マリア

「この人はなかなか奇妙な音楽家で、挑戦的な曲ばっかり作る人なの」

 女性はそういいながら、そのレコードをかけた。確かに、どこかずれた感じがある。

「その人の最後の作品が、これ」

「聞いたら、死ぬ曲」

 正確にいえば、聞き終わったら死ぬ曲だよ。と女性は直した。

「どういうことですか?」

 ロッカーは身を乗り出す。

「このアルバム、めちゃくちゃ長いの。それこそ、何十年もあるくらい。繰り返しや引き伸ばしを使ったりしてね。私はちょっとずつ聞いてる。本当に長いよ、それこそ、寿ね」

 それが、『聞いたら死ぬ曲』の真実。私はなんだか、肩透かしを食らった気分になった。唯一の希望が潰されるのは、こんなに嫌な気持ちになるのか。ミステリーだったら酷評されるような事実だ。やっぱり、絶対に小説のお方が事実より面白い。

 感謝の意はしっかりと伝えて、私たちはそこを後にした。


 その後、バーに戻って飲むことにした。飲まずにはやってられない。私はお酒は飲めないけれど。

「なんか、残念だな」

「うん。そうだよね」

 ロッカーはおかしかったのか、小さな声をたてて笑った。

「でもまあ、俺たちは死にたいわけじゃないしな」

「それに、我が街には勇者がいる!」

 自棄になっていつもより声を大きくする。その道では皿洗いの音楽が奏でられている。

「そうだ!我々も彼らを激励しようじゃないか!」

 不思議なもので、シャ・ノワールにはいつの間にか到着している。重厚感のある扉を開ける。私はこの開ける時の感覚が好きだ。やはりカウンターまで行かないとマスターはこちらに気づかず、気が付いてからこちらに会釈した。

「いつもの」

「あ、ミルクでお願いします」

 マスターは一つ頷いた。

 しばらく飲んでいると、客の一人がマスターに話しかけた。

「そういえばマスター。いつも店内で流しているこの曲、なんてアーティストの、なんて曲だい?」

 そういえば私も気になる。ロッカーも気になっているようで、視線をそちらに向けた。というか、マスターが喋るのかも気になる。

「これは」

 喋った、そう驚いたところで、何人かの客が次々に倒れた。

「魔王が作った曲です」

 ロッカーが気を失ったように椅子から落ちる。ついに私以外の全員が倒れた。

「その呪いの効果は薄まり、百何回と聞かないと、効果が発動しなくなってしまったんです」

 私は後退りして、杖を構える。マスターがゆっくり口を開く。

「曲名は」



第七話

『暗い日曜日』

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