11.グリフィンのグーちゃんとグリちゃん

 靴を脱いで、タート達もみんな首を伸ばして、僕達は泥に入るには準備万端。だけど……。なかなかママと、ママに質問をしに来た人のお話が終わりません。質問をしてきたのはセイントさん。ちょっと前に僕のお家では働き始めたばかりの人です。


 だから分からないことがいっぱい。本当は働き始めたばかりだから、他の人と一緒に仕事をしているんだけど。でも今はその一緒に働いている人が、何か道具を取りに行っちゃっていて。その間に分からないことが。

 そうしたら近くにママがいて、お話を聞きに来たみたい。しかも説明するのに、見せた方が良いって、ちょっと離れた別の魔獣さんの小屋に行ってお話ししてるんだ


 お仕事のお話は大切なお話だから、お邪魔はしちゃダメだけど。でも、僕達いっぱい待っています。早くみんなで遊びたいのに。


 それからも続くママ達のお話し。僕もタート達もグテってなっちゃったよ。僕は座ってぐてぇ。タート達はお腹を見せてぐてぇ。なんとタート達は、亀みたいな姿で動き方も亀と同じなのに。自分でお腹を見せることができるんだよ。


 そう、魔法でひっくり返るんだ。タートは水の魔法と風の魔法がとっても上手。だけどそれぞれ得意な魔法は違っていて。今僕の近くでお腹を見せている子は、風魔法でひっくり返って。1番遠くにいる子は水魔法でひっくり返ったの。


 こうやって、敵がいなくて、絶対に安全って分かっている時は、お腹を見せてぐてぇってするんだ。後は交代でグテっとするの。この前は横になっている子がいて、僕ビックリしました。今は、あんまりママが遅いから、ぐてぇとしちゃっています。


「ママ、おそい」


『ボ』


「はやく、あそびたい」


『ボ』


 みんなもそうだって。タートの鳴き声は『ボ』とか『ブボ』とか色々。今のはそうだねって言ってるはず。


 そう僕達がお話ししている時でした。僕達の斜め後ろ、タートの小屋の隣の方から、僕達を呼ぶ声が聞こえました。


『グワアァァァ!!』


「グーちゃん、なぁに?」


 タートの小屋の隣にあるのはグリフォンっていう魔獣の小屋と柵です。大きな鳥って感じ? 大きなタカ? ワシ? とにかく大きな鳥さんだよ。パパや僕、ママが一緒に背中に乗っても全然ゆるゆるなくらい、とっても大きいの。


 それでこのグリフォンの小屋にいるのは、グリフォンのグーちゃんと、グリちゃんです。パパが魔獣園を始めて、最初にお家に来たのが、この2匹のグリフォン。なんか凄く酷い怪我をしていて、治るまでに何年もかかって、やって治ったんだよ。


 本当はね、グリフォンはとっても危険な魔獣なんだって。街を襲ってきたり、旅をしている人達を襲ったり。そしてとっても強いんだ。だからもしグリフォンが襲ってきても、倒すのがとっても大変で。そのせいで何人も怪我をしちゃう時もあるんだって。


 だから最初、ここにグーちゃんとグリちゃんが運ばれてきた時、街の人達はグーちゃん達を追い出そうとしました。それかやっつけちゃえって。グーちゃん達は人を攻撃しようとしたから。


 でもパパもママも、絶対にグーちゃん達を助けるって言いました。あのね、グーちゃん達が人を攻撃したのは、人がグーちゃん達に、しちゃいけない事をしたからだったんだって。えと、確かグーちゃん達の仲間の卵を盗んだの。


 グリフォンは危険って言われているけれど、ほら攻撃してくるって言ったでしょう? でも攻撃してくるグリフォンと、人を攻撃しないグリフォンは半分半分で。だから襲ってこないグリフォンに人が何もしなければ、普通は攻撃されないんだよ。


 グーちゃん達も攻撃をしないグリフォンでした。なのに大切な卵を取られて、卵を取った人達を攻撃したんだ。それなのに卵を取った人達は嘘をついて、グーちゃん達が何もしないのに攻撃したって言ったの。


 だから強い人達がグーちゃん達を攻撃。でもおかしいと思ったパパ達が調べて、グーちゃん達が悪くないって分かったんだよ。それで急いで攻撃をやめてもらってお家に運んだの。だけど1度襲ったんだからって街の人達は反対して。


 それからパパ達とパパのお友達が、街の人達といっぱいお話しして。街の人達に分かってもらえたんだ。それからぐーちゃん達はずっとお家にいます。


 パパが魔獣園を作ったのは23歳の時。それから28歳の時に魔獣園以外のお仕事をやめて、その時に僕が生まれたって。グーちゃん達の怪我が治ったのは僕が生まれる少し前。

 それで僕が生まれてから少しして、自然に戻そうとしたんだけど、絶対に動かなかったから、お家にいる事に。


 ん? そういえば、僕が生まれてから自然に帰そうとした魔獣は、出て行かないでお家に残る魔獣が多いような?


「グーちゃん、どうしたの?」


『グワァ』


 僕は立ち上がってグーちゃん達の方へ。グーちゃんは他のグリフォンよりも大きくて、グリちゃんは普通サイズ? グーちゃんって名前とグリちゃんは、僕が考えたんだよ。


 あのね、僕は時々『しゃ』とか『しゅ』って言っちゃうでしょう? 前はもっと上手くお話しできなくて。グリフォンって言えなかったんだ。だからグーちゃんとグリちゃんって呼んだの。


 本当は自然に帰るかもしれない魔獣さんに名前を付けちゃいけないんだけど、グーちゃん達が気に入ってくれて、パパがもうそのままで良いって。


「あのね、これからどろんこするの。でも、ママのおはなしおわらないの」


『グギャア?』


 グーちゃんが『グワァ』で、グリちゃんが『グギャ』って鳴きます。


「ぼく、まほ、できないからまってるの」


 たぶんグリちゃんは、自分で泥作らないのか、って言ったと思うんだ。


『グギャア、グギャ』


『グワワ! グワアァァァ』


 グーちゃんがグリちゃんを軽く押しました。それから僕の方を見て、ニヤッと笑って……。

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