僕は少しだけ頭が良くて、よく褒められた。具体的にいうと、人より少しだけ理解力が高くて、抽象化が得意。記憶力もそこそこあったから、狭い世界じゃ結構ちやほやされて生きてきた。大抵のことは初心者よりちょっとだけ上手いくらいにはこなせる。

 僕はそれを誇りに思っていた。周りから褒められるのが嬉しくて、色々なことに手を出しては、初心者よりちょっとだけ良いくらいの結果を出して自分を満たした。まあ、簡単にいえば、僕はいつだって驕っていた。自分は優秀な人間なんだ。なんだってできる。自分は人とは違う、とかなんとか、口には出さないまでも心の中で思っていた。


 ある日のことだった。あれは確か十五歳の冬で、誰かの誕生日が近くで奏でられている日だ。少し調べ物をするために図書館へ赴いて、本を漁っていた。とはいえ、怠惰な性格が進行を阻害して、お気に入りの小説家の作品を読むのが時間のほとんどを占めていた。

 次の本を取りに行こうと2階へ続く階段を登っている際、前屈みに歩く女性とすれ違った。そもそも図書館に来る人の多くは猫背だし、その時は特に気に留めなてはいなくて、そのまま素通りした。

 二階に到着し、その作家の本を探しに行く。外から聞こえる音楽はいつの間にか励ましの音楽になっていて、もう三時間が経ったことに気がついた。左端から二番目の本を手に取っる。すでに読んだことのある本だったが、第四章に登場するスーパースターが大好きで何度も読んでいる。誰にも負けないくらい努力ができて、誰かが困っていたら、絶対に気がつく。世界一のミュージシャンだ。

 階段を降りると、まだ、その女性がいた。しかし、その女性はしゃがんで階段の手すりにつかまって、つらそうにしていた。階段の先には出口があって、その図書館の隣には医者がいる。僕はようやくその時に焦って、声をかけた。

 それからその女性は医者の元に送り届けられた。しかし、僕は女性のその後を知らない。



第10話

『力不足』

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