第2話
異物挿入に目覚めたのは中学性の時だった。
ある日の自慰行為の最中、それは突然やって来た。
言い換えるならば、それは扉のようなものだった。自分の秘部に指を入れる。ゆっくり、優しく。奥まで入れて、出してをすると気持ちがいい。それは分かっている。だがその先、まだどこか、達していない何かがあるのではないか。
自分の体の奥底に鍵のかかった扉があって、誰かが開けるのを待っている。その扉を開けば、何かが爆発し、今までに体験したことの無い快楽が全身を駆け抜けるのではないか。そんな考えが頭に憑りつき、離れなくなった。
そうして、天啓のようにふと思った。
“マジックペンをお尻に入れればどうなるのだろうか”
知識としてそういう行為があることは知っていた。友人が進めてくれた過激な恋愛漫画にもお尻を使って相手を愛でる描写があるのも見たことはあった。だが、今まで別段何の興味も湧いたことはないし、まして自分の体でそれを試そうとは夢にも思わなかった。
しかし、その日に限って美空は何かに引き寄せられるように、試してみたくなった。
通常、肛門への異物挿入でオーガズムに達するにはそれなりの慣れが必要だとされている。初めての挿入は苦痛を伴い、多くの人は少しずつ穴の中にある快楽の園を手探りで訪問していく。
ところが、美空は一回。たったその一回で果てた。扉の鍵は一瞬で開錠され、向こう側に広がる果てしない薔薇の園を見てしまった。
自分に才能があったのだと気づいたのはしばらく後になってからだった。
それ以来、美空はありとあらゆるものを尻に入れ続けた。電池に野菜。ビール瓶にバット。細長い物、球体で入りそうものなら、片っ端から試した。
当然、激痛で動けなくなったことや、テニスボールが上手に排出できず、危うく救急車を呼びかけたことも何度かある。
世の中の全ての事がそうであるように、経験こそが人間を成長させる。その能力に気づいたのは、博物館で弥生時代の展示を見ていた時だった。
千葉で出土していた埴輪を見ていた美空は、唐突に分かったのだ。これを尻に入れたら気持ちがいい。
彼女は自分でも知らず知らずのうちに挿入すれば気持ちのいいものは目視だけで判断できるようになっていた。
そんな美空がメザ・ゴンドを見た時の衝撃は筆舌に尽くしがたい。想像が尻の穴に神経を集中させ、考えただけで軽いオーガズムが走った。
水陸両用に開発されたメカ、メザ・ゴンドは水の抵抗を減らし、アクティブソナーを受け流すため、円錐形の頭部とでこぼこした胴体を持っている。巡航状態に変形した際には、両腕は格納され、さながらそれは円筒状の何かに生まれ変わる。
凹凸の付いたそれがゴリゴリと腸壁を削る感覚を想像するだけで、涎が垂れそうになる。
あまりに完璧なフォルムだった。まるで挿入するためだけにデザインされたフォルムをしていた。
そう、フォルムだった。フォルム、フォルムが――
「フォルムが、かっこいいじゃん」
返答を待つ千尋に美空はそう答えた。
千尋は鼻で笑って首を傾げた。彼女はスマホで検索したメザ・ゴンドを眺めている。
「だっさいロボやん。これのどこがかっこええんや? キノコやん」
それがいいのではないか、口から出かかった言葉をグッとこらえ、舌下に湧出した唾液を飲み干した。
「と、というか、そんなことはどうでもいいから呪いは……」
千尋はハイハイと頷き、腕を組んでしばし逡巡した後、口を開いた。
「とりあえず、ラーメン食べ行こ」
つづく
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