34話 前哨戦⑤
あれよあれよと決勝戦。
というわけで新たな武器とともに仮想ステージに降り立った俺だが、流石は予選を突破してきた猛者たち。気迫がそこらの冒険者と比べて全然違う。
まあ、だから何だって話なんだけどね。
左手で片側のナイフを持って右手は紐を握る。そしてそのまま紐をクルクル回して戦闘の準備をする。思ったよりも手に馴染む。もし全然使えないならどうしようかと思っていたがそういう心配はしなくてもよさそうだ。
「フーッ」
と息を吐いて目を閉じる。耳からはひもがブンブン回る音が聞こえてくる。
そしてついに
『決勝戦スタートです』
というアナウンスが耳に入ってくる。
それと同時に目を開けて敵に向けてナイフを投擲、右手に持っていて紐を手放してナイフは勢いよく飛んでいく。だけど普通に躱された。
だけどナイフには紐が繋がっている。
そのまま手元で紐を操りながらナイフを躱した相手の脇腹を狙う。
まあだけどやっぱり当たらない。当然っちゃ当然なんだけどね。基本的にリーチが長い武器ほど精度が落ちてしまう。逆に初見でよくここまで操れてるなって思ってるよ。
でも今のままだと負けちゃう。遠心力だけだと威力が全然でないし何より物理に縛られるから相手も俺のナイフの軌道を予測しちゃう。
だからここで紐の隠された能力を使う。実はこの紐に魔力を込めると自由自在に操ることができるんだよね。
これである程度の不利はカバーできる。ただ問題なのはこの能力を発動するタイミングだ。今この瞬間に発動しても相手はたぶん躱すだろう。俺がこの能力を発動するタイミングは相手がこの紐には小細工がないと確信する瞬間。
つまり最低でも最初の1人はこの能力を発動しないで倒さないといけないというわけだ。わりと無理ゲーだね。
そんなこんなで飛んでくる敵の攻撃を躱しながら紐とナイフでちょっかいを欠けていると痺れを切らした敵さんが俺との距離を詰めてきた。
「来たか」
敵が距離を詰めると同時に紐をくいッと引っ張る。当然そうすればナイフは自分のほうに帰ってくるんだけどナイフと自分の間に障害物、例えば俺めがけて突っ込んでくる敵とかがいたらどうなると思う?
A. 敵の後頭部にナイフが直撃
能力はまだ使えないから刃を直接当てることはできないけどナイフの柄で打撃を入れることができる。それだけでも十分なくらい隙が生まれる。
後頭部にナイフが直撃して視界が一瞬外れた隙に左手に持ってるナイフを投げる。
さすがにこれは避けれないだろってわけで、案の定腹にナイフが突き刺さった。
「あれ?頭を狙ったつもりなんだけどな...」
まだ使い始めて間もない武器であることに加えて利き手じゃなかったことも相まってどうやら狙いが若干ずれたらしい。それでも敵に攻撃が決まった。これだけで成果は十分だ。だけど次は外さない。
腹に刺さったナイフを抜いて次の一手を繰り出す。今度は大鎌のようにナイフを弧を描くように振り回す。腹の激痛に加えてあの出血量だ。立っているだけでも奇跡といえよう。
当然、次は外さないと言ったからにはちゃんと一撃で決める。弧を描いたナイフは敵の首元に飛んでいきそのまま一撃で喉を割いていった。
「まずは一人」
敵を倒したら後、あたりを見回す。当然俺たちが戦っている間にもほかの奴らも戦っているわけだからスタート時と比べてかなり戦況は変わっている。
(俺が倒したの含めて3人落ちてる)
試合の状況は1vs1を終えた俺ともう一人、三つ巴の勝負に勝った一人、三つ巴から1vs1になった二人の合計5人だ。
(となると俺たちが狙うのは1vs1を続けているとこだな)
そう考えたのは周りも同じなのか俺含めた3人が一斉に1vs1に乱入してくる。試合は五つ巴の乱戦へと変化していく。
(乱戦だとこれはあまり使えないな)
手元に残っている縄鏢はあまり乱戦に向いていない。おそらくこの乱戦で優勝者が決まるから出し惜しみはしないほうがいいだろう。
今自分が持っているカードは物理無視の紐と刀、それと無属性魔法、ついでに回復魔法の4つだ。回復魔法がある分俺はある程度アグレッシブに戦いを進めることができる。それにイタリアに来てから俺はまだ無属性魔法を1度も使っていない。日本の大会のログを見られているのなら話は別だが、おそらく4人の中に俺が無属性魔法を使うという選択肢は消えているだろう。なんせさっきからずっと近接戦で戦ってきたわけだからな。
無属性魔法はコロッセオ本番まで取っておきたかったのだが、ここで負けては元も子もない。この瞬間に持っているカードをすべて切ろう。
それでコロッセオ本番にまずいことになったらその時はその時でまた策を練れば大丈夫だろう。たぶん...
「よし、やるか」
五つ巴の膠着状態からまず最初に俺がナイフを投げる。それを待ってましたと言わんばかりに残りの4人が反応して一斉に乱戦がスタートする。
乱戦がスタートしたこの瞬間、俺含めて5人はお互いの動き出しに全神経を集中させている。言い換えれば動き出しがもう終わった俺の警戒度は一番小さい。
それを逆手にとって紐に魔力を込める。本来の物理法則なら曲がることのない角度でナイフが飛んでいき1人の顔面に刃が突き刺さった。
残りの3人は一瞬驚いたがすぐに状況を理解してそのまま乱戦を続行。最初のカードを切り終わった俺は紐ごとナイフを相手めがけて投げる。
足を絡ませるように投げた紐は相手の足元へ行き魔法によって俺の思い通りの動きをする紐は一人の敵の足へと絡まっていった。
だが相手はすぐに対応して炎の魔法で紐を焼き切る。斬撃などの攻撃からはある程度耐えられる紐だがさすがに魔法、それも炎の魔法には耐えることができない。
紐はすぐに焼き切れて試合はそのまま続行。そして俺は武器を縄鏢から刀へ変えて乱戦の中に突入していく。
さあ、最終局面だ。いつどこで無属性魔法を使うか考えながら俺は3人と刃を交わした。
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