第16話森へ

 俺とアイシス、それからミーシャさんは街から東にある通称ゴブリンの森と呼ばれる森へとやって来た。


 ミーシャさんはギルドの仕事は大丈夫なのか気になったので道中に一応訊ねてみたんだけど大丈夫との事だった。なんでも有給休暇があるそうだ。しかもギルドの職員は週休二日制との事。更にボーナスも年3回もあるというではないか…。他の仕事はどうなのかは聞いてないのであまり言えないのだが、異世界の方が地球に比べてそこら辺はしっかりとしてるんじゃないかと思ってしまったのは仕方のない事だと思う。


 アイシスは冒険者だけど同じ様に収入は良いらしいし、休みは個人の自由らしいしね。


 まあ、そんな事を話しながら森へと着いた訳なんだけど、着いてすぐに…


「レイン」


「んっ?どうしたんだ、アイシス」


「レインは戦ったら駄目だからね?」


「はっ?」


 いやいや…戦うつもりで気合も十分なんだが?


「はっ?―じゃないわよ!当たり前でしょっ!?」


「な、何故にっ!?」


「本当に分からない、レイン君?」


 ミーシャさんまで!?


「レイン君はモンスターとどうやって戦うつもり?」


「どうやってって…そりゃあ、ブラッドソードで…」


「「それが駄目なの(よ)!!」」


 えっ!?だって、今の所、攻撃系のスキルっていえばこれ位だし…コレだけでも十分だと思うんだけど…


「まだ分かってないでしょ?」


「ええ〜と…うん」


「それを使ったらまた血が足らなくなって吸血行動を行うわよね?」


「…あっ!?」


 そうか…。


「気付いた?モンスターが居る森で血を吸った後、あなたは意識を失い、血を吸われた者は…その…こんな所でせ、性欲が昂ってしまったら下手したら生命に関わってしまうでしょ?」


「た、確かに…」


「そういう訳で今回は私達の戦いを見ててくれる?」


「見るのも経験になるからね?」


「…了解」


 コレばかりは仕方ないか。新しいスキルを覚える迄は緊急時を除き、仕方ないといえるか…。俺がそれに了承すると共に、


「アイシス?」


「ええ、ゴブリンの群れね」


 俺は最初気付く事が出来なかったのだが、ミーシャさんとアイシスが向ける視線の先には、森の隙間を縫うように緑色の小型の化け物の姿が…。


 そして化け物達はこちらに向けてゾロゾロと向かって来ていた…。


 ミーシャさんはすぐさま風を身体に纏い、アイシスは雷を身体に纏った。そして、2人の姿がブレ…


“ヒュッ!”

“バシュッ!”


 そんな音がしたと思うとあっという間にゴブリン達が次々と倒れていくのが見てとれた。


「…は、疾い…」


 疾風と雷…そんな言葉が脳裏によぎる。アイシスもミーシャさんも本当に凄いとしか俺は言えない。何が起こっているのかも分からないのだから。




 そして全てを倒したであろう2人が俺の元へと戻って来た。


「終わったわよ」


「ゴブリン相手だとあまり運動にならないわね」


「いやいやいや…2人とも凄過ぎじゃない?」



「「これ位は普通よ?」」


 くっ…俺もそんなセリフを言ってみたい。ミーシャさんなんか残念エロフの言葉がかき消える程、カッコいいと思えてしまう。


「レイン君、何か今失礼な事考えなかった?」


「考えてませんよ?」


「そ、そう?なら、いいんだけど…」


 それからも2人は森でモンスターを狩りまくって、俺はそれを見ているだけ。ちょっとばかり…いや、かなり…2人のそんな強さに俺はジェラシーを感じていると…


『お前がレインか…』


 森にそんな言葉が響き渡った…。

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