11話 桜杯 第2回戦と第3回戦
試合開始とともに浅野が手に炎を纏わせ突っ込んでくる。彼の戦闘スタイルは格闘家。またの名を脳筋スタイル。その名の通り拳で攻撃し、拳で防御する。格闘家スタイルのメリットは2つある。1つ目は自身の魔力のすべてを攻撃に使えるというものだ。魔法というのは単純に見えて意外と複雑だ。目標に到達するまでに暴発しないようにする外殻、目標に到達した際に発動する内核、そして目標に到達するのに必要な推進剤。この3つを魔法使いは日常的にブレンドして使っている。しかし彼のように体に魔法をまとわせるタイプは外殻と推進剤を必要としない。つまり自身のすべての魔力を威力を担当する内核に回すことができる。
さらに体に魔法をかけることで手足に炎を出すほかに、特典として基礎体力や反射神経の向上がついてくる。まさに一石二鳥だ。
だがもちろん欠点もある。彼のように炎を纏わせる場合、万が一にも魔力を暴走させてはいけない。もし魔力を暴走させようなら一瞬で全身が黒こげになる。
(だけど…結構冷静だな)
彼は魔力を暴走しないように冷静になりながらなおかつ荒々しい攻撃をしている。俺にとって一番厄介な相手、すなわち格闘家としては一番正しいということだ。
「あらよっと」
さすがに彼の拳を避けるだけではダメだ。ジリ貧になってしまう。否が応でも反撃せざるを得ない。試合のペースは彼が持っている。ならばどうするか…
「おらよっ!」
「投げた⁉」
当然、攻撃パターンを増やす。だが彼も彼で投げた刀を拳でいなす。これで俺が持っている武器は刀一振りのみ。これでもう刀を投げることはできない…
なんてね。
「もう一丁!」
「クソッ」
今度はちゃんとダメージがある。さすがに俺が丸腰になるのは想定外だったらしい。左手から一瞬血が滴るが、すぐに止血された。
「なるほど。炎で傷を焼いたのか」
「これでとどめだ!」
彼が俺に向かって突っ込んでくる。だが彼は一つ勘違いをしているらしい。
「いつから俺が格闘技を使えないと錯覚していた?」
「何っ⁉」
突っ込んできた彼に一発入れると彼は5メートルほど吹っ飛んだ。だがすぐに立ち上がる。
「剣士じゃないのか」
「オールラウンダーなもんでね。今から君の一番得意なもので倒させてもらうよ」
手と足にシールドを展開する。本来なら攻撃性がないシールドを使っても意味がないが俺にはこれしかない。なんせ無属性の魔法しか使えないもんでね。だけどこれでいい。
彼が纏わせている炎に触れなければいいいのだ。だからこれだけで十分。
「おい、かかってこいや」
「ふざけんな!」
こうして打撃戦が始まった。
◆
「おらよっ」
「チッ」
試合は五分五分の状態、いや魔法の消費が激しくない俺のほうが若干有利だ。彼は戦闘開始からずっと魔法を消費しっぱなしだからね。まあこれが格闘家の弱点でもあるのだが…
「さっきから辛そうだけ大丈夫?」
「黙れっ」
魔力消費が激しく、魔法を発動することすら苦になってきたのによくやるよ。でももう彼に戦う余力はないらしい。
「じゃあ終わりにするね」
疲れ切った彼の腹に1発入れると彼は吹っ飛んでいった。だがまだ立ち上がる。
「あれ?決まったと思ったんだけどな」
「あいにく師匠に普段からボコられてるもんでね」
まあだから何だって話なんだけど。もう1発入れとけばおとなしくなるかな?
「オラッ」
「捕まえた」
あっ、これはちょっとまずいかも。
魔力をわざと暴走させて相打ちを狙う。暴走し体内に収まりきらない魔力は周囲に放出され、俺含め2人は火だるまになった。
◆
「で、なんで相打ちになってないんすか?」
「経験の差かなぁ」
試合を終えてメディカル室で俺は試合相手の浅間くんと話をしている。基本的にこういうのって試合の恨みとか言われることが多いんだけど彼は
「もう終わったことなんで。いつまでも引きずってられないですし、次の試合でお返ししますよ」
とのことだ。なんか戦い方だけじゃなくて心も格闘家っぽいなって思った。
「でも同じ土俵に立った上で負けたのはちょっと悔しいです。結構肉弾戦には自信があったんだけどなぁ」
「まあいつか俺を超えると思うよ。現に君の師匠には勝てないしね」
「引き合いに俺の師匠を出してる時点で普通に頭おかしいっすよ」
「まあまあ、次の試合でリベンジ待ってるから。」
「うっす。楽しみに待っててください」
普通に好青年なんだよなぁ。そんな風なことを考えながらメディカル室にあるモニターを見ていた。モニターの先では2人の魔術師の壮絶な魔法戦が繰り広げられていた。第3試合、五月雨灯vs海原碧生。この世で魔術師と呼ばれる数少ない人間だ。
◆
『ブライニクル』
『アステロイド』
渦を巻いた水の弾丸が岩の弾丸とぶつかる。直後にお互いの弾丸は相殺される。岩の弾丸は崩れ、水の弾丸は氷となり崩れる。
「やってることえげつな」
メディカル室で試合を観戦している俺はそうつぶやくしかない。
「ブライニクルもアステロイドも結構難しい魔法のはずなんだけねぇ」
過冷却水を生成し相手に飛ばす『ブライニクル』、体力の岩を生成し相手に飛ばす魔法『アステロイド』。扱える人間は世界に多分100人もいないだろう。
というか大前提としてなんであいつら空飛んでるの?普通に意味わかんないんだけど。魔法って不思議だね。俺はああいう魔法を使えないからわからないけど多分実況の盛り上がりを見るにすごいことなんだと思う。
『爆炎』
『ウォーターフォール』
今度は火と水が相殺しあってるよ。意味が分からん。火と水って相殺するもんなの?
「魔術師ね」
さすがは魔術師と呼ばれる2人である。これを見たら魔術師と呼ばれる人間が少ない理由がわかる。こんなことができる人間がこの世にたくさんいるわけがない。居てたまるか。
もしこいつらがうじゃうじゃいる世の中になったらそれはもう世紀末だろう。そう断言できる。
「あれ?お前まだここにいたんだ」
「綾人か。どうしたん?」
「生で見に行かないのか」
「うーん。もう始まっちゃってるし別に生で見なくてもいいや」
「それもそうか」
「それよりも大丈夫か?」
「何がだよ」
「お前の次の対戦相手、この試合の勝ったほうだぞ」
「…まじ?」
「マジ」
「なんだよそれ、最高じゃん」
「うわーバトルジャンキーだねぇ。でどうやって戦うよ?」
「秘密♡」
「うわきめぇ。」
次の試合のことを考えながら彼らの魔法戦を見る。いいなぁ、俺も魔法が使いたいわ。まあ使えないわけじゃあないんだけどね。でもどうしても思ってしまう。俺に魔法の才があったらどれだけよかったか。
「まあ、たらればを考えても仕方がないな」
今自分が持ってるカードで勝負するしかない。
「なあ」
「何?」
「一応言っておくぞ。勝てよ」
「誰に言ってるんだよ」
モニターを見ながらそう答える。この時、俺はどんな顔をしてたのだろうか。少なくとも口角はあがっていたことだろう
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