第13話ミーシャさんは…

「こ、こんな事では許してあげないんだからね!?」


「オークカツ丼を10杯もおかわりして、そのうえで床に大の字で寝転びながらそんな事を言われても…」


 ミーシャさんはアレだな…。残念美人という言葉がよく似合う。もしくはやはり残念エロフと言ったところだろうか?


「ミーシャじゃないけど…た、食べ過ぎたわ…」


「アイシスもよく食べたな…。オークカツ丼5杯も大概だぞ?」


「「美味し過ぎるのがいけないと思うのっ!!」」


 何も2人してハモらなくても…。


「まぁ、美味しく2人が食べてくれたから作り甲斐があったし、嬉しくもあったよ」


 食器を片付けた後、コーヒーを三人分用意しながらそんな事を話する。まあ、一応ビスケットも用意したのだが…それがいけなかった。


「何これっ!?コーヒー!?コーヒーなのっ!?苦いんだけど深みがあって、この世界のコーヒーと違って美味しい…」


 アイシスは俺の世界のコーヒーが気に入ったようだ。


「バクバク…んぐっんぐっ…美味っ!?ビスケット美味しっ!いくらでも入っていってしまうわ!?何これ…オークカツ丼でお腹いっぱいの筈なのに…私の胃袋は宇宙だとでも言うの!?」


 どっかのフードファイターみたいな事言ってるのはミーシャさんだ…。彼女がビスケットを手に取る度、あっという間にその口に吸い込まれ消えていく…。用意した俺も俺なんだが…こんなに食べるとは思わないじゃん?


 オークカツ丼を食べた後なんだぜ?


『これはホント美味しいね。んんっ〜♪』


 そう言いながらミーシャさんの肩にちょこんと乗っかってビスケットを口にしているのは精霊のシルフだ。精霊にも好評でそれはそれで何よりなのだが…。


「ちょっと、食べ過ぎよシルフっ!?私の分が減るじゃないのっ!?」


『エロだけじゃなく食い意地まで張ってるわね。だから何十年も一人…』


 ガシッっとミーシャさんがシルフを掴み…


「それ以上言ったら私の全魔力と引き換えにしてでもあなたの存在を消してみせるわ…」


『ひっ!?そ、そこまで本気なあんたは初めて見たわ…。も、もう言わないから…』


 そう言ったミーシャさんの目は据わっていた。たぶん本気なんだろうな…。それにしてもミーシャさんは何十年も彼氏が居ないのか…。何と言うか…妙に納得する自分が居るな…。


「で、全部聞かせてもらえるのよね?」


『…とりあえずそのビスケットを口にするのを止めてから聞いた方がいいんじゃない?』


 俺もシルフの言葉に同意する。アイシスも首を縦に振ってるしな…。


 まぁ、とにかく…俺がこことは違う場所から来た事、その際に種族が吸血鬼になった事等を色々とミーシャさんに伝えた。


「―そうだったのね…。それで、レイン君はこれからどうするの?」


 まあ、そうなんだよな。そこに行き着く訳だ…。俺は思ってる事を口にする。


「とりあえずは人間になりた〜いっていうか人間に戻るということと…折角異世界に来たんだから…楽しみたいかな…」


『そうそう。人間楽しむのが一番だよ』


 シルフがそう言うけど…今の俺は人間じゃないからな?と、突っ込んだ方がいいか?


「ふむふむ…なら…私もこうして関わった事だし、手伝ってあげるね?」


「それはありがたいです」


『ミーシャは食べ物目当てで言ってるよね?』


「そそそそそそ、そんな事ないわよ!?」


 動揺し過ぎだよ、ミーシャさん?


「コホン…。と、とにかく、アレね」


『誤魔化そうとしてるよ…』


「うるさいわよ、シルフ?と・に・か・く!ここじゃあ、アイシスの家では三人暮らすには手狭だし、良かったら私の家でアイシスもレインも暮らさない?」


 そんな事を口にするという事はミーシャさんの家はかなりの広さを誇っているのだろう。だが…


「「断る(わ)!!」」


 俺とアイシスの声が見事にハモる。異世界でもこの言葉は最早定番だな。


「…えっ?」


 断られると思っていなかったのかミーシャさんの目は点になってる。


『まあ、普通はそうだよね。同じ街に住んでるんだし、ミーシャの家に行くメリットなんてないし、ミーシャがただ美味しいものを食べたいだけでしょっ?』


 俺もシルフの言う通りだと思った。


「そ、そんな…断られるなんて…これから私は何を食べていけばいいの?」


 そんな絶望した表情で言われても…


「そ、そうよ!?さっき聞いた話じゃあ、レイン君が居た世界のモノを取り寄せるには量によっては血が結局必要になるのよね!?アイシスは血を吸われても大丈夫なのっ!?またムラムラ来ても平気なのっ!?」


「そ、それは…確かに…」


 うむ…。アイシスに良く効く言葉をミーシャさんは並べている。


「わ、私が居ればそれを軽減出来るわよ!?一人でムラムラするより2人でムラムラする方がいいわよねっ!?あんな霰もない姿をどうせ一回は見られてるんだからもう何度見られてもいいよね!?なにより美味しいモノの為なら惜しくないわよねっ!?」


「そ、そんなにムラムラって…連呼しないで?わ、分かったから…。それと…私は…見られるのは恥ずかしいから一緒にしないでくれる?」


『うん。アイシスはあの残念みたいにならないでね?』


 アイシスが恥ずかしそうにしながら言った。シルフもとうとうミーシャさんを残念と言い出したのも無理はないと思う。見た目は美少女なミーシャさんがムラムラと連呼するのは俺もどうかと思う。それと女性としてそこは恥ずかしい気持ちを持とうよ?


 そんなところがホント残念なんだよな…。


 結局…ミーシャさんの言葉に説得されたアイシスはそれを受諾。この家はこの日の内に引き払われ、ミーシャさんの家で俺達は一緒に暮らす事になったんだ。新しい拠点って感じだな。


 ミーシャさんの家は言うだけあって広かった事をここに記しておくよ。それと勿論ご飯の当番は俺だ…。


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る