第2話血の代価

「―と、いう事がレインが気を失ってる間に起こった事よ」


「………」


「ねぇ、レイン? な、何も言わないけど、ちゃんと聞いてた?」


「…あっ、うん、ごめんごめん。話はちゃんと聞いてたよ。説明ありがとう。取り敢えず…俺の素性というか俺の事というか、とにかく俺が君の敵じゃないと分かってもらえただけでも嬉しいんだけど…」


「?」 


「謎の彼女ってやらもなんとな〜くだけど正体というか、アーシェ様が遣わせてくれたんだとは思うからそれに関してもいいと思う事にしたんだけど、人間の筈の俺が何で吸血鬼になったのかとかその他諸々気になる所が多過ぎて…」


「…それはそうね。でも…アーシェ様から直接ではないにしても神託というか神命を受けたからには協力するわよ?」


「え〜と…それってアイシスにとっては迷惑じゃないの?俺なんかの世話みたいな事を半ば強制的に言われた様なものだから…」


「そんな訳ないじゃない!寧ろ光栄な事なのよ?」


 その言葉にアーシェ様がいかにこの世界で崇拝されて敬われているのかが分かるな…。


“くぅぅ〜〜〜”


 可愛らしい音がした方に視線を向けるとどうやらアイシスのお腹の音みたいだ。そっぽ向いているがその頬が紅く染まっている。恥ずかしかったみたいだ。


「し、仕方ないじゃない!?冒険者ギルドからの依頼を受けて帰って来たらこんな事になったんだし、安心したらお腹位すくと私は思うのっ。と、とにかく準備するから食事しながら話ましょう!」


「ああ…うん……………あれっ?」


「どうかした?」


「素朴な疑問なんだけど…吸血鬼の食事ってどうなってるんだ?この世界には当然吸血鬼、あるいはヴァンパイアって呼ばれる種族はいるんだよな?」


「吸血鬼はいるわよ。ヴァンパイアって呼び方が主流だけど…………………食事は……

………………………血?」 


 嘘だろ…。血って…。どうすればいいんだよ!?血なんか飲みたくねぇーよ!仮に百歩じゃなくて何万歩譲ったとして、アイシアに血を飲ませて下さいってお願いしろってか!?ハードル高過ぎるだろっ!?


「あっ………ちょっとジーっとしておいてくれる?」


「えっ…」


 何がなんだか分からないけどアイシスの言う通りにする事に。こちらを直視するアイシスの眼が一瞬だけ―


「今、アイシスの眼が光った気がしたんだけど?」


「気のせいでしょ?」


 見間違いだったかな?


「食事の事だけど、今まで通りの食事でなんら問題ないみたいよ?」


「分かるのっ!?」


「…ええ。…」


「連絡取り合えるの!?」


「こちらからは無理みたいだけど…問題があった時は教えてくれるみたいよ。とりあえず解決したという事で食事♪食事♪」 


 余程お腹が空いているんだろうな。その事に対しても申し訳なく思いながら、いそいそと食事の準備に向かうアイシスの後ろを俺は付き従うかの様に付いて行ったのだった。




***


「はい!今日は簡単、早い、安いの三拍子!オーク肉のステーキにしたわ!」 


「おおーっ!!」


 目の前に出されたのは分厚いステーキ。肉から漂うその匂いは牛のステーキよりも濃厚で鼻腔を激しく刺激する。そんな匂いを漂わせているのがオーク肉だとっ!?オークっていったら異世界では定番のモンスターのオークだよな?異世界に来た実感を今更ながらに感じてしまう。


「これがオーク肉…モンスターの肉だよな?くっ…涙が出そうだ…」


「…感動し過ぎじゃない?」


「オークだぜ、オーク!俺の同郷の者が見たら間違いなく俺と同じ反応すると思うぞ!」


「…そっかぁ…私達にとってはこれが普通の食事でもレイン達にとっては違うのね?」


「こんないい匂いする肉なんて初めてだし、今すぐ口にしたくなる」


 俺のお腹も今にも音がなりそうだ…。


「ふふっ…じゃあ、食べましょう!口に合うといいけどね」


「合わない訳ないよ!いただきまーす!」


 皿に乗ったオーク肉にフォークをブスッっと突き刺す。肉質も柔らかそうな感触…。


 いざ、オーク肉実食!!


 “パクっ…”


「もぐもぐもぐ………ごくん…」


「どう、違う世界の食材の味は?」


「うん…思ってたのと違う…」


「ええーっ!?予想外の反応なんだけどっ!?」


「生臭いというか、何と言うか…一口でもういいかなって…と、言うより無理だ。二口目からは絶対に喉を通らない自信がある」


「しかもダメ出しの追撃!?」


 いやいやいや…流石にこれは…地球の人なら食べた瞬間に俺と同じ反応、もしくは吐き出すレベルの味だと思う。匂いはいいんだけど、どうもただ焼いただけみたいなんだよね。調味料が一切使われてない感じ。味付けしたら変わりそうなんだけど…


「肉に味付けしてないよね? 塩とか胡椒ってないの?」


「あるけど…高過ぎて手が届かないわよ?」


「マジ…か…」


 そういえばラノベ等でもその世界観によってはそういうのは希少で高額だったっけ…。


 目の前のアイシスはこれが普通とばかりにオーク肉のステーキをパクリと一口。


「んっ……まあ、私は普段から食べ慣れてるから何も思わないけど…」


 アイシスは2口目を口にしようとしている。


 郷に従えば何とやらと言葉があるが、俺はどうすればいい? 

 あの生臭さをもう一度?

 一口目は何とか飲み込めたから無理すればいけるよな? 

 折角アイシスが準備してくれたんだし…


 葛藤していた俺は気付いていなかったのだが、アイシスは2口目を口にはせず、いつの間にか皿に戻していた。そして―


「レインのスキル…【血の代価】を使えだって…」


 どうやらアイシスにまた謎の美少女から交信が来たようだ。


「俺のスキル?」


 血の代価って…不吉な感じしかしないのだが…


「ちなみにどうやってスキルは使うんだ?」


「スキルは使おうと思えば使える筈よ。みんな同じ筈だから…レインも同じだと思う…」


「スキルの詳細は何か聞いてる?」


「ううん、聞いてない」


 使おうと思えば使える…か。なら、止めようと思えば止めれるんだよな?アーシェ様の遣い?なら危険な事は言わないと思うし…。


 意を決してスキルを使うと思ってみる。すると脳内とでも言えばいいのだろうか。スキルの使い方が分かる…。


「アイシス、ナイフとか小さめの刃物ってある?」


「あ、あるけど…大丈夫なんでしょうね?」


「うん、指先を少し切るだけだから」


 心配そうなアイシスからナイフを受け取った俺は自分の指先に傷をつける。


“ツゥー”


 ―と、指先から出る血を床に垂らし、


「【血の代価】」


 己の血と引き換えに欲する物を思い浮かべながらスキルを発動させる。使う血の量は物によってどうやら違う事が分かる。


 結構必要なものなんだなと思っていると―


 床へと落とした血が魔法陣を描き、パァッっとその魔法陣が輝きを放ちだした。そしてカァッ!っと一際大きな光が…


 光が収まった後の床には…欲しいと思い浮かべたあの有名なダ◯ショウの味塩胡椒の姿があったのだった。





 


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