第2話 話せばわかる 

先攻・赤チーム

①『寒桜我ロンギヌスなら筆箱に』(風)

②『寒桜カラオケ帰りの夜道にて』(音)

後攻・白チーム

③『小テスト丸めて捨てる寒桜』(阿)

④『あの人のまた立っている寒桜』(坂)


 黒板に句を書いて机を並べ、さっそく黒崎が進行を始める。


「今回は練習なので読み上げはカットしますね。

では先攻赤チーム、白チームの句に質疑があれば挙手をどうぞ」


僕と音無が赤チームで先攻なので、しばし相手句の③をながめる。

うーん、どんなツッコミからスタートしようか。


「先言っても良いですかね」

「お、良いよ~」

音無が早速手を挙げる。


「音無さん、質問をどうぞ」

「はい。

寒桜、という桜ではあるものの冬から咲き始める季語の利用において、小テストを丸めて捨てる、という描写はとてもよくマッチしていてとても面白いなと思いました。

学年が上がりクラスが変わる前の、やる気の少し無くなってしまう時期での気怠さみたいなものが感じられます。」

「残り30秒です」


さぁ、まずは褒めるタイムである。

ここで一旦言葉を区切り音無が息を吸いこむ。

ここから攻めパートが始まるかな。


「ですが、小テスト、つまり紙を丸めて捨てるという表現はいささか、寒桜つまり桜の印象で重きを占める花弁の散る様子や、花と紙の白さの色彩などが近しすぎると思います。

同じ時期の他の季語でなく、なぜ寒桜を選んだのでしょうか」


試合開始直後、まだお互いの句理解が深まっていない時点で放つジャブ、

"何故その季語を選んだか?"

である。

そりゃもちろん、兼題だからに決まってんだろ!!が事実である。

だがそれじゃあ……雅じゃないよな?

白チームの阿久津が挙手、行司が指名。


「はい、表現が近しいとおっしゃられましたが、桜は屋外に咲いていますよね。

だから、室内で紙を丸めて捨てる様子をフォーカスしてから窓なりへと視点が移動し屋外の桜にズームアウトした際、相似点のある景色が景(句の表す景色)の共通点となって面白いなと思いました。

色合いが近いこともテストを雑に受けた詠者の気怠さによる憂鬱が感じられませんか?

先程褒めていただいた時期としての意味と、動きとしての意味で寒桜という季語を敢えて選びました」


おぉ、なかなか良い返しだ。

阿久津にしては冷静に詠者の独りよがりでない句の意味合いを説明できている。

さて、そろそろ僕も喋ろうかな。

手挙げよっと、音無が手を挙げていないので指名される。

これ実は、一人がめっちゃ喋れる場合一人が挙手し続けることになるが、そうすると審査員からの心証は良くない。

まあ、もう何回も喋ったメンバーと喋ってないメンバーが同チームで同時に手を挙げた場合、基本的に後者が指名される。

なのでお互いの引き時や攻め時の信用と賭けもこの競技の面白みだったりする。


「はい、景の色彩が近しいことで雑にテストを受ける気怠そうな様子を表す、とおっしゃっていましたが、その場合寒桜、その寒きに強く佇む力強さと言いますか、雄大さの迫力が潰えてしまっている気がします。

時期的に表す、といった点があるとしても、気怠さを表すには季語が強すぎて上五と中七の描写にあまり合っていないように感じました。

その点についてはどうお考えですか?」

「兼題だから仕方ないじゃんっ!(泣)」

「白チーム、私語は慎むように^^

そして部長は顔がウザイ、慎め」


ふっ、練習だから赦される甘さ、嫌いじゃないぜ……おい黒崎待て、顔がウザイはただの悪口だ泣くぞ!!


「はいはい、戯れ言は良いとして残り30秒~!

白チーム、赤チームの質疑に応答願います」


参ったな、ぼやきつつ坂田が挙手。

「副部長、どうぞ。

さっさと部長しばいてください」

「厳しいなぁ、はいはい。

えーっと、季語の良さである点に上五中七が潰れている、とのことでしたが……。

うーん……その、むしろ詠者の弱さ?というか小ささの脆弱性と桜の大きさがイメージとしてコントラストになっていて、」

「そこまで!時間です。」


「うがー、時間足りんかった!

あんまり速く思いつけなかったなぁ、次だ次!!」


うだーっと坂田が突っ伏してすぐ起き上がる。

そろそろ皆場慣れし始めている、良い兆しだ。


「ほいじゃ準備OKですね、次行きますよ

『寒桜ロンギヌスなら筆箱に』

はい、白チーム、†紅蓮クリムゾン†の赤チームに質疑があれば挙手をどうぞー」

「おいその†紅蓮クリムゾン†要らねぇよ厨二で悪かったな!!」


部長虐で動揺を誘うだと、さてはお前白チームとグルで!?

 

「はい、ロンギヌスを俳句に入れるそのネジの飛んだ頭の中身を解説してください、っていうのは冗談。

私の知識が正しければロンギヌスってキリストの処刑に使われた神殺しの槍、的なやつですよね。

筆箱に、とのことでしたね。

詠者はメタリック定規かハサミか赤ペンかにでもロンギヌスって名付けたのでしょう、そこまでは良いのですが、寒桜の必要性はどのような意味なのでしょうか?」


……正解だ錬金術師、赤ペンのことロンギヌスって呼んで詠んだよ……


「はい…(挙手)」

「どうぞ部長、……犯人は皆そう言いますね」

「まだ何も言ってない!!」


時間食っちまうな、急いで気を取り直して。


「えー、まさにご明察です、ロンギヌス、そう神殺しの槍ですね。

そしてそれを筆箱に入った文房具の名としてしまう詠者の、俗に言う厨二病ゴコロ、は伝わると思います。

で、寒桜。

白チームの一句目でも出ましたね、クラス変えや学年の上がる前の不安な時期を表しつつ、寒くても強く耐える寒桜と詠者の己を強く持つ力強さが互いに引き立って感じられませんか?」


うん、説明に無理があるよな。

でも、それで良いんだよ。


「はいはいはい!」

「白チーム、阿久津さんどうぞ」


さぁどう突っ込んでくるかな?


「えー、力強さが引き立つとのことでしたが、寒桜はその特徴もありながら桜ではあります。

その儚さや柔らかな春らしさの象徴としての人に愛される特徴を独りよがりな厨二病患者と結びつけるのは些か季語に失礼ではないでしょうか^^」

「阿久津さん、事実ですが言い方が強いので注意してください、本番なら退場ですよ。

言ってることは事実だけど^^」


……直に悪口じゃねぇか、しかもさっきから語尾に ^^ が幻視できるぞ、ヤメロ辛いだろ。

さて、巻き返しますか……と思ったら、音無が制止の合図を出してくる。

珍しい、意図のわかりにくい句は詠者、つまり作者本人でないチームメイトはサポートしづらい。

それによって解釈が分かれてしまうかもしれないからだ。

だが、客観的に解釈したチームメイトが詠者の意図を汲んだ上でとても良い守りをすることも多々ある。

チームスポーツとしてのデメリットでもありメリットでもある不確定要素だ。

だからこそ模擬試合は欠かせない、お互いの"ツッコミ"の癖や、組み立てがちなストーリー構成を把握することが連携に不可欠。

また、そこから他人の返し方に関するバトルスタイルの良いところを自分にフィードバックすることもできる。

(私語は基本的によろしくないのでさり気ないハンドサイン等を決めておくのが役立つ)

おや?僕の意図に気付いたか、察してくれるなら行ってこぉい!!

ゴーサインを待ってくれた彼女が手を挙げる。


「白チーム、赤チームの質疑に応答をお願いします。

あれ?

このタイミングで部長じゃないの珍し、音無どうぞー」

「はい。(部長、違ったらすみません)」

「(構わん、自信持って行け)」


一抹の不安を滲ませた表情で音無のターン。


「先程強さを詠者サイドには感じられず、とのことでしたが。

確かに独りよがりな妄想と切り捨てることもできる、青少年にありがちな弱みを持っている詠者なのでしょう、恐らく桜も自分と同じ立ち位置ではなく、日陰者から見た敵、例えば人気者や春の世間が浮き足立つ様子を象徴する存在とするに、桜はぴったりではないですか?

また、自分をしっかり持てている、という点においては自意識の過剰さも強さの礎と言えなくもないと思いませんか」


おおーーー!!めっちゃいい!!

なかなか毒舌だけど良い!!!!!


「あー、上手いこと言ったな。

赤チーム、白チームの応答に質疑はありますか」


うむむ……と唸っていた阿久津が苦し紛れな感じに手を挙げる。


「とても深く良い応答でした、ありがとうございます。

質問を変えさせていただきます、」


"質問を変えさせていただきます"

場の仕切り直しとなる一手である。

相手の応答がしっかりしていた場合にツッコミどころを探すと粗探しになってしまう恐れがある、そのような時にこの発言により場を仕切り直せる!!!

ただし乱用は禁物だ、場を仕切り直すということは短い制限の中で戦っていて不利になった状態で行っているので下手な質問を飛ばすと返された答えに穴があってもそれを突くことが出来なくなるデメリットもあるからだ。


阿久津が言葉を続ける。


「あのー、じゃあなぜその句の詠者が文房具に付ける名、そして桜への武装?として神殺しのロンギヌス、を選んだのですか?」


そう来るよな。待ってたぞ。

音無が不安そうにこちらを見るが、

"任せろ"のサインを出す、シンプルにサムズアップで。


「はい、それはですね。

桜という、その存在自体が奇跡のような美しくそれでも儚い人々に好まれる樹。

そんな神聖さに対してリアリストと言いますか、ニヒルな笑みを浮かべる詠者はこう心の中で伝えるワケです。

『いいぜ、まずはそのふざけた幻想をぶちk』……」

「時間です、そこまでー!!!

誰が言い切らせるかバカモン、真面目にやらんかい!!」


パカァンッ!

"俳句"、とデカデカ書かれた俳句ノートで隣の音無に叩かれる。


「部長、さっきのは駄目だよ折角良い感じだったのに巫山戯ないでください」

「す、すまん……時間内に言い切れると思った……」

「「「「そういう問題じゃねぇ」」」」

「ごごごごめんなさいぃぃ……」


めっちゃ白い目で見られた。

さて、またまた気を取り直して。


「すまんすまん、じゃあ審判よろー」

「しゃーないですね、判定行きますよー。

って言っても審査員僕1人だからなぁ…」

「最初から外で聞いてたから判定するぞ」


ガララ。

そう言って突如顧問が部屋に入ってくる。

スーツ姿でかっちりとした、女教師だ。

顧問の白崎である。

行司をしていた黒崎の対義語ではない。


「風知、そげぶして遊んでたから鑑賞点マイナス10点でいい?」

「はいすみません勘弁してください」


(僕がぼこぼこにされる様を描写してもつまらないので以下略)


「と言うわけで僕と先生で行きます。

双方先鋒、一句目。

旗無いから点数さっさと発表します。

赤作品点。

黒崎:8点 白崎:9点

白作品点

黒崎:9点 白崎:8点

鑑賞点1点が赤に入り、18対17で赤の勝利……って先生、赤の作品点9まじ?


ギリ勝った。

やかましいぞ黒崎^^


「ロンギヌスなんて句に突っ込む奇癖にはワンチャンある。

もしかしたら将来化学反応が起きるかも、という先行投資だ。

説明も厳しいはずだったが、今回は音無の功績で良かったからな」


うん、そうですよね知ってた。


「音無てんきゅ」

「どういたしまして」


グータッチして再び前を向く。

先鋒赤チームの勝ち、次鋒戦(今回はこれが大将戦だが)が始まる。

さぁさぁ後半戦参ります!!


(第3話に続く)

――――――――――――――――――――

さて第2話です

俳句は作者の書き下ろしなので出来が拙いですが、これまたご容赦ください(^-^;

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なかはちッ!! 風若シオン @KazawakaShion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ