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「はじめまして、ワーズナーさま」
ガートルードは深く頭を下げた。
「こちらが工場監督官のエドウッド様、私は助手のガートルードと申します」
エドウッドは姿勢を正し手を組み、小さく頭を下げた。
ワーズナーは少し不思議そうな顔で二人の顔を交互に眺めた。まずエドウッドの服装の上から下までをながめ、次にガートルードの服装と荷物に目をやり、続いて長い耳に目を留める。
そしてなにかを思案するように首を少しかしげた後、パッと笑顔を作った。
「お待ちしておりました。王都から工場監督官がおいでになっていると伺いましてね。ちょうどお迎えに上がろうとしていたところなのです」
そう言いながら、ワーズナーはエドウッドに右手を差し出した。
エドウッドはすました顔で右手を握り返し、握手を交わした。
「このような辺鄙な町まで、随分と遠かったでしょう。
────どこに泊まっておいでなのかがわかれば直接宿までお伺いできたのですが、いや失礼いたしました。
ところで朝食はお済みですか?工場内の食堂でよろしければ、モーニングをご用意いたしましょうか?」
「んん……」
ガートルードは、エドウッドが助けを求めるような視線を送ってくるのに気付いた。
ワーズナーは親しげに笑いながら、握手したままの手を軽くたたき、
(どう────いたしましょうか)
ガートルードは逡巡した。
想定していない見知らぬ相手との遭遇は、エドウッドにとって最も苦手とするものだ。
初めから会話することが想定できていれば問題はない。しかし突発的な会話になると、たまにとんでもない言い回しをしてしまったり、会話があさっての方向へ進んでしまったりする。
エドウッドもそれをわかっているから、あまり人前で口を開こうとしないのだ。
とはいえ、ガートルードは割って入るタイミングを計りかねていた。
────ワーズナーが長い耳に目を留めてなにを思っていたのか、ガートルードは気になっていた。
ヒト族の多いこの国では、
今のところ、ワーズナー社長はエドウッドには好意的に接してくれている。ヘタに割り込んで相手の機嫌を損ねて、このあとの業務に差し障りがあってもいけない。
「────お気遣い、ありがとうございます」
ガートルードは、相手の顔色をうかがいながら、深く頭を下げた。
ワーズナーは怪訝そうな顔で、耳長の
「せっかくのお申し出ですが、朝食は宿で済ませてまいりました。
それよりも────ここで社長にお会いできたのであれば、さっそく工場監督官としての仕事を始めさせていただけるとありがたいのですが」
「ん……」
エドウッドも、同意のうなずきをして見せる。
それで、ワーズナーは再び笑顔に戻った。
「さすが、王都の方は仕事熱心でいらっしゃる。ええ、もちろんご協力させていただきますよ」
ワーズナーは手を上げ、守衛に合図を送った。
守衛たちがいそいそと門を開く。
「それでは私の工場へご案内いたしましょう。どうぞ、こちらへ」
ワーズナーは、
「小さな町ですからね。噂はすぐに広まるんですよ」
運転席には白髪の老人が座り、工場の広い中庭をゆっくりと車を進めていく。
客室の座席は向かい合わせになっており、エドウッドとガートルードの二人はワーズナーと向き合う形で座った。
「スリーウィール工場さんに監督官さんが来た、と耳にしましてね。それで次はうちの工場だろうと思って、お待ちしていたんですよ」
「なるほど────」
ガタガタと揺れる車内で、ガートルードは舌をかまないように黙っているのがやっとだった。
かといってエドウッドは無表情だし、ワーズナーの饒舌に無言で返すわけにもいかなかった。
やがて
ワーズナーは自ら扉を開け、エドウッドたちが降りるのを迎えた。
「うちは、設備には自信がありましてね」
「作業場の換気や温度調節をするために、大型の魔法道具を導入しているんですよ。労働者たちの健康管理もしっかりやっています。うちは工場法を遵守しておりますので」
「よくご理解いただいているようでなによりです」
続いて降りながら、ガートルードが答えた。
「聞き取り調査の前に、工場内の様子を拝見させていただきたいのですが」
「ええ、もちろん構いませんよ。うちの工場は規模が大きいので、少々歩いていただくことになってしまいますが」
「よろしくお願いします。もちろん操業に差支えない範囲で構いませんので」
ガートルードが頭を下げると、ワーズナーはにこやかに笑った。
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