第3話 ドワーフの子
斑入り野郎という言葉が何を示しているのかはわからなかったが少なくとも好意的な言葉ではないということがわかる。ちらりと横のエルドワの顔を見るがいつものように人懐っこい笑顔をしていた。
「魔石はとれたんか?エルドワよ。え?」
「結構いいのが取れたよモイチーさん。最低でもA3ランクはある。」
「A3かぁまあまあだな。王国の坑道か?埋蔵量はどれくらいだ?」
「それは教えられんけど1t近くならもう掘っとるよ。今手持ちは少ないけど」
エルドワがおそらく検品用であろう魔石を取り出す。すぐにモイチーが奪い取り、
鑑定を始める。魔力を流された魔石は青白く輝き始めるが、先ほどエルドワが見せてくれた魔石よりも輝き方が鈍いような気もする。高品質の魔石を手放すのを嫌がっていたところから考えるに、少しグレードの低いものを売ることにしたのだろうか?
「確かにA3ってとこだな。最近は魔石の坑道はレッドオーシャンやけん、本体じゃなく坑道ごと買い取ってやってもいいんだぞ?値ははずむぞ」
「いやいいわ。王国の坑道でドワーフが発掘作業してるってバレたらやばそうだし」
「ふん。確かにお前はドワーフじゃねえしな」
笑顔だったエルドワの顔に少し影ができる。一瞬のことだったので目の前のモイチーは気が付いていないようだ。
「ところでモイチーさん。空気不純が起きてる場所ってどこなの?そっちは今日中に終わらせれると思うけど」
「ああ、あれか。最近サブの魔道具に不調が起きちまって武器製作所がえらいことになっちまっちょる。今からできるんなら案内するぞ」
「じゃあ行きますか」
モイチーがやや高めの椅子からドスっと降り、問題があるという武器製作所へと案内をしてくれる。ドワーフのギルドを出てすぐは先ほどと同様の町を歩いていたが少しずつ道をそれ、工業地帯のような場所になってきた。その中の一つの工場に入り作業場の裏側へと向かう。他の場所からは魔法の光や金槌の音が絶え間なく起きていることから作業中であることがわかったが、ここはどうやら使われていないようだ。使われていない理由は裏へと回るとわかった。以上に熱気が立ち込めている。武器の製作所と言っていたので他の場所よりも気温が高くなるのは理解できるが流石にここは暑すぎだ。ドワーフなら大丈夫なのかと思ってモイチーを見るともじゃもじゃと生えた髪やひげの合間から汗が滝のように出てきている。
「ここじゃ。ネズミかなんかが荒らしよったんか空気の巡りが悪くなっちょる。さっさと直したいんやけど、こんな中で作業しちょったら死んじまう。とは言っても鍛冶場の火消すわけにいかんしな」
「あーだいたいわかりました。一時間もあれば治せると思いますよ」
「なら助かるわ。終わったら教えてくれ」
そう言ってモイチーはこんなとこにはいられないと言った感じでドスドスと出口から出ていった。
「ウィズ。お小遣い稼がん?」
「何すればいいんですか?」
「俺が暑さをどうにかするけんその間に魔道具と配管の修理してくれや」
「わかりました」
エルドワは返事を聞くとすぐさま気温を下げるためであろう魔法を使い始める。バックから移動に取り出した木の枝とは違う、まだ何も加工がされていない白い木の枝を取り出し、呪文を唱える。
「妖精:森の意志、風と共に世界を巡る」
枝から新鮮な風が溢れ出るのと同時に1体のかわいらしい妖精が出てくる。
妖精は軽くをのびをし、イタズラっぽい顔を浮かべるとエルドワの周りをぐるぐると回り始め、やがて部屋全体を回り始めた。そんな妖精の動きと同調するように溢れ出した新鮮な風が部屋全体へと行き渡り始め、部屋全体を覆っていた熱気のこもった空気がどこかへと消えてしまった。
「妖精呪文!?初めて見ました!それってかなり難しいんじゃないんですか?」
「確かに言うことを聞かない妖精たちを手懐けるのに苦労はしたけどそっち方面俺得意だから意外とすんなり言ったわ」
「へぇー。すごいですね。あとでコツを教えてくださいよ」
「いや俺も別に練習して上手くなったとかじゃないから期待には添えんかもしれん」
そう言って照れくさそうにエルドワは笑う。
「はいじゃあウィズ後はよろしくな」
「わかりましたよ」
珍しいとされる妖精魔法をもう少し見ていたい気もしたがお小遣いをもらうのも大事なのでさっさと仕事に取り掛かる。
空気をコントールしていた魔道具を見てみるが鈍い光を出しているところを見るに壊れていないことがわかる。そうなってくると問題があるのは配管の方だろう。配管を一つずつチェックをしていくと一つ明らかに熱で溶けてきている配管を見つけた。中を覗いてみるとどうやら何か詰まっているらしい。それが空気の通り道を邪魔して熱がこもってしまっているようだ。今すぐ手でひっこぬきたいところだが短い手ではどうやら届かないようなので魔法で無理やり引っ張る。
「遊戯:こいこい」
グググと配管が震え、何かがこちらに無理やり戻ってこようとしている。なかなか出てこないので魔力をさらに上げるとドポっと言う音と共に酒瓶が飛び出してきた。
酒瓶は溶けて脆くなっていたのか出てきて地面に落ちると同時に破裂する。
音にびっくりしたのかエルドワがこちらを覗いてくるが何か理解したのか納得顔をしている。
「それ多分、隠しとったんやね。ここアルコール禁止やし。ちょっとずつ飲もうと思っとたけど思いの外ビンが熱くなって取れんくなっちゃったって感じやろ」
「そんなしょうもないことで仕事場止めるって・・・」
「まあアルコールはドワーフにとっての命やけんね。そういう奴もおるやろ」
エルドワが妖精魔法を解きしばらく待ってみるが気温が上がらないのでこれで一件落着というところだろう。結果報告をエルドワがするとモイチーも納得した顔をしていたが、この後原因となったドワーフを吊し上げるということを言っていた。
「ほんじゃこれ少ないけど」
いくつかの金貨と銀貨がエルドワに渡される。エルドワはその半分をお駄賃として僕にくれた。
「納品はどうすればいい?」
「いつものとこにおいとってくれ。あとから回収するけん」
「わかった」
話が済むとそこでモイチーとは別れることになった。
「買いもんでもするか!」
そう言って工業地帯から商業地帯にくエルドワについていきいろんな商品を見て回る。人間の商店は見ないようなもの珍しいものがいくつもあったが、やはり気になるのは魔道具やマジックアイテム、魔導書などそっち系のものに目がいった。
「高い・・・・・・」
どうしようのことではあるが全てが高い。生産地であるドワーフの街なのでかなりお安くなっているのではないかと期待したがそこまでではなかった。
最低でも10金貨は必要だ。
10金貨もあれば1年は何もせずに暮らしていける。
大金である。
大金ではあるがギリギリ買えないこともない。というか買える。買わなければならない。ドワーフ製の物は全てにおいて品質が良いとされているしどこの世界でも重宝される。最悪売ることになってもその信頼度からなかなかの値段で売ることもできるだろう。まあ食うものに困っても友達を売るような真似は絶対にしないが。
どれを買うべきか悩みすぎて頭から煙が出始めたころ、冷やすためにエルドワの方を見ると色々なものを買っているのがわかった。その中でも目を引いたのが小刀などのナイフ類だ。
躊躇せずに買っているところを見るにお金には困っていないのだろうなと思いつつ疑問をぶつけてみる。
「ナイフだったら自分で作ればいいんじゃないですか?」
「いやあこれは人にあげるようやけん、ブランドのロゴがあった方がいいんよね」
「そんなものですか」
「そんなもん。ウィズは何か買った?」
「全部買いたいですけどお金がないし、何がいいかわからないんですよ」
「ああそれわかるわ。まあでも王道系でいんじゃね?ナイフとかアクセサリー系とか。ほらあれとかどうよ。綺麗だし」
エルドワが指差す方を見るとそこには綺麗な緑色に輝くペンダントがあった。
「入ってる魔法は中級のヒールだな。1日3回まで使用できる。確かウィズは回復系の魔法は初級までだろ?こういう魔道具はいざって時に使えるぞ、魔力も必要ないし」
新緑のペンダント、12金貨高い・・・・が不思議と心が惹かれた。
「先輩の色だ」
先輩の色。人は見るだけで不気味だという目の色。そんな先輩の目の色に似ていた。
ふと不機嫌そうな先輩の顔が思い浮かぶ。
初の仕事祝いということで先輩にお礼でもするのはどうだろうか。
先輩は荒っぽいことが好きでよく怪我をするし、ちょうどいい。
店主のドワーフが何をいっているのかよくわからなかったのでエルドワに仲介してもらいながらペンダントを買うことに成功した。
先輩、喜ぶといいな。
大切にポーチにしまいながら帰り道を歩く。
そのまま拠点に直帰するのかと思っていたがもう一箇所よりたい場所があるらしい。
エルドワが髪の毛を小刀で少し切り取り手のひらに魔力を込め始める。
「妖精:フェアリーロード」
手のひらにある髪の毛をパラパラと落とすと地面に落ちることなく空中で円を描き始める。徐々にその円が広がっていき、手のひらにあった髪の毛がすべてなくなる頃には大人が通れる黄金の道ができていた。ドワーフや僕であれば難なく通ることができるがエルドワには小さいらしく、腰をかがめながら円の中へと入っていく。続いてその中に入ると1mほど先に自然光が出口を照らしていた。緊張しながらも穴から出るとそこにはドワーフの地下世界に広がる人工街とは打って変わって大木がそびえ立つ大自然の森が広がっていた。
村にいた頃森ではよく遊んだが、その雰囲気とはまるで違う自分が矮小であるような気圧されるようような空気が漂っていた。まず生き物の気配がしない。いや生き物の気配はする。人間社会で共に暮らしているような家畜や動物たちの気配がしないのだ。木は大きく育ち、流れる水も綺麗だが、その綺麗さゆえに弱き物の存在を許していないというような感じがする。
「ここって入って大丈夫なところなんですかね?」
「うーん、久しぶりに人間が入ってきたから向こうが警戒しとるんかもしれん」
「僕が入っちゃまずかったんですか!?」
「いや大丈夫大丈夫。なんかあったら俺が守るけん」
なんかあるのか!?
買い物ついでみたいな感覚だったので気軽にきてしまったが実は人間お断りみたいな場所だったのだろうか。最近は異種族間で親交が深まってきているとはいっても戦争状態の場所というのは普通にある。このまま生きて帰ることができないのか。
これからのことに怯え震えていると後の茂みからガサガサという音がなる。
ビクッと反応し後を振り返るとそこには黒い影がいた。
「エルドワ様お待ちしておりました」
「クロエ久しぶり〜。元気しとった?」
こちらを待っていたという影が少しずつこちらに近づくとその正体がわかった。
ダークエルフだ。
深い森に住み闇をかけるとされるダークエルフ。顔や手など皮膚の出る部位を大半隠しているが漏れ出た褐色肌と赤色の目が正体を表していた。
「長老が首を長くしてお待ちです。早速きていただけますか?」
「おっけー」
流石にその気軽さにはついていけずエルドワに命は危険はないのかと尋ねると
「ダークエルフは人間とも仲良いし大丈夫。やばいのは他のやつ」
納得はできないがこんなところで1人待っているわけにもいかないので渋々ダークエルフの村へとついていくことになった。
「「おかえりなさいませエルドワ様」」
村のあちこちからダークエルフが顔出し来訪者に歓迎の挨拶をする。
おそらく村のほぼすべてのダークエルフが顔を出し、エルドワ周りへと群がり
あれこれ聞いたことのない言語で話しかけている。エルドワがバックを指差し何かを説明しているのをダークエルフたちはとても嬉しそうな顔で聞いていおり、その顔を見てエルドワも嬉しそうな表情をしていた。
挨拶もそこそこにクロエと呼ばれたダークエルフが長老の家へと案内をする。
長老と聞いたのでさぞかし大きな家なのかと思ったが大きさは他の家とは変わらなかった。
ドアにかかっていた暖簾を上げるとそこにはタバコを呑みあぐらを書いている老人がいた。老人ゆえにか目がほとんど閉じかかっていたがエルドワの姿を見るなり大きく見開き何かを言い始めたが相変わらず何をいってるのか聞き取ることができない。エルドワがわかっているようなのでとりあえずわかっているふりをしていたが近くにいたクロエが察したのか翻訳をしてくれた。
「久しいね。エルドワよ。元気にしておったか?何か困ったことはないか?」
「大丈夫だよじじ。そっちこそ元気にしてた?」
「おう。元気にしてたよ」
「ならよかった。そういえばじじにお土産買ってきたよ」
「気を使わなくてもよかったのに。でもありがたくいただくよ。村のみんなが喜ぶからね」
エルドワはバックを下ろしその中から先ほどドワーフの村で買っていた小刀や雑貨をクロエに渡していく。クロエは受け取ると早速村の人たちに見せに行った。
クロエがいなくなったのでまた何をいっているのかわからなくなってしまったがエルドワがこちらをしきりにさしながら何かを喋っているので紹介をしてくれていることがわかった。タイミング自体はわからないのでとりあえず何度か会釈をする。種族ごとで作法などが違いもしかしたら気分を害してしまうかもしれないと思ったが長老も微笑みながらこちらに会釈をしてくれたのでどうやら好意は伝わったらしい。
その後も2人は何かを話し続け自分のいる場所に困っていた時、
外から悲鳴が聞こえた。
弾かれたようにエルドワと外に出ると、先ほどは何もなかった平面の場所に木が生えておりその下にクロエが倒れていた。
突然木が成長したのだろうか?異様な光景に目を奪われていると木の上からこちらを
刺すような声がした。
「帰ってきたのなら挨拶をしなさい。バカ石」
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