第11話 名前
お題 ①犬 ②サル ③カエル
わしは老いぼれのカエル。今は5月じゃ。最近、雨と晴れの日が、何度も交互に訪れる。数日雨が降り、2日くらい晴れたと思ったら、急に大雨になる。かと思うと、次の日は夏日になって、すごく暑い。そんな繰り返し。まったく、変な天気じゃ。
5月9日。わしは小さな公園にいた。夕方から雨が降りそうでな。ちょっと嬉しくて、散歩にでも行こうと思ったんじゃ。
公園のアジサイの葉の陰でのんびりしていると、遠くから少年と大きな犬が歩いてきた。犬の方は、ゴールデンレトリバーってやつじゃったかの。亜麻色でふさふさの綺麗な毛並み。あんた、手入れがよくされておる。可愛がってもらってるんじゃな。良いことだ。
公園の水飲み場で、少年と犬が水を飲んでいる。
「りの! 行こう!」と少年が、犬の首輪から伸びた紐を引っ張った。……あんた『りの』って名前なんじゃな。
わしら野生の生き物の大半は、名前が無い。生き物としての分類や種族を区別するための名前はあるが。やはり『りの』みたいに、特別な呼ばれ方もしてみたいなあと、たまに思う。もうわしは老いぼれゆえ、あまりそうも思わなくなったがな。
野生の猫や鳥は、いつも同じ場所に居ると、まれに人間から特別な名前を授かることもある。そんな光景に出会った時は、ちょっと良いものを見せてもらったなと思えて。微笑ましい。
ああ、ただ。昔、野生のサルの小僧が人間の家にいたずらをして、なんだか不憫な呼ばれ方をしていたこともあったのう。わはは。名づけも、色々だな。可愛がられるか、煙たがられるか。それは皆、出逢い次第。
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