第17話邪神の遣い
『お前がレインか…』
声が森に響いたと同時に数10メートル先の木々の間に闇の渦みたいなものが現れた。その不気味な声はどうやらその渦の中から聴こえてくる。
「レイン、下がってて」
「レイン君、下がって」
二人の声が重なる。
『我の邪魔をするな…人間風情が…』
渦が大きく拡がった後、突如渦が霧散した。そして現れたのは先程迄二人が戦っていたゴブリンをより人間に近くした感じのモンスター。全長3メートルはあるだろうか…。全身緑色で異様に筋肉質…ボディビルダーが憧れそうな体型をしている。右手には巨大な斧を持っている。
「キング…ゴブリン…」
ミーシャさんがそう呟いた。
「…話には聞いた事あるけど…ミーシャと私で何とかなりそう?」
「個体によって差があるから…なんとも言えないわね…」
アイシスがミーシャさんにそう問いかける。もしかしてこのモンスターって相当強いのか?キングってつくけど所詮はゴブリンだろ?そう思う俺とは裏腹に冴えない表情の二人。
キングゴブリンはというと斧を構え、その場を蹴って、ドスンとドスンと音を鳴らしながらこちらへと向かって駆けて来た。
「…とりあえず距離をとるわよっ!」
アイシスの言葉に頷き、直後…キングゴブリンとは逆の方向に逃げる様に駆け出す俺達。
『ぬっ!?逃がさん…』
「っ…速いわね…(レインのスピードじゃあ、そう長くないうちに追いつかれる)」
「…シルフ…来て」
ミーシャさんの呼び掛けにポンとどこからともなく現れる精霊シルフ。
「…どう、シルフ…私とアイシスでやれそう?」
『う〜ん う〜ん…。厳しいわ…』
「…やっぱり?」
『うん…それに…』
「それに?」
『禍々しい力をキングゴブリンから感じるわ…。とりあえず私が時間を稼ぐからっ!【風よ!一つに集まり暴風の刃とならん…トルネード!】』
“ビュオオオオオーーーーッ”
『ぐぬっ!?』
キングゴブリンを中心に風が集まり、その場に竜巻が巻き起こった。
『風の上位魔法よ?本来なら対象を切り刻みながら巻き上げるんだけど…アイツ…地面に踏ん張ってるわ…。先に言ったように時間稼ぎにしかなってないわね…』
距離をとった俺達は、竜巻が見える場所で足を止めた。
「このまま街に向かっても…」
「ええ…あいつ一体に街が壊滅してもおかしくないわね…ギルドマスターなら…あるいは…」
アイシスとミーシャさんが重々しく口を開いてそう言った。
「それじゃあ…被害が出てしまうよな?俺も戦いに参加して、ブラッディソードを使って…その隙にアイシスかミーシャさんが…」
『無駄だよ…。今のレインのスキルじゃあ傷一つつけられないよ?私の魔法でも駄目なんだから…アイシスやミーシャの攻撃も魔法もアイツには通じないわよ?』
何かないのか?アイツは俺を狙って来たんだよな…このままじゃあ、アイシスもミーシャさんも…街の人達だって…全員俺のせいで…
ふとアイシスに視線を向けると…アイシスは顔をリンゴ飴の様に真っ赤に染めて俺を見ている…。
えっ…何で?吸血行為してないよねっ!?なのに何故そんな表情を…
「れ、レイン…目を瞑りなさい」
「は、はぁ?」
「いいから早くっ!」
『ぬぉぉぉぉーーーーーーぉ!!!』
キングゴブリンのそんな声が聞こえた瞬間、竜巻がかき消えたのが見える…。
『来るわよっ!』
シルフの声が響き渡り、
「くっ…風よっ!」
ミーシャさんが風を体に纏い、剣を構える。
「レイン!そして私が今からする事に決して動揺せずに【同化】って念じてっ!わわわわわ、分かったっ!?分かったなら早く目を瞑って!」
「分かった」
何をするつもりか分からないけど、アイシスの言う事だ。短い付き合いだけど信頼出来る…。そう思った俺は言われた通りに目を瞑る。
「は…初めてなんだから…」
そんなアイシスの小さな呟きと共に…唇に柔らかい感触が触れる。
“ちゅっ…”
「!? そこは何して!?」
『なんでこのタイミングでキスなのっ!?』
これって…まさか…ミーシャさんとシルフの声から察するに…いや、今は…
【同化!!】
心の中で俺はそう念じた。すると…何か混じり合っていくような心地良い感覚…。
「あ…あ…あ、アイシス…よね?…その姿…」
『ち、力に満ち溢れてるのが分かるよ…』
(ミーシャさんとシルフが何やら驚いているけどどうなったんだ?それにアイシスの姿はどこだ? んっ? そ、それよりも体が動かないんだがっ!?)
(私の中でゴチャゴチャ言わないでくれる、レイン?物凄〜く頭の中であなたの声が響くから…)
(はぁ!?私の中って…)
(とにかく黙ってて?後で説明したげるから)
(あ、はい…)
アイシスがそう言った瞬間、何が起こったのかが分かった。俺はアイシスと早い話合体したみたいだ。いやらしい意味じゃないぞ?まあ、だから感覚も何もかも共有しているというか…あ、はい。もう黙ります。無心になります。
アイシスが剣を構える。まるで俺が構えているかの様だ。そして剣に魔力を込めると刀身が黒い炎に包まれていく。
『レインとやらはどこへ行ったぁ!?』
何が起こったのか分かっていないキングゴブリンがそう叫びながら俺達に肉薄…
アイシスがキングゴブリンに向かって剣を一閃。その瞬間…俺の中から何かがごっそりと持っていかれたような感覚がして、段々と意識が遠くなっていった。
意識が完全になくなる迄に俺達が見たものは…縦に真っ二つになったキングゴブリンがあっという間に燃えて消えさったところだった…。
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