第18話風の結界の中で…

「………んっ…俺は…」


『あら?目が覚めたみたいね』


 地べたから上半身を起こしてまだ意識がハッキリしないなか、声がしたに視線を向けるとそこにはちっちゃくて愛らしいシルフの姿。


『ちっちゃいは余計よ?』


「…シルフもいつから俺の心の中を読める様になったんだよ?」


『読まなくても表情で分かるわよ?』


 俺ってそんなに表情に出やすいのか?


「…とりあえず何があったんだっけ?」


『意識がまだハッキリとしていないみたいね?とりあえずここは安全だから安心して?風で結界を張ってるから魔物は入って来れないから』


 風の結界か…流石は精霊なんだな。そんな事を思っているとフフンと腰に手を当てふんぞり返るシルフ。またもや心を読まれたか。


「あっ!?アイシスとミーシャさんは!?」


『2人なら…そこに居るじゃない』


 シルフに言われて気が付いた。俺の両隣にはアイシスとミーシャさんが寝転がっていた。2人とも怪我はなさそうだ。

 

 怪我?そうか。俺達はキングゴブリンって言うモンスターと戦ったんだった。正確にいえば俺が戦ったわけじゃないけども…。


「…でも…ミーシャさんはどうして?」


『ミーシャはレインに血を吸われたからよ』


 シルフの話によるとキングゴブリンを倒した後、同化していた俺とアイシスは分離。アイシスはその場に倒れ込んだとの事。


 俺はというとそのままミーシャさんの首すじに“カプッ”…。吸血行動を行ったらしいのだ。あの時ごっそりと何かが減った気がしたのは血が減ったという事なんだろう。俺の血を媒介にして同化したという事か。


 種族が吸血鬼だからって、俺のスキル血を使うものばかりじゃねっ!?


『ちなみになんだけど、レインの両手がヌメっているのはそういう事に2人が使ったからよ』


 何で言うかなぁ…。何かネチャネチャ濡れてるとは思ってたけど…。


「な、何で言うのよ!?」


 起きてたのかよ…アイシス。


『何で言うのかって?だって言ったほうが面白いじゃない?』


「面白くないわよ!?お陰でレインの顔もまともに見れないじゃないっ!?」


『ぷふっ…キスした癖に?』


「んなっ…!?」


 2人のそんなやり取りを俺は黙って聞いている事しか出来ない。こういう時ってそうするしかないよな?俺もまともにアイシスを見れないしな。


 俺はあの時唇に当たった柔らかい感触を思い出すと…自然と自分の唇を指でなぞっていた。


『ほら、見なさいよ、アイシス!アイシスのアイシス100%ジュースを舐めてるわよ』


「…ふぇっ!?」


「ばっ!?馬鹿っ!?そんなつもりじゃあねぇよ!?それに何だよ、アイシス100%ジュースって…果汁100%みたいに言うんじゃないよ!?」


 ちょ、ちょっと…女性みたいに唇が重なった時の余韻に浸っただけだろう!?俺のファーストキスなんだぞっ!?


『果汁100%…レイン…あなた、うまいこと言ったわね?』


「別にうまく言ったつもりはねぇからっ!」

 

 し、シルフの奴ぅ…。こんなに変な空気にしやがって…物語でもよく精霊はイタズラ好きとかそういうの聞いたり見たりしたけど、どうやらアレは本当みたいだ。現にシルフの顔はイタズラが成功した時の表情をしていやがる。


「アイシスの味はどうだった?」


「あんたも起きてたんかいっ!?しかも唐突にそんな事聞くんじゃねぇよ!このエロフ」


「んなっ!?れ、レイン君!?年上のお姉さんにそんな事言ったら駄目でしょ?メッよ、メッ!それに私がこんな風に寝転がっているのも元を正せばレイン君が私の血を吸ったせいでしょっ!?」


「ぐぬっ…」


 それを言われては言い返せないか…。


『ミーシャは存分に楽しんでたよ?』


「何であんたはすぐそういう事を言うのよ!?それは内緒にしておいてくれてもいいでしょっ!?」


 微妙な…それでいて気まずい空気の中、俺達はとりあえず家へと帰る事に…。3人とも終始無言だったのは言うまでもないだろう。


 とりあえず家に着いたら…飯でも作る事にしよう。

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