7話 スタンピードからの救助と特例

スタンピード

ダンジョン内でのモンスターが異常発生する現象のこと。詳しい原因などは不明で現在も研究、解析が進んでいる。



『スタンピードはあまり脅威ではない』これが世間一般の常識だ。でもそれはダンジョンの外だからいえること。もし俺たちのようにダンジョン内にいる状態でスタンピードに遭遇してしまったらそれは大きな脅威になる。


「急いで上まで上がるぞ!」


「「「了解」」」


チームの男子がそう叫ぶと俺たちは一斉に上を目指す。道中いる仲間たちにも声を掛け合い、協力して上へ目指して走る。こればかりはどうしようもない。ただひたすらに逃げるという選択肢をとるしかない。

ただひたすらに走る。それが最適解なのだ。





上に登り切り、ダンジョンの外に出るとすでに避難した他のチームであふれていた。職員はダンジョンから上がってきた受験者の点呼のためにせわしなく動いていた。だが次の瞬間一番起こってほしくなかった事態に陥る。


「1チーム足りない」


ある職員がそうつぶやくとあたりが騒然する。おそらく俺たちがいた場所よりもさらに深い場所にいたのだろう。ダンジョン内でスタンピードに遭遇して生き残る確率はほぼない。ましてや初心者になればなおさらだ。ダンジョン内にあふれたモンスターによって圧死するからだ。ならどうすれば助けることができるのか。


「なら俺が救出しに行きますよ」


答えは簡単、スタンピードの中を切り裂いて救出すればいい。簡単な話だ。まあいうだけなら簡単だけど実際やってみると普通に難しい。というか救出しに行った人間が道連れになるなんて事案はざらにある。当然職員たちは止めるだろう。


「許可できない。君たちはここに待機していてくれ」


「ダンジョン法では華族はダンジョン内で起きたありとあらゆる問題に解決するよう尽力しないといけないと書かれてますけど」


「それは…」


「俺も一応華族なんで行っちゃいますね」


「待ってくれ!」


こういう時に権力は便利だ。法律や身分を使って自由なことができる。というわけで職員の静止を振り切ってダンジョンに戻るわけ。


「さてと、頑張りますか」


2振りの刀を装備して俺は走り出す。





走り出して15分が経過したところ2層目の到達した。まだスタンピードはここまで登ってはいない。だが少しずつ確実に近づいているのは事実だ。


「何も考えるな」


そう自分に言い聞かせ3層目掛けて全力疾走。こうなるとなんでスタンピードに遭遇した人間がPTSDになるかがわかる。生きているかどうかわからない冒険者のためにひたすら走り続け、いつ自分がスタンピードに飲まれるかもわからない。正直言って結構怖い。


「でもワクワクしてる」


そんな恐怖以上に俺は今ワクワクしている。どこまで行っても俺は戦闘狂なのだと実感できる。





「そろそろかな」


2層目も終わり、3層目に入ったところで空気が一変した。殺気があふれている空気、そしてえダンジョンの壁や床が小刻みに震える。そろそろスタンピードに接触するという予兆だ。だが、臆することなく走る。

そして、


「きた!」


今、俺はスタンピードに飲み込まれた。強い衝撃を感じながらただがむしゃらに刀を振るう。そしてそのまま前進する。残った受験者を見落とさないように丁寧に周囲を確認しながら上に上るモンスターを殺す。


いないか?すでに死んだのか?


そんな不安が横切る中、奥のほうで声が聞こえた気がした。急いでモンスターを刈りながら向かうとそこにはシールドを展開している4人の受験者たちがいた。シールドを展開し続けて救助を待つという選択は正しい。


「動けるか?」


「ああ…助かった…」


シールドの中にいる受験者たちは肉体こそ疲弊やケガはないものの精神的に疲れていた。そりゃそうだ。いつ助けが来るかもわからず、ずっとシールドを張り続ける。軽い拷問のようなものだ。


「今から上に避難する。3秒数えたらシールドから出て全力疾走。いいな?」


「わかった」


「行くぞ。3,2,1…」


直後、前方で大きな爆発が起きる。モンスターを殺さないように威力を調節した爆弾だ。そうすれば足止めにすることができる。ただ足止めできるのは数秒間だけだ。すぐに後ろのモンスターが動かなくなったモンスターを押しのけて俺たちに襲ってくる。


「急げ!」


俺含め5人は全力疾走で入り口を目指す。途中、あらかじめ用意していた爆弾を爆破しながら逃げる。全力で走り、ついにダンジョンの入り口に戻ってこれた。

入り口で待機していたスタンピードを食い止める冒険者たちに保護されて俺たちは無事に戻ることができた。





ダンジョンの出口に戻るとそこには複数の職員がいた。それにダンジョン管理局の局長もだ。


「ご苦労。助かった」


筋骨隆々な大男がそういうと、後ろの秘書みたいな人が話を始めた。


「事情聴取がしたいので個室まで案内します。協力してくれますか?」


若干の圧をかけられながら彼女は俺に問いかける。もちろんYESと答えると俺はダンジョン管理局の一室に案内された。



「それでは今回の県の事情聴取の前に2ほどあなたに伝えないといけないことがあります」


そういって彼女は話を始めた。


「いい加減無謀なことはよしなさいっていつも言ってるでしょ?何回言えばいいのよ!」


「うるさいな。結果的に大丈夫だっただろ?」


「そういう問題じゃないの!」



何を隠そう彼女は俺の母の姉、すなわち俺の叔母だ。普段はダンジョン局長の秘書をしているらしい。ちなみに局長とは何がとは言わないができているらしい。


「俺普通に強いんだから大丈夫だって。おばさんは心配性だよ」


「お・ね・え・さ・ん、でしょ?」


「はいはい。で、用件は何?」


「スタンピードの時のダンジョンってどんな感じだった。」


さっきの和気あいあいの家族会談から一転仕事モードに入った叔母さんことお姉さんに今日あったことをすべて話す。スタンピード前はモンスターが極端にいなかったことやスタンピードと戦った時の感想などあるとあらゆるものを伝える。


「なるほどね。協力感謝するわ。何か質問ある?」


「冒険者試験ってどうなる?」


「もちろん中止するわ。後日もう一回受けることになるわよ」


終わった。これじゃあ大会出られない。これは詰んだかもしれない…


「あら、何かまずいことでもあるの?」


「実はかくかくしかじかで…」


「なるほどね。ちょっと掛け合ってみるわ」


そういって叔母はどこかに電話をかける。そして3分ほど話した後に俺にこう伝えてきた。


「スタンピードから受験者たちを救ったっていう功績を使って冒険者免許を特例で出してももらうことにしたわ」


「え?マジで言ってる?」


「ええ、マジよ」


さすがお姉さん、頼りになるなぁ。そんなわけで俺はぎりぎり大会にエントリーすることができた。締め切りまであと6時間と30分だった。


「じゃあ俺は寮に帰るから」


「気を付けて帰りなさい。たまには家に顔を出すのよ」


こうして俺は無事冒険者免許を獲得できた。やはり持つべきはコネだな。そう思いながら俺は帰路に就く。


余談と言っては何だが翌日、マスコミに


『間宮湊が特例で冒険者免許を獲得』


という情報だけ切り抜かれ、相変わらず俺は炎上した。

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