シューマ

 俺たちは魔王について調べるついでに、魔王の呪いについても調べることにした。この国に限って言えば、「死の音楽」についてだ。

 調査場所はバー『シャ・ノワール』。ではなく、引き続きアイネの家でだった。

 アイネが書類を捲るたびにま舞う埃が壁にかけられた灯りに照らされる。

「そういえば、呪いってどこまでできるんだ?」

「効果範囲の話?それとも効果設定の話?」

「効果設定の方だ」

 アイネは読み終えた書物の束から一つ取り出し、俺に見せた。とはいえ、俺はそれを読み解けなかった。肩をすくめ、アイネが話し始める。

「呪いっていうのは、普通の魔法と違うところがあるんだ。自由度が高いってのはもちろんけど、その分デメリットもある」

「そうでなきゃみんな使ってるしな」

 それは才能が関与するのもあるんだけど、とアイネに指摘される。魔王に才能がなきゃよかったのに。

「呪いで使うMPはその内容に応じて変わる。さらに、その分のMPは二度と回復しなくなるんだ」

「キャパが小さくなるのか」

「だから魔王は、全盛期よりは弱くなっているはず」

 ふと心の中に疑問が浮かぶ。

「そんなリスクを冒してまで、魔王は世界に呪いをかける意味があったか?」

「それは王のみぞ知るってやつだよ」

 窓の外の世界は夜更けが近づいてきて、窓を開けるといつも通り太陽の音楽が朝にさえずる鳥みたいに微かに聞こえた。


 俺は資料を選り分けていた手を止めて、右手に掴んだものを読んだ。どうやら比較的新めの論文のようで、俺でも読むことができた。アイネの助けを借りながらそれを読み解く。というか、ほぼ全文アイネが読んだ。

 それは『現代における音楽と古代の伝承の関係』というタイトルだ。それくらいは俺にだってわかる。どうやら、俺たちがちょうど調べていた『死の音楽』の伝承についての記述がある。

「やっぱり、死の音楽って呪いによって生み出された遺物らしいね」

「噂通りだな」

 読み進めて行くうちに、アイネの表情ころころと変わって行くのが面白い。

「作者の名前とか書いてないのか?」

「書いていないね」

「そうか」

 俺はこの空間が少し寂しく感じ、俺は最近お気に入りのアーティストの曲をながす。少し奇妙ではあるが、それがなんだか癖になる。

「やっぱりいいな、この人の音楽。時代は『ビーフストロガノフ』よ」

「僕も結構好きだよ、その人」

 


第六話

『おかしい歴史』

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