6話 サポート役とスタンピード発生
「全員集まったな。じゃあ各チームごとに試験を開始してくれ」
ダンジョン管理局の職員がそういうと集まった軽28人の男女がダンジョンに入っていく。俺もその中の1人なのだがどうにも気まずい。
こうなるならきちんと冒険者免許の更新をやっとけばよかった。
そんな風に考えていると早速目の前にスライムが現れた。今回の試験は各チームごとに指定されたモンスターを倒すことで合格が言い渡されるきわめてシンプルなものだ。ちなみに俺のチームが指定されたモンスターはスライム8体、ゴブリン6体、コボルト4体の合計18体だ。
早速出てきたスライムを4人で袋叩きにし、見事スライムを1体撃破した。撃破されたスライムは液体となって消え、その場に魔石だけが残った。
「これが魔石かー」
「加工前の魔石は初めて見たかも」
とまあ比較的平和にダンジョン攻略をしている。そもそも冒険者になる試験自体はそこまで難しいわけではない。そんなわけで他のチームと一緒にスライムをリンチにする。あるものは剣でスライムを切り、あるものは魔法の杖を使って撲殺している。そんな風にボコボコにされているわけだ。そんな風にスライムがいつもボコボコにされているせいでネットにはスライム虐待、略してスラ虐という言葉が誕生したぐらいだ。
「よっしゃ、これでラスト」
順調にスライムを狩っていた俺たちは開始15分でスライムを8体倒すことができた。
「じゃあ次はゴブリンか」
「ゴブリンは1層にはいないから2層目に行かないとな」
「じゃあちゃちゃっと降りちゃおっか」
スライムを倒した俺たちは次にゴブリンを倒すために2層目に降りる。ダンジョンは構造上、階層が下に下がるほど強いモンスターが現れるシステムになっている。そして第1層は基本的にスライムしか現れず、2層目から様々なモンスターが出現する。ちなみに第1層はスライムしか現れないのでチュートリアルと呼ばれている。
「じゃあ降りるか。ここからは気を引き締めていかないとな」
「おう、準備オーケーだよ」
「さっさと試験クリアして午後遊びに行こうぜ」
それはそうと俺を除いて仲良くなってくのやめてくれない?普通に悲しくなるから。
◆
ゴブリンは基本的に3人で行動する。普段は3人でダンジョン内を徘徊し、人や他のモンスター、さらにはゴブリンすら食べる雑食性を持っている。そんなゴブリンはダンジョン初心者にとってとてもいい練習相手だ。ある程度機敏に動き、同時に武器を使って戦う相手。何より、人間ほどではないが考えて動くという点が冒険者にとって格好の練習相手なのである。
まあ俺にとっては練習する相手ではなく虐殺できる相手なんだけどね。でも今回はこのチームのサポートに回る。まあ試験なんだしさすがに俺の一人無双はだめでしょ。そもそも冒険者免許の初交付と再取得の人を同じ試験で行っているからこんな風に再取得の人たちが手加減しなければいなくなるんだ。
「は~、いい加減そういうの対策してくれないかな」
ため息をしながら目の前のゴブリンの放った斬撃を防御しそのまま蹴り飛ばす。あれ?あれで死なないんだ。結構強めに蹴ったんだけどな。
「ねえ!いい加減あなたもまじめにやってくれない?」
ゴブリンの強度に感心していると後ろから同じチームになった女子からどやされる。
「俺が本気出したら試験の意味がないだろ」
「はぁ?じゃああなたは今回の試験をさぼって合格しようとしているわけ?」
「まあまあサキちゃん、落ち着いて」
隣にいる男子が止めに入る。気づけば俺たちはゴブリンを倒すことができたようだった。
「でも、さすがにさぼりすぎです。」
後ろで後衛をしていた女子も俺を批判する。言っていることは正しいんだけど今回ばかりは仕方ないんだよね。だって俺が1人で無双して試験合格は違うだろ。
「俺が1人で無双して合格しても意味ないでしょ」
「だからあなたはサボっていいと?」
「言っとくけど俺結構サポート役として頑張っているよ?」
「そのサポート役だって倒せる瞬間に見逃したりとかしてたでしょ」
「初心者でも倒せるなってタイミングなら倒してるよ。現にスライム3体とゴブリン1体は俺が倒しているわけだし」
「むぅ」
まあなんとなく不満なのはわかる。こっちは頑張って試験合格しようとしているのに、1人だけ試験をのらりくらり受けている奴がいるとか不満たらたらでしょ。まあ理屈はわかるんだけどね。それとあと俺がもともと嫌われているのが何割か原因としてあると思う。
「手を抜いているのは謝るよ。でもこっちの事情だって理解してほしい。最近冒険者試験で再取得の人間が活躍しちゃって本来ならまだダンジョンに入れない実力の人間が合格しちゃう事例が多いんだよ。だから再取得の人はある程度初心者に実力を合わせようっていう暗黙の了解ができちゃっているの。」
そういうとさすがに彼女たちは引き下がったようだった。
「不満だけど仕方ないのね。でもそれなら私たちのことを全力でサポートしなさいよ」
「理由はわかりましたが、次サポート役すら手を抜き始めたら後ろから魔法で狙いますからね」
「けんかにならなくてよかった…」
俺は彼女たちの怒りを買わなくてよかったと心底思った。
◆
「おつかれ~、スライム8体討伐できたね」
「こっちのゴブリンも8体だ」
2時間が経過して残る敵はコボルトだけ。途中ゴブリンと戦闘中に別のゴブリンの集団がが襲ってきたせいで予定外の戦闘が発生したがそれ以外は完璧といえるだろう。
だが問題もある。
「コボルといないね」
「そうだな。おい湊、コボルトってどこにいる?」
「基本的には2階と3階にいる」
「でもいくら探しても見つからないわよ」
「もしかして他のチームが全部倒しちゃったとか?」
「あり得るかも」
「じゃあ3階に行くか」
コボルトがどうしても見当たらないので俺たちはダンジョンの第3層に降りていく。それはそうとチーム内での俺の評価が若干戻った。とはいってもマイナスがゼロのなっただけなんだけどね。
「とはいっても不気味なほどにいないね」
「ああ、さっき遭遇した他のチームもそう言っていたな」
本来ならいるはずのモンスターがほとんどいない。不気味なほどにだ。俺も初めて見る状況だ。
「さすがに不気味すぎる。一回入口まで戻ろう」
「そうだね。それがいい」
「道中で会った人たちにも情報を伝えましょうか」
俺たちは一度来た道を引き返してダンジョンの入り口に向かう。だが戻っている最中に事は起きた。
ビーッ、ビーッ、ビーッ
突然鳴り響く警報音。この音は冒険者試験で必ず聞かれる問題だ。ダンジョン内での異常事態、すなわちスタンピードってやつだ。
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