36話 前哨戦⑦

一人目の首を搔っ切った後、残りの3人とは相変わらず乱戦状態。ただ少し変わったのはさっきよりも距離をとっていること。そして所々魔法を放ってきたりこなかったりなかったり。


そういう俺はというと無属性魔法というカードは残しておきたいのでシールドと刀で乱戦に参加する。魔法が使えない分、さっきよりもかなり不利な状況。逆に言えば彼ら3人が魔法でお互いに消耗してもらうのが俺にとって一番いいパターンだ。


「そうなれば俺はおとなしくしてようかな」


さっきまでステージを走り回っていたのと打って変わって今度はあまり動かずにシールドで防御、割と消極的に立ち回る。


今の状況は魔法攻撃3割、物理攻撃7割の状況。物理攻撃のほうが割合が多い理由はたぶん俺が刀で暴れていたから。もし俺が消極的になったら魔法攻撃の割合が増えるだろう。そうなれば相手がお互いに消耗してくれる。もしかしたらそのまま脱落者が出るかもしれない。そうなれば最高の展開だ。この試合の勝利条件は倒した敵の数ではなく最後まで生き残ることだからな。





試合は俺的には最高の展開。3人は物理攻撃から魔法攻撃に移り変わって仮想ステージでは視聴者が大好きな派手な魔法戦が繰り広げられている。ちなみに俺はというとステージの隅っこでシールド広げて退屈してますと。


「つまんねぇ」


魔法戦が激化して以降3人の消耗度合いが激しくなってきている。それ自体はうれしいことなのだがデメリットとして自分がメッチャつまらない。ダンジョン内での実践ならともかくこういう試合は真剣というよりもどっちかっていうと楽しさを選んでしまう人間がゆえにかなり怠い。


「だりぃ」


偶に自分に狙ってくる魔法をシールドを防御しつつそのまま至近距離で魔法戦を観戦している。自分もこういう魔法の才能が有ったら実際めちゃくちゃ楽しみながら参戦していたんだろうななんて考えながら魔法を観察。


「やっぱり炎が一番人気なんだろうなぁ」


なんて考えている。実際俺も魔法が使えるなら炎の魔法が使いたい。高火力、広範囲と使い勝手がほかの魔法よりもよっぽどいい。


そうこうしているうちに3人のうちの1人が魔法戦から脱落しようとしている。こういう魔法戦は単純な魔力量と魔法の技量がすべてとされている。だからこういう脱落者が多い。逆に物理攻撃などの肉弾戦はブラフや小ネタなどで格上相手でもなんとかなるから個人的に好き。やっぱ大番狂わせとかがあったほうがおもろいじゃん。


それよりも今は脱落者をどうするか。このままだと三つ巴の魔法戦に擦りつぶされてゲームオーバーなんだけどどうせならこの魔法の嵐の中に突っ込んで見るのもありかななんて思っている。


「よし」


思い立ったらすぐ行動。炎の魔法を避けつつ3人の中に突っ込む。もちろん炎の魔法でシールドがいっぱいいっぱいになるんだけどなんとか体をねじ込むようにして中に入ることに成功!そのまま脱落しそうな1人に刀を振りかざす。


「クソッ」


と吐き捨ていると相手はステージから脱落した。

というわけで残る相手は2人。だけれど残る2人はまだ余力がある。何なら俺が1人のとどめを刺してくれてラッキーなんて考えているだろう。


(どっちから殺そうかな)


おそらくここに立っている3人が考えているだろう。当然俺もそう考えている。個人的には魔法の横やりがめんどくさいから3人の三つ巴が俺的には簡単だけど、一番楽しそうなのは魔法組と俺の2対1だろう。


なんて考えていると魔法が飛んできた。


「あっぶねぇ」


さすがに避けないと普通に大ダメージ確定である。何とか避けて、余裕こいてたら火だるまになって脱落確定なのでここは真剣にやっていこう。

まず片方が放ってきた魔法をシールドでいなす。そのまま近接戦に仕掛けれらたらいいななんて思いながらもう片方めがけて全力ダッシュ。


そのまま魔法戦からまた近接戦に戻る。とはいっても多分相手はこのまま魔法を多用した近接戦を仕掛けてくるだろう。なんだっけ?確か『魔法使いが近接戦を仕掛け垂れた時の対処法』っていう論文に書かれていたような気がする。俺も昔に何回か読んだことがある気がする。あの論文誰が書いたんだろう。戦闘に関する論文って実戦で糞の役にも立たないものが多いんだけどあの論文は割と役に立つような内容だったような気がする。

確か魔法使いが距離を詰められた際は相打ち覚悟の範囲攻撃か、攻撃魔法を至近距離で仕掛けて相手に攻撃+衝撃で距離を取るの2択をやるべきって感じの内容だったような気がする。


この戦いがバトルロワイアルであることを加味するとやっぱり攻撃魔法を至近距離でブッパだろう。


「ほらねっ」


やっぱり炎の弾が至近距離で炸裂。

そしてそのまま思いっきり後方に吹き飛ぶ。それでも俺がやることはただ1つ。


「このまま押し切る」


2対1の厳しい状況、相手は魔法持ち。

状況は完全に逆境って感じだ。この状況で燃えるわけがない。というか燃えるってどんな感情なんじゃろな。どっちかっていうと俺にとっちゃこの状況は楽しいって方が感情表現的にはあっているような気がする。


まあそれはそうと今度は同じ手は食らわない。ひとまず片方には黙ってもらっておこう。自分の持っている武器を投げて相手をひるませる。そのままもう片方にまたダッシュ。今度は丸腰だけれど大丈夫。最後に信じるは己の肉体のみって誰かが言っていたような気がするしね。というわけで今度は相手めがけてパンチ!


片方を吹っ飛ばした瞬間、俺が武器を投げた方が俺に魔法を放ってきた。ひとまず魔法はシールドで防御。


この状況。片方は俺に殴られたせいで吹っ飛ばされている。そしてもう片方は俺がもう武器を持っていないと思っている。

これって俺が魔法を放つ絶好のチャンスなんじゃない?

どうせ相手は俺が魔法を使わないタイプの人間だと思っている。今なら無属性魔法がきっちり刺さる。

ならやるべきだろ。どうせここで魔法を隠したまま優勝しても過去のログを調べられて俺が無属性魔法を使うことがばれる。それなら今ここで魔法を放つべきなのでは?


考えてる暇はない。どうせやるならやってしまおう。


「バンッ」


無属性魔法でできる攻撃はビームだけ。シールドを展開されてしまえば言わずもがなガードされてしまう。だけど相手は俺が魔法を放つなんて万が一にも思っていないだろう。


試合は決着した。2人の胴体はビームで貫通し、ステージに残っているのは俺一人。

これで見事、コロッセオへの切符はゲットできた。




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