第64話 新たな事実を探る為に
「アール、それは本当か?」
「うん、周りの奴らがすげぇ連呼してたから覚えちまっただけなんだけど。俺が最初に会ったヤツだと思う。どいつもこいつもシリンディーア様の為にーとかって言って、超キモかった。それに俺、最初から人間を相手する前提で呼ばれたっぽいんだけど……」
どういうことだ?
アイガスに視線を向けても、こればかりは知らないと首を横に振られてしまった。
彼女は他国を行き来する事から、確かにアールの居た国に顔を出していた可能性はある。
単純に協力関係が得られず、現在も此方の国と敵対しているというのなら分かるが……。
「アールを召喚したのも彼女だとするのなら、おかしな話だ。そもそも彼女が国に提示している仕事内容と異なる上に、各地で召喚を乱発して互いに戦わせようとしている様に思える。アール、お前が“こちら側”に来たのはいつだ?」
「正確にはわっかんないけど……多分何年か前。ずっと牢屋か訓練場にしか居なかったからマジで分かんないけど、でもかなり長い事過ごしたよ。そんで、名前聞いて思いだしたけど……おかしいんだよ」
「と言うと?」
皆揃ってアールに視線を向けるなか、彼は眉を顰めながら自らの魔剣を引き抜いて眺めた。
「コレ、アイツが俺にくれたんだ。今だからこそ先生の事を思い出せてるけど、最初は訳わかんなくてさ。“こっち側”に来た時なんて、“貴方はクロセが強くなる為に必要だから”とか何とか……その頃からアイツは先生を認識してたって事だよな? でもそれっておかしくねぇ?」
その言葉に思わずゾッと背筋が冷えた。
もはや間違いない。
彼女もまた、ループしている。
それどころか、俺が“こちら側”に来る前から準備を始めていた。
そして何より、“奪われる”と言っていた過去の俺。
詰まる話、俺はそもそも彼女の糧となる為にこの世界に呼ばれた可能性さえあるのだ。
「ちょ、ちょっと待った。色々おかしくねぇか? 大将が召喚されてから、まだ一年経ってないぜ? だって言うのに、何で数年前にそのエルフ? は大将の事知ってるんだよ」
「そうですよね、何か変です。まるで駒使いさんが此方に来ることを知っていたみたいに。それに強くするって……わざと他の国に戦力を与えて、駒使いさんに試練を与えているみたいな……」
ケイとロナもそんな事を言い始め、他の面々も難しい顔で唸り始めてしまった。
これは、そろそろ俺のスキルに関して皆に説明するべきだろうか?
そうすればこの疑念に関しては解消できる上に、対策を話し合える。
だからこそ俺の事を包み隠さず話そうとした、その時。
「駒使い、今はまだ駄目」
キリが、小さく呟きながら袖を引っ張って来た。
いったい何を……。
「相手もまだ、駒使いのスキルを完全に理解している訳じゃない。今この場で話して、もしも仲間の中から裏切り者が出た場合、取り返しがつかなくなる。せめて遠征中とか、すぐに戻れない場所じゃないと不味い」
「キリ……?」
普段から見ていた筈の狙撃手の彼女が、今だけはまるで別人の様に見えた。
随分と鋭い眼差し、落ち着いた様子。
そして何より、いつもの彼女よりずっと大人びた雰囲気を放っているのは何だ?
まさかとは思うが、この子もまた。
「私も、記憶の共有者。しかも、最後の一人になるまで駒使いの傍に居た生存者。私は多分、答えに近い所まで知っている」
これはまた、とんでもない事になって来たものだ。
※※※
「あんな中途半端に終わらせてしまった良かったんですか? 駒使い」
「一旦、というだけさ。また後日話し合う必要があるだろうな」
その後食事を終え、本日は一度解散という形を取らせてもらった。
後ろから付いて来るソーナは少々不満気だが、今は他に急ぐ事があるので致し方なし。
「新たな情報提供者……が見つかった。何でも今夜俺の部屋に来るらしいから、監視の目は遠ざけて置いてくれ」
「待ってください駒使い、本来なら逆の命令になるはずでは? 警備を薄くしろっておかしいですよね、相手は信用に足る人物なんですか?」
まぁ、当然そういう反応になるよな。
とはいえまだどんな情報が飛び出して来るのか、彼女がどこまで知っているのか。
そして何よりあの時の態度、むやみに情報を提示する様な真似は控えろと言わんばかりだった。
まるでこれから、誰かが裏切るかの様な物言いで。
ならば話を聞き、自分なりに情報を整理してからの方が良いだろう。
「問題ない、相手は間違いなく仲間だ。俺に危害を加える事はない」
「それってつまり……駒の誰か、もしくは今日居たメンバーの誰かという事ですか?」
「すまないが、今はまだ話せない。色々と気になる点が多過ぎてな」
「……了解しました、駒使いがそう仰るなら」
渋々ながら引き下がったソーナは、ちょっとだけ耳と尻尾が垂れていた気がするが。
それでも俺の部屋に到着と同時に大人しく来た道を戻り始めた。
さて、あとは彼女を待つだけになった訳だが。
「本当に、何が何だか……」
思い切り溜息を吐いてからベッドに腰かけ、枕元に置いてあった酒瓶に手を伸ばす。
最近街に帰って来る度、少し飲み過ぎな気がしないでもない。
それだけストレスが溜まっているという事かもしれないが、ソーナ辺りにはまた怒られてしまうかも知れないな。
何て事を思いながらグラスに酒を注ぎ、グッと喉の奥へとアルコールを押し流していると。
コンコンッと小さく扉がノックされた。
「どうぞ」
「うい、お邪魔します」
ひょこっと顔を出すのは、戦場では随分と助けられた犬耳を生やした狙撃手。
いつもだったらこの光景に和んでいる所だが、今日だけはそういう訳にもいかなかった。
「来たか、キリ。約束通り人払いは済ませたんだ、話してもらうぞ」
「うい、すぐ準備するね」
「準備?」
部屋に入って来たキリは、寝間着……というよりバスローブの様な物を羽織っており、此方に近付くと同時にソレを脱ぎ去った。
その下から出て来たのは随分と派手というか、官能的な下着姿。
普段から彼女はこんなものを着ているのか? とか考えてしまったが、馬鹿か俺は。
間違いなく“そういうつもり”で、彼女はここへ訪れたのだろう。
「待て待て待て、どうしたキリ。君は普段そういうキャラじゃないだろう、“そう言う事”にだって、全然興味無さそうだったじゃないか」
慌てて彼女の脱ぎ捨てたローブを拾おうとしたが、あっけなくベッドに押し倒されてしまった。
ここに来て俺の身体能力の低さが身に染みるんだが、ちょっと悲しい。
「……そうでもない、よ? それに私が駒使いから聞いた内容は、大体ベッドの中で聞かせてくれたから。その方が私も、ちゃんと思い出すかもしれない。“分配”で分けてもらえる記憶は、やっぱり途切れ途切れだったりするから」
間違いなく彼女もまた、記憶の共有者である事は確定した訳だが。
待ってくれ、この状況はどうなんだ?
以前ソーナの時もこれに近い状態になった気がする、ここまで酷くは無かった。
というか俺、以前の俺。
カッコつけてフード被って、意味深な発言を残す前に節操を持て!
お前キリにまで手を出したのか!?
「というわけで、久しぶりに、いただきます」
キリはソーナほど優しくはないらしく、問答無用で襲い掛かって来るのであった。
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