第65話 奪われた物と差し出した物
「どうしてこうなった……」
「戦場にばかり立っていると、人は心を病む。平気そうにしている人間ほど、色々溜め込むモノだって言っていた。発散出来た?」
隣に寝転がるキリが、そんな声を上げて来るが。
もはや茫然とするしかなかった。
俺、隊員に襲われました。
「駒使い、腕枕が欲しい」
「あ、はい」
言われるがまま腕を出してみれば、布団の中でモソモソと動きながらピタッと此方の体に身を寄せるキリ。
もはや言葉にするまでも無いかも知れないが、ほぼ何も着ていない彼女の体はまるで張り付く様に此方と密着した。
温かいです、はい。
「それじゃ、本題……話す?」
コレが所謂ピロートークってヤツなのか、些か今から話そうとしている内容は物騒な事になりそうだが。
やけにくっ付いて来るキリを腕に抱きながら、彼女の言葉に耳を傾ける。
「色々と話す事があるけど、私が覚えていられた内容だって事は駒使いも理解してる筈。だから、警戒は怠らないで」
そんな言葉を風切りに、彼女は過去……いや、未来を語り始めた。
何度目かのループかは分からないが、とにかくキリは“駒”の中で最後まで生き残る存在になる事が多かったらしい。
戦死だったり、寿命だったり。
様々な状況に置かれる俺達の中で、彼女は高確率で“最後の一人”になったとの事。
そして全てを失ったかの如く、俺は荒れた……という訳ではないらしい。
どうしても調べたい、次に繋げる為の何かを探して生き足掻いたのだとか。
「私にも結構色々な記憶が残ってる、だからちゃんと順番に話せるか分からない」
「それでも良い、聞かせてくれ」
「じゃぁまず結論というか、大事な所から。シリンディーアは世界に関与する能力を持っている、それは資料に書かれている事が全てじゃない。そしてもう一つのスキルは、“強奪”。駒使いの“分配”同様に、様々な副作用や下準備がいる。駒使いが使った後を考えるスキルなら、向こうは使う前を考える様なスキル」
どういうことだ?
“強奪”なんて、名前だけ聞けば物凄く強力なスキルになり得そうだが。
「文字通り、“強奪”は相手のスキルを奪い取る。その副作用として、相手の命も同様に奪う事になる。つまり、一度のループで一人から奪えるのは一度きり。だからこそ、相手は最高のタイミングを待っているのが、今の状況」
「待て、待ってくれ。つまりシリンディーアは以前国に居たエルフに“強奪”を使用した張本人。しかも今度は俺に眼を付けている、という事で良いんだな? しかし何故だ? どうして彼女は俺の能力を知っている? しかも今聞いている限りだと、俺の“演習”に近い能力が無い様に聞こえる。“世界干渉”とやらが、似たような能力なのか?」
聞けば聞く程混乱していく、やはり現状は相手から二手も三手も遅れているという事は理解出来たが。
しかしキリは俺の胸に額をグリグリと押し付けた後、悲しそうな瞳を此方に向けて来るのであった。
「違う……って、前の駒使いは結論付けた。もしも同じような能力であれば、駒使いに固着する必要がないから。あの女にない絶対有利な能力を駒使いは持っている、だから狙われる」
「それは、なんだ? 他にも俺に思い出せていないスキルがあったりするのか?」
その質問に、キリは静かに首を横に振った。
そして。
「スキル“演習”、コレが狙われる全ての理由。本来ならあり得ない、何度でもやり直して最善の道を選び直せるスキル。コレを使いこなせば、リスタートの位置さえ自分で決められる。寿命の長いエルフにとって……ううん、他の人にとっても。これは喉から手が出る程欲しいスキル」
ちょっと待って欲しい、それでは大前提が崩れる。
だって相手は間違いなくループしているのだ。
そうでなければおかしい、召喚前から俺を知っている事自体が変なのだ。
それに、そんなに欲しいなら無理矢理にでも奪えば良い。
パーティー会場でもチャンスはあった。
俺からスキルを奪い、その後やり直せば彼女の中にスキルは残る筈だ。
戻ったら失われるという状況だった場合、彼女はむしろ積極的に俺を手元に置こうとするだろう。
だというのに、あれから接触がない。
では、これはどう言う事だ?
ひたすら混乱する俺の瞳を、キリは静かに見つめながら。
「スキル“強奪”、こっちに問題がある。その能力は一度発動させれば確実に相手の命を蝕む、即死ではないにしろかなり相手の寿命を奪う結果になる。でもスキルの方は、“理解”していないと奪えない。逆に言えば、“駒使いはループする力を持っている”と理解した状態で奪えば、多少でもその能力を奪える。でもそれは全部じゃない。この意味が、分かる?」
思わず、ゾッと背筋が冷えた。
未だ詳しい事までは分かっていないが、俺の予想が正しければ。
「相手は一度俺に“強奪”を行使している、そこでループ能力の一部を手に入れた。その力を完璧な物にする為に、俺という存在をマークしている」
「その通り。でも、前の駒使いもソレはすぐに気づいた、だからこそ……一か八かの賭けに出た事もあった」
「まさか……」
「“分配”を、シリンディーアに行使したの」
「そんな無茶な!」
思わずベッドから起き上がり、怒鳴り声を上げてしまった。
“分配”はこちらの情報すら相手に渡す事になる。
だと言うのに、俺は何をやっているんだ?
「そう。無茶な作戦な上、賭けだった」
「どういうことだ?」
「駒使いは自らの情報の一部を差し出す代わりに、“世界干渉”のスキルを手に入れようとしたの」
「……え?」
「“世界干渉”のスキルは、はっきりと出来る事が分かっているスキルじゃない。異世界召喚を行う際に使えば、能力持ちが人が多く召喚されたり、世界で何か大きな変化が起きれば“何となく”分かる程度の能力だって言ってた。でも、これが“演習”と合わさると……」
「ちょっと待ってくれ、今の言い方だと……俺は」
段々と事態に着いて行けなくなっていた俺は、狼狽した声を上げるが。
彼女は強い眼差しを此方に向けながら、確かに頷いて見せた。
「駒使いは、“世界干渉”のスキルの片鱗を手に入れてる。過去に自分の姿が見えたことは無かった? ソレがその力を使った、言わば昔の駒使いからの遺言だよ」
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