35話 前哨戦⑥
全員が近接戦を得意としているためか、乱戦は外から見てかなりぐちゃぐちゃしている状況になっている。
「いまいち誰が勝ってるのかわからない...」
「試合は今のところほぼ互角だね。誰が勝ってもおかしくない」
「へぇ~」
乱戦で暴れている湊をよそに2人は試合を見ながら言葉を交わす。そんな2人の目線の先には刀を振り回しながらステージを駆け巡っている湊の姿があった。
◆
「おらよッ」
刀を振り回しながらステージをさっきから駆け巡っているわけだが、さっきからまだ誰も倒れることがなく試合は進行し続けている。
(そろそろ試合が動いてくれたらうれしいんだけどなぁ)
なんて考えながら自分がいつ魔法というカードを切るか迷っている。おそらく今のこの近接戦がずっと続いている状況が続くのならば誰かが打開を仕掛けてくるだろう。そうお互いが考えているせいなのか俺含めた4人は誰1人として先手を切ってこない。
おそらくこの状況で打開を仕掛けるなら魔法での攻撃が最適なのだろう。適度に敵が固まりつつある状況で魔法で範囲攻撃を仕掛けようものなら一撃で勝負が決まる。ただもし魔法で攻撃を仕掛けようものなら魔法の発動前の動作で必ず隙が生まれ、ほか3人から袋叩きに遭うという未来が100%訪れるのが安易に想像できる。
特に範囲攻撃として優秀な炎系や水系、大地系の魔法を使えない俺にとって魔法というカードをここで使うというのはほぼ負け確のギャンブルに挑むのと等しい。無属性魔法は基本的に1vs1で使ったほうがいい。そもそも他の属性魔法と比べて無属性魔法は幾段か劣るというのが最近の通説だ。俺は信じてないけどね。
乱戦で無属性魔法が使えないというのはある程度分かる。無属性魔法といってもできることと言ったらビームを出したりシールドを作ったりすることしかできない。
そのほかにできることといえば空気中に魔素を放出したり逆に魔素を吸収することぐらいしかできない。これに関しても魔素は基本的に魔力に変換したりだとか魔法に使うことはできないため、ただただ無駄である。
(それはそうとしてこのままだと何も動けないから何かアクションをするしかないんだろうな)
そういうわけで無属性魔法を今使うのは得策ではない。ならばどうするか。
答えは簡単、回復魔法を頼りにある程度捨て身の攻撃を繰り出しに行くしかない。まあ生えてくるのならば腕の1本や2本ぐらいは必要経費として考えるのが妥当だろう。
思い立ったが吉日、作戦は早めに実行すればするほどいい。例外はあるけどね。
というわけで
「おらっ.................いてぇ」
左腕を犠牲にして無理矢理相手の間合いに入ってみたけど普通にいてぇ。悶絶しそう。
よくよく考えたら麻酔もしてないのに腕を犠牲にしたりするとか頭おかしいわ。こんなことができるのは漫画とかのフィクションだけらしい。仮想ステージなんだから痛覚オフとかの設定にしろよなんて思いながら左腕を再生。さて、ここからどうするか...
普通ならこんな痛い思いをしたらこの作戦はやめようって考えるのだろうけど、今の俺はなんかさっきの負傷でアドレナリン?的なやつがドパドパ出てるらしくてなんか普通の思考回路じゃなくなっているみたいだ。
「これ何回やったら慣れるかな...」
なんて考えならもう一回敵の懐に飛び込む。
「うぐっ.......いでぇ」
今度は左腕+腹を胴体を切られた。だけど今度は相手にもちゃんと傷をつけることができた。この調子でやっていけば何とかなりそう。腕をまた再生しながらそう考えていると
、
「うがっ……」
今度は右脚に激痛が走る。どうやら足を切られたみたいだ。
「あ~もう」
とりあえず再生。そしてまた敵の間合いに飛び込む。今度は右脚を切られた。
「いってぇなこの野郎」
そして今度は右肩に痛みが走る。どうやら肩を刺されたみたいだ。
「ぐふっ……いってぇ」
すかさず再生。再生。そしてまた再生。そんなこんなで戦いっているうちになぜか痛みに対する耐性がついてきたっぽい。まあもしかしたら度重なる負傷でアドレナリンドバドバ祭りの可能性もあるけどこの際どうでもいい。
こうなったらあとはどうとでもなる。ひたすら乱戦の中を駆け巡って敵の間合いに入り込み体中に傷を受けながら攻撃撃を続ける。
「おらっ」
「がっ……ていっ」
「ぐはっ……」
そしてついに傷の量に差が出てきた。俺は傷できてもすぐに回復できるけど他のやつらはそれができない。だから必然的に俺よりも傷の量が増え始める。
「おらっ……ぐふっ……」
「ぐっ……かはっ」
そうこうしているうちに俺が優勢になり始めた。このままいけば勝てるだろうという自信だけはある。
そんな時だった、
ゾクッ
全身に毛虫が張っているような感覚。こういう時は防御しないとヤバい。具体的にどのくらいやばいかっていうと普段怒らない人の目からハイライトがなくなるぐらいヤバい。
本能のままに背中にシールドを張ると直後、背中に若干の衝撃を感じる。それと熱い。多分炎系の魔法だろう。
「チッ」
急にそんな声が聞こえ、振り向くと相手はすでに2撃目を放つ準備を終えてるようだ。炎の槍が空中に生成され直後俺めがけて飛んでくる。
「俺以外を狙えよ」
なんて愚痴りながら2撃目もシールドでカバーしながら敵めがけて一直線。そして相手がシールドを張る前にそのまま首を掻っ切る。
残る敵は3人になった。
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