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栄養と水分が不足した
幾重にも積み上げてきた失態から学習している
掘り進めた穴がやや離れた場所に捨て去られた白黒のボールほどの大きさまで広がったあたりで、
どれだけの時間がかかろうと、決して力任せにショベルを操ってはならないことを、
ざくり、ざくりと金属の刃先が土を穿つ音だけが、一定の間隔で鳴り続ける。他に聴こえる物音といえば、時折思い出したかのように吹き抜ける風音と、俯く
そうして掘り続けて、ようやく大人ひとりが収まるほどの大きさの穴ができあがった。長らく丸めていた背を
汗で湿った額をワイシャツの袖でぬぐい、背後を振り返る。視線を向けた先には頭部に
疲労の蓄積された全身を引き摺るように動かして、
足元の死体は、おそらく絶命からさほど経っていない。最長でも三日といったところだろう。ところどころ皮膚が裂かれて肉が崩れていたり、その奥に守られた骨が顔を覗かせているのはあくまで損傷が激しいからにすぎない。遭遇した相手が運悪く弱者を
少しでも力加減を誤ればあらぬ方向に進み、そのたびに向きを整えては動かして、目的地に到着する頃には死体の欠損箇所が増えているという有様。
教えに従い決して死体には触れずに、ショベルの面を駆使して墓穴までの直線を進める。体の前面、背面、一周して再び天を仰いだ前面は衣服に染み込んだ血潮の上から砂埃でさらに
充分な栄養が摂れないこの地に生きる人々は総じて痩せ細った貧弱な体型をしているけれど、それでも意識がない大の人間ひとりをショベル一本で動かすのは相当な
急
一度死体があった地点を振り返って残っているものがないか確認してから、墓穴の傍らに積み上げていた土の山を上から掬ってもとの形に戻していく。
最後のひと掬いをかけて、仕上げとばかりにショベルで地面を叩いて
その場から立ち去る前に、
亡き人の生前を
一呼吸ぶんの短い弔いから、瞼を押し上げて平常へと戻る。ふと強く吹きつけた風が高い位置で結わえた長髪を翻して、首筋に触れた毛先が肌膚をくすぐった。
やるべきことが終わった今、この公園に居座る理由はなくなった。一瞬ののちに思考を巡らせ、もう少し遠くにでも行ってみるかと新たな目標を心の内に掲げて爪先の向きを傾けようとした、その時。
ざり、と砂を踏み締める音が背後で鳴った。
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