後編「縁結びの花・エメラレイン」

 社に行く途中にセレン達はテラ神と話していた。

「所で、テラ様はどういう理由でここにお越しになられたにゃん」

「私は、雨の女神アニスを酷く傷つけてしまったんだ。それで、謝りに来たんだよ」

 それを聴いたレアンは、むっとした表情になり、テラ神を横目で軽く睨む。


 そのうち赤い鳥居と社が建つ、土地が眼下に見えて来た。

「ああ、アニス……」

 テラ神は、居ても立っても居られなくなり、先に地に降り立つと光の翼は溶けるように消えた。


 その後にセレンとレアンも続く。

 気が急くテラにレアンが少し厳しく制止した。

「待ってください、テラ様。貴方は女神様を悲しませたとおっしゃいましたね。女神様に会う前に差し支えなければ、僕達にお聞かせ願えませんか?雨の女神様は、僕達の国の大切な神様です。女性を悲しませる人には会わせられませんからね」



 その言葉にテラ神はうっと唸りながらも、静かに語り始めた。

「今から、二十年前。私とアニスは周りに忍んで付き合っていたのだ。私達は、結婚の約束をしていた、だがある日、私が留守の時に彼女が私の社に訪ねて来た。その時に私の妹がいて……」


「それでどうしたのですか」

 レアンが静かに聞く。セレンも気が気ではなく二人を気にしながら、話しを聞いている。

「妹が尋ねて来たアニスに焼きもちを焼いて、自分はテラの想い人だと嘘を吐いた」

「えーっ!酷いにゃん」


 抗議の声を上げるセレンに「シッ!セレン殿、静かにして」とレアンが人差し指を唇に当てて、注意する。

「ごめんにゃ」

「続けてください」


「彼女はショックを受けて泣きながら国へ帰ってしまった。それから、五分後に私は帰り、その話を妹に聞き、絶望した」

「あと5分、あと5分。私が帰るのが早かったら、引き留めて訳を話せたのに……」

 落ち込むテラにセレンが優しく聞く。


「――辛かったにゃんね。でも、どうして二十年もそのままにしてたにゃ?早く追いかければ良かったのに」

 テラは、袋の中から紫陽花を取り出した。


「これを探していたのだ。この花を、この紫陽花は“エメラレイン”と呼ばれる物で、二十年に一度しか咲かない幻の花とされている。愛しい人に手渡すと幸せになれると」

 テラの手の中で、エメラルド色に煌めくその花は、見ているだけで幸福になれそうな雰囲気を持っている。


 レアンがそれを聴いて口を開こうとした時、社の扉が突如開いて、銀髪で巫女服を纏った金の瞳の美しい女性が飛び出して来た。

 テラを怖い顔で睨みつけてくる。


「……アニス!」

「えっ、あの方がアニス様!」

「ふにゃ~綺麗な人にゃ」


 雨の女神アニスは、つかつかと歩いてくると突如、テラ神にこう言い放った。


「全部、聴いたわよ、テラのばかッ!何をしていたのよ。二十年間も、私は早く来て欲しかった!違うなら、早くこのことを正して私を、私をその胸に抱きしめて欲しかッ……!」


 そこまで言いかけて、アニスは泣き崩れて地面に膝が付く前にテラに左手で手首を掴まれ、右手で抱き寄せられる。

 テラはアニスをその胸の中に抱きしめる。


「すまん、アニス!私は君を悲しませてしまった。この紫陽花を探して、逢う口実を探していたのかもしれない」

「私は花なんかなくても、貴方がいれば幸せなのに……ばかよ」


「愛してる、アニス」

「私もよ、テラ」


「ありがとうセレン、レアン」

 テラ神とアニス神は、セレンとレアンに礼を言ってエメラレインをくれた。


 町の丘の上でセレンとレアンは話し合っていた。

「良かったですね、お二方」

「良かったにゃ、エメラレインも綺麗だしにゃ」


 その時、突然大雨が降り出し、二人は大木に走り出す。

「凄い雨っ」

「濡れますっ、セレン殿!これを」


 レアンは自分の上着を脱いでセレンの頭に被せる。

 セレンとレアンは大木の下に雨宿りをした。


「ありがとにゃ、あたしのせいで濡れちゃった。寒くない?」

 セレンは心配して水色のハンカチを取り出し、レアンの濡れた肩や髪を拭く。

「はい、平気です。僕は丈夫に出来ていますからね」


 しばらく二人は並んで座って、雨宿りをしていた。

 すると、通り雨だったようで小降りになり、また雲間から光が指す。

「あれ、晴れになったにゃ? あの二人が一緒にいるからかにゃ」

「そうかもしれませんね」


 セレンとレアンが空を見上げると、空に七色の虹が掛かっていた。

「凄い!虹にゃ、キレ~」

 その青空のような青い瞳を輝かせて空を見上げる彼女を見て、胸が脈打つレアン。

「セレン殿……僕は、貴女の純朴じゅんぼくな輝きの方が素敵だと思います」

 彼は緑色の瞳を細め、手の甲にキスを落とした。

「はにゃんっ、レアンさっ」


 彼女は、ぽぽっと頬を薔薇色に染めてレアンを潤む瞳でみやる。

「僕は貴女が好きです。出会った時から、セレン殿は僕のことを」

「あ、あたしもっ、レアンさんが大好きにゃんっ」

 セレンはレアンの頬にちゅっと、キスをして愛らしく笑った。


 これはあの二柱の神が、自分達の背中を押してくれた。

 セレンとレアンはそう思い感謝をしていた。

 雨と太陽の二柱が再会したその後のレインウォルズは、雨の日も晴れの日もくるようになり、晴れの猫巫女セレンは、どうしても雨がやまない時にだけ儀式をお願いされるようになったという。



 -fin-



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 最後までお読みいただきありがとうございます。 

 後日、後日譚が入って完結となります。

 よろしければ、お読みくださると嬉しいです。  

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