1-2 初めてのアルバイトで心が折れそうになったら一軍女子が声をかけてくれた
夏休みの初週。
川里はティッシュ配りの日払いのバイトをするため、繁華街の路上に立っていた。
やることは道を行き交う人々に声をかけ、広告入りのポケットティッシュを渡すだけ。どのように声をかけるかは事前に説明を受けている。
その内容を川里は理解できていたので、言われたことを忠実にこなす自信を持っていた。
さっそく川里は足下にあるダンボールからポケットティッシュを取り出した。後は事前に受けたレクチャー道理に声をかけるだけである。
それだけのはずなのに、川里は道行く人に声を掛けようとして言葉を詰まらせた。脳裏にクラスメイト達の嘲笑がフラッシュバックしたからだ。
そのせいでティッシュを差し出しても素通りされてしまう。差し出す相手によっては露骨に避けられてしまう。
川里は腕にぶら下げた袋を確認した。中にはティッシュがびっしり詰められている。このまま仕事が終われば、仕事をサボったと勘違いされるだろう。
川里は溜息を漏らし、俯き気味にティッシュを差し出した。そのティッシュを細長い指が掴んだのはその時だった。
「もしかして川里?」
聞き覚えのある声がして、川里が顔を上げるとと、高身長の金髪の女子が立っていた。
川里を嘲笑したクラスメイトの一人である。
初木はニコリと微笑み、差し出されたティッシュを受け取った。
「川里ってバイトしてたんだね。家で勉強だけしてそうなイメージだったから意外」
川里は眉間に皺を寄せた。
心中で何かを言い返そうと思っていた。
それなのに安堵している。
「イメージ通りだ。バイトも今日から始めた」
金髪の女子生徒は納得したように頷く。
「そうなんだ。がんばってね!」
金髪の女子生徒は川里に背を向けて歩き出し、川里に向き直った。
「川里が笑うところ初めて見た。良いじゃん」
そういい残し、初木は肩に掛かった金髪を踊らせ、立ち去った。身長が高いこともあり彼女の後ろ姿がモデルのように見える。
川里は彼女の後ろ姿を見送り、首を傾げた。
初木が来た道を戻ったからだ。
「まぁ、個人のことだし」
川里はティッシュ配りを再会した。
自分を嘲笑した女子と対面した後だというのに、川里の表情は嵐が過ぎた後の空のように晴れ晴れとしている。
その後、ティッシュを受け取る人が現れた。
川里は次第に仕事に慣れていき、ティッシュを配る際には練習通りに声を出せるようになった。
これを期に川里はティッシュ配りを数日繰り返し、それに見合った成果と対価を手に入れた。
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