第5話Side アイシス①

 ギルドからの依頼を完了させた私は何日かぶりに町外れに位置する我が家へと戻った。


「今回の依頼は楽勝だったわね」


 家へと入り胸当て等を外し、着替えを取りに寝室へと向かう。


(早く汚れた体を拭きたいな…)


 そんな事を考えながら寝室のドアを開けると…


 部屋の中にと同じ様な黒い衣服を着た男の姿が目に入る。


「…っ!?」


 油断した。いつもと同じ様な日常…。自分の家だと思って気を抜きすぎていた。あの時もそうだったのに…私は…。


 剣だけはいつも手放さない様に習慣づけていたのは幸いだった。先祖代々伝わる愛用の蒼剣ブルーローズを抜き放ち、斬りつける。


 ―突然の事に動揺してしまった為か、相手が予想以上に素早かった為か負わせた傷が浅かった…。


 でも次は外さない…。次で必ず仕留める。


「…次の一撃で終わらせる」


 私はブルーローズに魔力を注ぎ込む。剣がそれに応えるかの様に喜ぶかの様に淡く輝く。


 一瞬で自分の間合いに入り、放った一撃…。殺った!!捉えた!そう思える剣撃。


 ―その瞬間まるで時が止まったかの様にピタッっと体が動かなくなった。放った筈の一撃は…剣は何者かによって指で簡単につままれている。そして場の雰囲気とはかけ離れた声が響き聞こえてきた。


「ふぅ〜〜〜 間一髪だったぁ〜 いや〜危ない危ない」


 ひと目で私達とは存在が違うのだと分かった。神…様?だって…めちゃくちゃ光って後光も差している。


「あ、あなたは…いえ、あなた様は…」


 私は剣を素早く鞘へと戻すと、震える体を必死に動かし膝まづき……裏返りそうな声で尋ねた。予想外とはいえ神に向かっての所業を咎められたりしないだろうか?まだ私には果たさねばならない事があるのに…


「はいは〜い!そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ〜!気軽に気軽に、ねっ!アイシスちゃんの事情は知ってるから大丈夫大丈夫!おっとまずは死を覚悟して気絶している彼の傷を先に治しちゃおうかな!ホイッ!」


 彼女がそう言うと私が彼に付けた傷、そして斬り裂かれた衣服も一瞬で塞がり、まるで何事も無かったかの様に元通りになった。 やはり神の御業…。


「これでヨシッっと!さてさて、私はアーシェ様の使いでやって来た守護天使の…ゲフンゲフン…謎の美少女〜〜〜〜〜ぉぉ です☆」


 アーシェ様って言った!?世界の護り神であられるアーシェ様!?それに言い直したけど守護天使と言ったわよね!?確かに聞こえたわ! そう突っ込みたいけどとても突っ込む気にはなれない雰囲気…。おまけにドヤ顔でピースされていらっしゃる。


「まあ、超絶、超絶美少女の天使…もとい、私の事が超絶気になるとは思うけど取り敢えずは置いておいて…レイン君の事なんだけどね?」


 天使と言った。確実に天使と…。


 それに全然…何一つとして置いておいていいような話ではないと思うのだけれど…。


「あっ、レイン君というのはこの今、気絶している彼の事ね!歳はアイシスちゃんと同じ十六歳だから!こことは違う世界からやって来たんだけどちょ〜っと邪魔が入ってしまったせいでアイシスちゃんの家に転生しちゃったんだよねぇ〜。アーシェ様の寵愛を授かってるよ!でっ、でっ、ここからがちか〜〜〜っと複雑な事情があるんだけど、今はそれもまた置いておくとして、とにかく、この世界に構築、転生する際に呪いとかそんな感じで種族が人間から吸血鬼として転生しちゃったんだよねぇ〜!まあ、そこら辺はこれからなんとかなるとは思ってるんだけど―」


「ちょっ、ちょっと待って下さい!?じょ、情報量が多すぎて…」

 

 こことは違う世界!?転生!?吸血鬼!?呪い!?アーシェ様の寵愛!?アーシェ様から寵愛って受けられるものなのっ!?私の事には構わずに喋り続ける。少しは私の事も考えて欲しい…。


「―彼はこの世界の事は何も知らないし、自分の事に関しても何も憶えていないから暫くアイシスちゃんが面倒見てくれるとありがたいかなと超絶美少女の私は思う訳でありますよ!はい!」


「わ、私の話聞いてます!? って……はい?」


 んっ…ちょっと待って…今、私に彼の面倒を見てって言った!?


「だよね!アイシスちゃんならそう言ってくれると思ってたんだよね!えがったえがった!流石私!略してさす美少女の私!」


「ちがっ!?い、今のは違うんで―」


 それに全然略されていませんがっ!?怒涛の展開についていけない…。


「おっと!そろそろ時間ですたい!超絶美少女の私はどこでも引っ張りダコ!いや〜モテる私は辛い辛い!」


「お願いだからちょっと待ってぇぇ!わ、私、だ、男性のお世話なんて…お付き合いさえ―」


「この機会に堕として男をGET!我慢出来なくなったら襲ってOK!逆に襲われたい願望があるならYES枕片手にベッドで裸で待つといいと地球人は言った!アイシスちゃんは処女でしょ?たまに一人で慰めてはいるみたいだけど、そんな一人でしないで男性の味を知るのも一興かも知れないよ?最初は痛いかも知れないけど女は度胸!な〜に最初だけ、最初だけ!…多分」


「なっ…ななななっ!?にゃにを言って…」


 い、今の私はそんな事にかまけてる場合じゃっ…。チラッと今頃彼の顔をマジマジと見てみると…カッコいい…はっ!?まぁまぁとは思うけど!?


「あっ!それからタンスの奥に大事にしまってあるアレっ!そう、いつか愛する人に魅せる為のちょっと背伸びしたエッチな大人の下着を装着するのもいいかもね!」


「…ふぇっ!?」


 にゃにゃ、にゃんでそんにゃ事まで!?


「それともう一つ!これも大事な事だった!を君に与えておくけどの事はレイン君には内緒だよ!」


羞恥に染まる私を気にも止めずにウインクしながら彼女が言った。直後に私の眼に温かいモノが流れる。なんなの、これっ!?


「あっ…それと…アイシスちゃんが成そうとしている事は…彼と一緒に居る事で果たされるかもね? じゃあ、今度こそ、また会おう!とぉ!」


「…えっ…あっ…待って!それって―」


 私の声は既に届いていないみたいだった。次の瞬間には彼女は消えて…何もなかったかの様に静寂が訪れる。後には私のベッドにいつの間にか寝かされているレインと茫然とその場に立ち尽くす私…。


「彼はレインと言ったわね…。レインと居れば…私の…果たされる…」


 その問いに答えてくれるものは今はいない。


「とりあえず…彼が起きたらまずは謝らないとね…」


 と見た目が似ていた事で頭に血が登り問答無用で斬り掛かった事は謝らないとね。


 そしてふと、私はまだ体を拭いてなかった事を思い出し、レインが眠っている間に自分の体を…一応は丁寧に拭き上げてからレインが目覚めるのを待ったのだった。






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